世界一エコな音楽フェス 徹底されたゴミ分別や食品ロス削減対策 ノルウェーからの緑レポート
8月9~13日、「世界で最もエコな音楽祭のひとつ」といわれる、オイヤ(Oya)祭が開催された。前夜祭には80以上のライブ、4日間続いた本会場トイエンでは90以上のコンサートやライブが催された。本会場では1日に1万7500人ほどが動員され、前夜祭を含むと8万人もの人々が訪れたことになる(オスロの人口は約65万8000人)。
ノルウェーでも最大規模のポップ音楽祭とされ、国内を代表する大物アーティストのほかに、欧米からのゲストが招かれる。オイヤに招かれる音楽家たちは、数年後にさらにビックになっている可能性が多く、国内でも大手報道機関が記事を数多く掲載するほどだ。ノルウェー最大の全国紙アフテンポステンは、本会場で最も大きい舞台に限り、電子版で生中継する。
最大級の音楽祭でありながら、同時に「環境に優しい」ことに徹底的にこだわっているのがこのフェスの大きな特徴だ。「グリーンなフェス」として、欧州で複数の賞を受賞しており、他国からフェスの関係者が視察にくるほど。
93%のフェスごはんがオーガニック!
肉やファーストフード好きには物足りないかもしれないが、フェスごはんは驚くほどオーガニックとグリーンという言葉に徹底されている。
出店者はオスロで今最も注目されるグルメな飲食店ばかり。料理雑誌などでも話題となりやすい、「新北欧料理」といわれる、ローカルやオーガニックにこだわった、新風潮の料理ばかりが揃っている。
1皿100ノルウェークローネ(1220円)ほどで、実は、クオリティや現地の物価を考慮すると、高くない。1皿のボリュームが、もうちょっと多いと嬉しいが、おいしい地元の食を堪能するなら、オイヤほどおすすめ飲食店が集中している場所はない。オスロ市内でこれらの飲食店めぐりをしようとすると、移動が大変だ。
2015年のオイヤでは、35トンのオーガニックフードが消費された。
パッケージデザインの改革 廃棄予定だった麦を食器に
各屋台で使用されている、皿、フォーク、スプーンは、茶色でなにやらデザインが特徴的だ。実は、廃棄されるはずだった小麦ぬか(ふすま)で作られている。ノルウェーにはこのような製造業者はないため、ポーランドのBiotrem 社が手掛けている。
オイヤの緑企画班のリーダーであるイングリ・クレイヴァ・ムッレルさんは、「このお皿、食べられるのよ。あまりおいしくない朝食シリアルみたいな味がするけれどね」と語った。その取材の横で、たまたまランチをしていたノルウェー人カップルはその話を聞き、「え、そうなの!?」と、まじまじと自分たちのお皿を見つめていた。
この取り組みのおかげで、お皿は紙としてゴミ箱に分類されるのはなく、生ごみとして処理される。食べ終わった後に、食器ごと生ごみとして捨てられることは、面倒くささも省く。
徹底したゴミの分別
フェスの舞台裏に行くと、「緑の駅」と名付けられた場所が作られている。ここでは、「自然と青少年」団体から200人の若者ボランティアが集まり、会場から集まったゴミを15種類にさらに細かく分類している。この団体の活動は、これまでも別記事で紹介してきた。
「石油に依存するノルウェー、環境団体が首相に中指を立てる「くそったれ」」
2014年のオイヤでは、ごみの75%(35トン)がリサイクルされた。
子どもたちが楽しそうに、大人が捨てるゴミを拾う
ゴミ拾いをしているのは彼らだけではない。小さな子どもたちは、プラスチック製のビールやワインコップを必死に集めている。これは「パント」と呼ばれるシステムで、回収された際にお金に換金できる。子どもたちによっては、楽しいお小遣い稼ぎとなっている。
フェス期間中は20万個のコップが回収されるとされ、これをリサイクルすることによって、2トンの二酸化炭素と5620リットルの石油に値するエネルギーを節約したことになる。
食品ロスの削減、徹底したリサイクル
フェス内にあるトイレで回収された人間の尿と排便は、約25万トンほどが地元でのエネルギー発電に再利用される。
今年のフェスのグリーンなテーマが「食品ロスの削減」だ。過去記事でも紹介した、コーヒーの残りかすを石鹸として再利用する「グルーテン」のミッテトさんも、今年はフェス内で大量消費されたコーヒーを回収しにきた。またオスロの都会の中央で「農場」をつくる団体も、生ごみを肥料として再利用するために回収しに来た。
フェス終了後には、どうしても売り切れなかった食品が残りやすい。未開封の食品は、市内のホームレスや貧しい人々のための団体に無料提供される。
