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ノルウェーのエコライフの達人 「コーヒー豆の残りかす」を再利用。生ごみを捨てるなんて、もったいない!

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
コーヒー消費率がトップのノルウェー Photo:Asaki Abumi

ノルウェーで有名な、コーヒー豆のリサイクルの達人

エコライフに注目が集まるノルウェーで、コーヒー豆の「かす」を再利用する達人がいる。そう、コーヒーを淹れた後に生ごみとして捨てられる、あの「かす」だ。グルーテン(Gruten)社を経営するシーリ・ミッテトさんは、コーヒーのかすを有効活用するスペシャリスト。国内のテレビや雑誌などによる環境特集では、ミッテトさんがよく紹介されている。

コーヒーの消費率が高い北欧。ノルウェー人は1年で1人当たり160リットルのコーヒーを消費し(1人1日3杯)、首都オスロでは毎日10トンものコーヒーかすが捨てられている。「コーヒー豆は多くの栄養素を含むが、私たちが体内に取り込む量は豆の1%のみ、99%がゴミとなってしまいます」とミッテトさんは語る。

生ごみも、運搬され、燃やされるまでの過程で排出ガスを出し、環境にいいとは言えない。「もったいない」。ミッテトさんは、かすを再利用する活動に取り組み始めた。今、彼女の手によって、「オーガニックのスクラブ石鹸」、「生ごみを処理するミミズコンポスト」、「キノコを育てる肥料」として、新しい命を吹き込まれている。

オーガニックのコーヒー石鹸!

コーヒー石鹸 Photo:Asaki Abumi
コーヒー石鹸 Photo:Asaki Abumi

ラベンダーの香りがするスクラブ石鹸は、現在オスロの10店舗以上のカフェで販売されている。オーガニックなど良質のコーヒーにこだわるカフェに協力してもらい、無料でかすを提供してもらう。お店側も、捨てるはずだったゴミが石鹸になることを喜ぶ。北欧を代表するカフェ「ティム・ウェンデルボー」も協力店だ。実は、筆者も石鹸を毎日利用しており、旅行者にはお土産としておすすめだ。

ノルウェー国営放送局がコーヒー石鹸を紹介したことから、ミッテトさんの活動がその後大きく注目を浴びるようになった。彼女は今も、電気自転車に乗りながら、カフェを回ってコーヒーかすをもらっている。電気自転車にこだわる理由も、環境のためだ。

EV普及先進国ノルウェーで、ミッテトさんは電気自転車をこぐ Photo:Abumi
EV普及先進国ノルウェーで、ミッテトさんは電気自転車をこぐ Photo:Abumi

コーヒーきのこ!

キノコ菌とコーヒーかすを混ぜる Photo: Asaki Abumi
キノコ菌とコーヒーかすを混ぜる Photo: Asaki Abumi
できあがったキノコ袋に満足するへプセさん Photo:Asaki Abumi
できあがったキノコ袋に満足するへプセさん Photo:Asaki Abumi

できるだけ多くの人にエコライフを広められるように、頻繁に講座も開催されている。今、一番人気があるのは、「コーヒーかすを肥料とするキノコ栽培」だ。ヒラタケ科のキノコなら育てることが可能。

講座に参加したマーリット・へプセさん(34)は、毎日何杯ものコーヒーを飲んでいるという。

「環境にフレンドリーな方法で、キノコ栽培ができるのは楽しそうだと思いました。まるで、赤ちゃんを家に連れ帰るような気分」。これから育つであろう、キノコ菌とコーヒーかすを混ぜた袋をもって、楽しそうに語った。

ちなみに、コーヒーかすを使っていても、キノコにはカフェインは含まれず、コーヒー味にはならないそうだ。

ミミズコンポスト

ミミズがもぞもぞ動いているバケツの中 Photo:Asaki Abumi
ミミズがもぞもぞ動いているバケツの中 Photo:Asaki Abumi

ミミズとコーヒーかすを使った生ごみコンポスト容器作り。「ミミズ!?」と思う人がいるかもしれない。「大人は懐疑的になりやすいが、屋内で育てるミミズ堆肥は、ペットのようなもの。10才以下の子どもたちは、わくわくして喜びますよ」とミッテトさん。雪国ノルウェーでは、屋外でよりも、屋内での堆肥づくりが向いているという。コーヒーかすと一緒に、バナナなどの生ごみや卵の紙パックなどを混ぜれば、数か月かけてミミズが繁殖し、土となる。

「人間と同じように、ミミズもコーヒーが大好きなんですよ」。

講座中、店を通りかかった親子連れが。「何だろう」とドアから覗いていた。小さな女の子はミミズが気になったようで、興味津々にバケツの中をのぞいていた。

ミッテトさんからのアドバイスを聞くローデルさん(左)Photo: Asaki Abumi
ミッテトさんからのアドバイスを聞くローデルさん(左)Photo: Asaki Abumi

「自宅のベランダで植物栽培をしていて、もっと土に栄養が必要だと思っていたんです。生ごみで堆肥づくりができるとしたら、環境にもフレンドリーなので挑戦してみたくて」と、参加したベシマ・ローデルさん(39)は話す。

環境についての議論が盛んなノルウェーだが、「どうしたら、自分に可能な範囲でエコな暮らしができるか?」と、首をかしげている人も多い。ミッテトさんのように、無理のないところからスタートできる、ちょっとしたエコ生活が、これからノルウェーでは広がりを見せていきそうだ。

筆者もコーヒーやカフェについて取材をし、毎日何杯も飲んでいるのだが、コーヒーかすを捨てるのはもったいないなと思っていた。このような活動を、各家庭だけではなく、ゴミを大量に排出する企業などが取り組み始めれば、ノルウェーが目指す排ガス減少へとつながるだろう。

ちなみに、どの講座も出席者は女性だけだった。「男性はよく店を覗きにきて、ミミズやキノコ菌だけ買いに来ますよ。女性は社交的な場所を好んで、みんなと学びたがる。ノルウェーの男性は、自宅で一人で実験しながら、楽しみたいのでしょう」と、ミッテトさんはニヤリと笑った。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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