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ウクライナと日本企業へのサプライチェーン影響(アップデート)

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
ウクライナのキエフ(写真:アフロ)

ロシアのウクライナ侵攻

ロシアのウクライナ侵攻は、ビジネスに大きな影響を及ぼしている。

フジクラは今月まで同国で生産している工場停止を決定した。

トヨタ自動車は現地の販売会社を営業停止とした。住友電気工業は工場を停止した。日立グループは従業員の避難を決めた。JT(日本たばこ産業)、コカコーラボトラーズ、カールスバーグなどもウクライナの工場停止に追い込まれた。UPSやFedExなどはウクライナでの活動を停止した。

現在、SDGsが叫ばれているが、その大前提となる人権がウクライナで蹂躙されている。多国籍企業は活動の停止と従業員の安全確保に走る。

なおウクライナに進出している日本企業は約60だ。なおロシアには350社ほどある。日本企業の進出数は少ないと思うかもしれないが取引先まで拡大すると莫大な数になる。欧米企業はウクライナに少なくとも1000の主要取引先を抱える。その二次取引先、三次取引先を考えると莫大な数だ。

その日本企業が進出している業種では製造業が大半だ。ということは、まずウクライナ危機は製造業危機につながる。グローバルに網の目のようにつながる現代のサプライチェーンでは、一国の危機が世界に広がる可能性がある。

これからウクライナ問題は、原材料や部材の不足、調達コストの高騰、需給バランスの変化、物流の混乱、そしてサイバー攻撃による不安定さを引き起こしていくだろう。

私は、サプライチェーン関係者の業界団体を主催している。先日、ウクライナの問題を受けて緊急の会合を実施した。その会合は想像以上の参加者が集まったが、その参加者は「食品からエネルギーまで、多くの領域で恐ろしい影響を及ぼす」と認識で一致した。

ところで、日本企業はこの10年以上にわたって調達品の在庫を積み増してきた。在庫切れになって生産が止まるリスクが甚大だからだ。これは統計からも読み取れる。だから、しばらくの間であれば日本企業は積み上げた在庫を切り崩すことでウクライナ危機に対応できるかもしれない。しかし、その危機がいつまで続くかによって対応できる期間は違ってくる。

とくに日本国内のサプライチェーン関係者が懸念するのは資源だ。

ロシア/ウクライナからの輸入

それぞれの国から日本への貿易取引は、【ウクライナ→日本】として「たばこ」「鉄鉱」「アルミニウム合金」がある。

これらを入手せねばならない企業やサプライチェーン部門は現時点ですぐさま対応を検討せねばならない。ウクライナという国家が危機に瀕することによって輸入が止まる可能性が高い。

また【ロシア→日本】としては「天然ガス」「石油」「歴青炭」があげられる。

サプライチェーンの変化

各国のアナリストは、ロシアとウクライナの紛争はサプライチェーンに異常なほどの結果をもたらす、少なくともリスクが高まると述べている。少なくとも半導体IT業界の不確実性を高める、としている。半導体製造に必要な希ガスがウクライナルートで入ってくるからだ。

これから、全世界的に、資源、金属等の不足が予想される。さらに、投機筋や保護貿易国の施策によって、商品価格が急上昇する可能性は捨てきれない。そして、その上昇は各国の製造業に影響を与えるだろう。

対策は凡庸で平凡なものだが、調達・サプライチェーン網を複線化するしかない。それがサプライチェーン網を強化する道だ。

サプライチェーンのコストアップ要因

ロシアとウクライナの紛争は、さらにサプライチェーンにとってコストを上昇させる可能性がある。石油価格のアップによって欧米域内だけではなく全世界的に運送コストは上がる。さらに製造コストにも影響を及ぼす。

このロシアとウクライナの紛争は、全世界の企業に疑心暗鬼を植え付けたと言っていいだろう。ある一国だけに依存することは危なく、ひたすらコストをかけても分散する必要があるという疑心暗鬼。それはサプライチェーンのコスト高を意味する。そして、最終製品も上がっていく。

欧州では「ESGインフレ」とでも呼ぶべき事態が生じていた。これは脱炭素やガバナンス強化によってコストが上昇し、それが最終製品にも影響を及ぼすインフレのことだ。

しかし皮肉なことに現在は、化石燃料を発端としてインフレが生じ、さらにサプライチェーン上の調達先をわけることでさらにコストが上がっていく。

金融政策によるインフレだけではなく、企業のサプライチェーン施策によるインフレにも世界は直面しようとしている。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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