夕飯の残りのおかずを、ためらわずにゴミ箱に捨ててしまいがちなノルウェー人
実は、ノルウェー人は残った料理を再利用することが苦手だ。日本人在住者の間でも、驚くこととしてよく話題にあがるのだが、夕食後に残った食料は、冷蔵庫で再び保存されるのではなく、そのままゴミ箱に捨てられることが多い。「もったいない」と思わずにはいられない。
ムッレルさんは、このことについて、「ノルウェーでは、食料品の価格が安すぎるのです。とても残念でなりません。2世代ほど前の、私たちのおじいちゃんやおばあちゃんは、食品を大事にすることが上手でした。そのことを忘れてしまったのが、今の世代です」と語る。
フェスに参加する飲食店は、どの点でエコに取り組んでいるか評価・調査もされる。ノルウェーでは生産される商品の4分の一が無駄に廃棄されており、飲食店という業界は特に改革が必要とされる。
会場内のあちらこちらでも、いらなくなった服をエコバックに作りなおしたり、ヴィンテージの家具を当選者にプレゼントしたり、ゴミの分別について楽しく考える企画などが開催されていた。
音楽フェスといえば、大量の電気が使用されるが、オイヤではディーゼル供給の発電機を2010年に全面廃止し、水力電気でまかなっている。会場内の移動で使用される乗用車の多くも電気自動車などにこだわる。観客には、自転車で来る人も多い。
「ノルウェーは水力や風力発電で恵まれている国。オスロ市内であれば、すでにこれらのエネルギーはもっと利用可能なのです。まだディーゼル発電機にこだわる風潮があるのは、“今までそうしてきたから”という古い習慣が原因なのでしょうね。オイヤは、オスロ市議会にも働きかけ、このような昔ながらのエネルギー使用に終止符を打つように訴えかけています」と、ムッレルさん。
矛盾と課題 「誰かが拾うだろう」と、コップを芝生に捨てる観客
しかし、全てがまだまだエコというわけではない。フェスの関係者はエコを意識していても、観客はそうでもないということを、感じざるにはえられなかった。現地メディアは、エコなごはんのことは、「どこが一番おいしいか」という視点で報道するが、「環境に徹底したフェス」という観点での報道はほとんどない。むしろ、あまりにも政治的で、特定のライフスタイルを推奨(強要)している点で、「緑の環境党」すぎないか、と指摘する報道もある。
また、子どもやボランティアが、まるで人間掃除機のようにゴミを拾ってくれるということを、観客はわかっている。そのため、「誰かが拾うだろう」という無意識からか、芝生にコップやタバコの吸い殻を捨てている人が目立った。特に、ゴミ拾いをする人の数が減る、雨の日はその光景が顕著だった。
これは、オイヤだけではなく、ほかにも「環境にこだわっている」と自負する、山奥で開催されるヴィンニェロック(Vinjerock)祭でも感じたことだ。捨てられたゴミをすぐさま掃除するのは、スタッフだ。
「誰かが掃除してくれるだろう」という環境づくりは、必ずしも、観客自身のエコ意識改革へとはつながらない。
「記事をどう書こうかな」と、芝生の上で筆者が考えている中、目の前で、観客がコップをためらいもなく芝生の上に捨てた時は、一瞬とまどってしまった。
フェスを支えるボランティアたち
オイヤを支えているのは、無償で働くボランティアたちだ。フェスとしてはすでに商業的にも成功を収めているので、労働者には対価を払ったほうがよいのではとも思う。しかし、ボランティアたちは、オイヤへの無料チケットがもらえることもあり、楽しみながら働いている(オイヤは、開催前にはチケット完売が一般的)。
オスロ市長のマリアンネ・ボルゲンさんは、ボランティアが集うテントを訪問し、4時間もボランティアにランチを配布していた。
「ボランティアがいなければ、オスロのイベントは開催することが不可能。市民と交流できることも楽しいですし、彼らを直接応援するためにも、できるだけ他のフェスやイベントも訪問するようにしています」。市長は、オイヤが環境にこだわり、世界的にもエコなフェスとしてリードしていることを誇りに思っていると語った。
オイヤは2017年は8月8~12日に開催予定。オスロ中央駅からすぐにアクセスできるため、旅行者にも非常におすすめできるフェスだ。1日フェス、1日オスロ観光を楽しんだ後に、ベルゲンまでフィヨルド観光する夏のバカンスもいいかもしれない。
インスタグラム(@asakikiki)には、オイヤでのコンサートの動画レポートを掲載中
出演アーティストについては、「地球の歩き方 オスロ特派員ブログ」に
Photo&Text: Asaki Abumi