見守る人々が失神…北朝鮮「軍人虐殺」の生々しい現場
最近、北朝鮮軍の内部で将兵の「思想的武装」を強調する特別講演会が行われているという。
平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK情報筋は10月31日、「朝鮮人民軍を思想と信念の強軍として準備させるための特別講演会が各軍団で進行している」としながら、「醸成された情勢に対処して人民軍の透徹した対敵意識と主敵観念を強化する教養事業を攻勢的に繰り広げているものだ」と伝えた。
情報筋によると同月26日午前、平安南道の徳川(トクチョン)に位置する第11軍団指揮部で、総政治局から派遣された人員が講演会を行ったという。第11軍団は最近ロシアに派兵されたとされる別名「暴風軍団」で、当該軍団の将兵を対象にした講演会が集中的に実施されたというのが情報筋の話だ。
果たして、そうした講演にどれだけの効果があるのだろうか。軍の将兵に限らず、北朝鮮の人々はつまらないだけの講演に慣れ切っている。ある脱北者の話では、講演を「聞くふり」をする間、何をして時間をつぶすかが「大きな悩み」だったとまで言っていた。
しかし、軍人に対する統制が、民間人に対するそれより重要なのは言うまでもない。
そこで効き目を発揮するのが、やはり「恐怖政治」である。軍法によって統制される将兵たちのルール違反に対しては、民間人よりも苛烈な罰が加えられることが少なくない。
(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為)
2020年8月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の穏城(オンソン)郡で、複数の軍関係者が処刑される事件が起きた。この地域では少し前、国境の川を渡って中国へ脱北した地域住民が、再び故郷に戻り逮捕されていた。金正恩総書記氏は当時、新型コロナウイルスの流入を防ぐために国境を徹底的に封鎖するよう厳命しているが、それが出来ていないことが発覚してしまったのだ。
その結果、件の脱北者が越境した地点を受け持っていた国境警備隊の中隊長、政治指導員、責任保衛指導員、軍保衛部封鎖部長、軍機動巡察隊長、そして脱北者本人が所属する職場の党委員長と支配人が処刑されたという。さらに、チュ氏は処刑の現場について次のように生々しく描写している。
「そして彼らの処刑場面を、当該地域の幹部たちに参観させた。どれほど残忍に処刑されたのか、参観者の中からは気絶する人、失禁する人が続出した。北朝鮮でよく行われる、数百発の銃弾を浴びせ、人間の原型すらとどめないやり方だったのだろう」
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
読めばわかる通り、処刑された軍人や党官僚は、故意に防疫ルールを破ったわけではない。どれほど警戒しても、広い国境地帯を完璧な監視下に置くのは不可能に近い。そんなことの責任を問われて処刑されたのでは、命がいくつあっても足りないだろう。
しかし、北朝鮮の軍人に対してはこうした理不尽な統制がまかり通っている。その現実は、ほんの少しの逸脱が命取りになることを、軍人たちに嫌でも認識させる。
こうした恐怖の仕組みなしに、北朝鮮の軍隊は回って行かないのである。