ウクライナ軍の旧ソ連製203mm自走砲からアメリカ製203mm砲弾を発射
6月9日に発表されたアメリカのウクライナ支援パッケージ21億ドル(約3000億円)のリストの中に「105mmおよび203mm砲弾」が入っており、この203mm砲弾は一体どういうことなのかと物議を醸していました。
ウクライナには西側製203mm榴弾砲を供与しておらず(M110自走榴弾砲はNATO諸国では退役済み)、ウクライナ軍が旧ソ連時代から使い続けている2S7ピオン自走砲向けの砲弾と見られていました。
※2S7ピオンの203mm砲は砲身が長く、榴弾砲というよりは昔ながらのカノン砲に分類される。2022年開戦初期のロシア軍の攻勢から首都キーウを守った原動力である2個砲兵旅団のうち、第43独立砲兵旅団が2S7ピオンを装備していた。(関連記事:キーウ陥落を防いだ2個砲兵旅団の全力砲撃)
203mm砲弾は一般的な砲弾のサイズ(152mm、155mmなど)より大きく、現在では世界的に廃れつつあります。直径203mmもの大きさになるとロケット弾の方が発射機を含めて用意が楽だからです。しかしウクライナ軍にとって2S7ピオンはその大火力を以って首都陥落を防いだ英雄的な効果的な装備です。枯渇しつつある203mm砲弾の在庫をどうにかして補充する必要がありました。
しかし2S7ピオンはNATOでは使われておらず、旧東側の国でも使用国が少なく、政治的にウクライナに纏まった量の旧ソ連製203mm砲弾を引き渡せる国が見当たらず、一体どうやって供与するのか謎でした。
しかし答えは実にシンプルで意外なものした。旧ソ連製203mm砲弾ではなく、退役後にまだ解体処分しきれていなかったアメリカ製203mm砲弾の在庫を供与していたのです。なんと旧ソ連製203mm自走砲からアメリカ製203mm砲弾を発射するのです。
アメリカ製203mm砲弾「M106」をウクライナで確認
確かにサイズは同じ直径203mmなので入りますが、設計時に砲弾の共用は全く考えられていないので細かい仕様が違います。砲弾の全長、重量、弾殻の厚さ、弾帯の位置や形状などが異なっています。旧ソ連製2S7ピオン自走砲(52口径203mm砲)とアメリカ製M110A1自走砲(37口径203mm砲)では砲身長が全く違うので、砲弾はそれぞれに最適化されたものが用意されています。別種の砲弾を使用する以上は発射装薬の量を調整し、射程も変化して本来の性能を発揮できなくなるでしょう。それでも2S7ピオンの火力を捨てるのは惜しかったのです。
既に2S7ピオンの為に、第2次世界大戦で使用された古いB-4榴弾砲の203mm砲弾「53-G-620-Sh」まで引っ張り出して使用しています。アメリカ製203mm砲弾「M106」も現在は製造していないので、残っている在庫を搔き集めて、その間に203mm砲弾の生産体制を構築するか、あるいは別の155mm榴弾砲などの通常サイズの火砲に機種転換する必要があるでしょう。