創業者か、「女性」創業者か?北欧で考えるジェンダー格差解決策
世界経済フォーラムが発表する世界ジェンダー格差報告書によると、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位だった。アイスランド1位、フィンランド2位、ノルウェー3位、スウェーデン5位と、北欧諸国は上位常連である。
日本国内をみてみると、「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」では、北海道は政治分野で11位だが、行政・教育・経済の3部門で47位と全国最下位を記録している。
北欧諸国では、スタートアップやイノベーションの大規模な催しが開催されているが、起業や投資の世界では未だに女性やノンバイナリーの姿が少ないことが問題となっている。そのため、多様性ある業界にしようとする取り組みが活発だ。
ノルウェーのオスロ・イノベーション・ウィークでは、北海道初の国際スタートアップカンファレンス「Hokkaido Innovation Week」が毎年参加している。北海道で女性創業者を増やすためのヒントを得ようと、北欧と日本から、女性投資家、創業者、スタートアップエコシステムの推進者たちが集まり、議論の場が設けられた。
主催したのは「Hokkaido Innovation Week」の創設者・田中 美帆さんだ。
スウェーデンやノルウェーからの参加者たちは、そもそも2位でも3位でも、平等への道のりは「まだまだ遠い」と、満足しているという態度は全く見せなかった。
挙げられた北欧の課題
- 多くの場合、女性創業者たちは会社をすぐに売却してしまい、所有権を失いがち→問題:統計に含まれるのは所有権(女性は統計から消える)
- 男性的な空間で同じような自信を持てない女性起業家としての状況(男性が圧倒的多数の場では、男性たちのルールに従わざるを得ないこともある
- 幼稚園・保育園制度などのサポート、男性も家事・育児をすることが当たり前にならなければ、女性は巨大なビジネスを構築することはできない
- 様々な抑圧を受けてきたこともあり、女性は時に感情を出すが、ビジネス界では、感情を持つことは悪い資質であるとよく言われる→自分を変えないといけないのか?
- 多様で身近なロールモデルの欠如(有名な人である必要はない)
「創業者」か、それとも「女性創業者」か?
「男性創業者」という言葉に比べて、「女性創業者」という言葉はよく見聞きする。より公平な競争の場を作るために、「女性」という「別個のカテゴリー」として扱う必要は、そもそもあるのだろうか?
ビジネス用SNSのLinkedInで、田中さんは「創業者と呼ばれたいか、女性創業者と呼ばれたいか」を尋ねたところ、88%が創業者と呼ばれたいと答えた。
「女性」というラベルを貼られて、「もやもや」する気持ち。この問題は複雑だ。複数の文化が関わっており、国によって見た目や服装など、あらゆる点で違いが発生する。つまり、女性創業者であるということだけでなく、「女性移民創業者」「背の高い女性創業者」など、さまざまなインターセクショナリティ(交差する、いくつもの差別)の可能性も隠れている。
投資家であるRaja Skoglandさんは、呼称について正直な思いを打ち明けた。
「私は、恐らく女性であることをそもそも気にしていません。人によって意見は異なるでしょう。でも、実際は気にしないし、ただ私はそこにいるだけ。私には使命がある。ビジョンがある。提供できるものがある。それを取るか、捨てるか。次に進むのみ。私はレッテルを全く気にしない」
ここまでハッキリと口にできる人は少ないだろう(筆者はジャーナリストとして、アジアからの移民女性であることを至る所でリマインドされる)。会場では「この状況を打破するなら、私たちは、この女性創業者の用語にこだわり続ける必要がある」という意見も出た。
女らしさ・男らしさの呪縛
Raja Skoglandさんは、自分のことを「男らしさが強め」というが、同時に感情的な側面もあることに触れた。
「私は自分の感情を話します。チームに怒りをぶつけ、フラストレーションやストレスをぶつけることもある。なぜなら、これが私だから。私たちはありのままの姿で受け入れられることができます。その中間点で互いに学び合う必要があります。ですから、男性から学びましょう。そして、男性にも女性から学んでもらいましょう。ありのままの私たちを受け入れてもらえるように。そして、それは可能だと思います」
ビジネス空間での新しい「話し方」を学ぶ必要がある
ノルウェーのファッションブランド「AS WE ARE NOW」の創業者であるAnette Miwa Dimmenさんは、男性のルールを学び、従わざるを得ない空間になりがちな現代で、女性たちはビジネスについてもっと自然に話す方法を学ぶ必要があると考える。「そのためにも今回のイベントのような、恥をかかずに練習できるミュニティが必要だ」と。
「男性ばかりの空間に女性が入室した時に、即座に感じる『とても男性的な空間だ』という感覚を、男性は理解していないかもしれません。たとえ女性として自信があっても、自信が持てない場所に足を踏み入れることになります。女性として学んできたことが、その場所ではまったく評価されません。ですから、新しいコミュニケーションの方法、新しい条件を学ばなければなりません。つまり、ほぼ100%の状態でやり直すようなものです」
「私は、起業家であり、創業者であり、なぜなら、私は、平等だと感じているし、平等に扱われたいと思っているから。でも、統計的には平等ではないことも認識している。ですから、私は、今こそ、そうしたコミュニティを育成し、女性としての主張ができるような会話のレベルに達するための学習が必要な時期だと考えています」
「ですから、その点では、女性起業家や女性創業者と呼ばれることを嫌がりません。なぜなら、私はその価値を改めて認識しているからです。女性が支配したいと思っているわけではありません。私たちは男性を排除したいわけではありません。私たちはただ、平等な立場になりたいだけなのです。そして、そこに到達するには、それをある意味でラベル付けすることが必要だと思います。知識や認識を生み出すためではなく、知識は多くのことの鍵となります」
本当に女性候補者は少ないのか?
ノルウェーの起業家&投資家であるLinn-Cecilie Linnemannさんは、「女性投資家が少ない」という言説に「本当にそうなのかな」と思っている。
「『VCで働きたい女性を見つけるのは難しい』『創業者の女性を見つけるのは難しい』とよく聞きます。でも、先週のデンマークのイベントでは100人の女性たちが集まっていました。つまり、女性たちはいるのです。ただ、ネットワーク内のそういった人々をもう少し注意深く見つけ、また、それを口にしなければならないのでしょう」
「本当に、この業界に女性がいないからなのか? 本当に? それは本当なのか。それとも、業界の一部分だけしか視界に入っていないから、そう思うのか?自分たちのネットワークだけを見ていて、視野を広げていないということなのか? だから、私は、男女が混ざってこうした議論を行うことが重要だと考えています」
執筆後記
このようなマイノリティが集まる場には「セラピー効果」があるなと筆者は日頃から感じている。実際、イベント後半では会場から出席者たちが次々と手を挙げて、胸の中にある言葉を必死に言語化していた。中には涙を流す人もいた。主催者が「安心できる空間」を提供できていなければ、登壇者や参加者たちが自由に思いを共有することはできなかったであろう。
日本国内では北海道のジェンダーギャップ格差はまだ低い。だが、京都出身の田中 美帆さんに「Hokkaido Innovation Week」のトップの座を譲る札幌の人たちの意識はそれとは反するものでもあり、希望でもある。
正直、田中さんのリーダーシップにも驚いている。北欧のこのようなスタートアップの催しに参加する日本の企業は多いが、北欧現地でジェンダー格差に関するイベントを主催して学ぼうとする率先力は極めて珍しいからだ。
昨年も、北海道の代表としてオスロ・イノベーション・ウィーク中にイベントを開催しようとしたとき、日本からの女性の登壇者の少なさをノルウェー側から指摘されて、日本の現状との間で挟み撃ちになって、もがいていた田中さんを見ていたので、1年経っての田中さんの成長ぶりに、実は感動している。
ジェンダーギャップという構造問題は一人、一社、一カ国で解決できるものではないので、このように国境を越えて、思いや感情を言語化して吐き出し、互いから刺激を受けて連帯していくことも必要なプロセスだ。
最後に、どの国にもまだジェンダー格差問題はあれど、「起業にこれほど良い時期はないことも事実。これほどまでに民主化され、これほどまでに何かをするためのツールやネットワークが利用可能になったこともない」と会場では締めくくられた。
マイノリティの立場にある起業家や投資家がひとりで負担を背負い込まないように、旅の途中で思いを共有できるコミュニティの場は、日本でもっともっと誕生するといいなと思う。