なぜ夏に福袋を提供する店が多くなったのか
・夏の福袋の増加
福袋といえば、正月に百貨店で購入するイメージがある。しかし、このところ夏に福袋を販売する店舗が増えている。
たとえば「夏 福袋」で検索してみよう。有名な百貨店やアパレルブランド、飲食店で、夏にもかかわらず福袋を販売するケースが増えている。
もともと正月に福袋を販売する店舗は、前年の売れ残り商品をまとめ売りする狙いがあったといわれる。私も(もはや30年以上前のことだが)福袋を買って、後悔とも残念ともいえる感情をもった経験がある。しかし、現在では消費者の目が肥えているし、売れ残りの販売をしてしまうと、それ以降は消費者を遠ざけてしまう。つまり逆効果になってしまうのだ。
だから夏の福袋も、手を抜くわけにはいかない。しっかりと最適な商品を販売する必要がある。
・なぜ夏の福袋は増えたのか?
以下、あくまで私が関係者に取材したり、聞いたりした範囲で把握できた理由を紹介する。
1.夏は集客が落ちるから
6月、あるいは7月は会社員にとってボーナスの時期だ。そこでパッと高額品に費やす人たちは多い。しかし8月になると、7月下旬から8月に帰省も控えており(帰省しており)、消費にストップがかかる。
そこで集客の芳しくない7月下旬から8月にかけて福袋で訴求性をあげようという動きがあった。
なおコロナ禍での百貨店の売上は参考にならない。というのも新型コロナのまん延状況のほうが、はるかに集客に影響を与えるからだ。そこで、コロナ禍前の百貨店の売上状況を月度で見てみると、たしかに8月の売上が低下している傾向が見て取れる。
2.そもそも夏には便乗できるイベントがあるから
日本人にはお中元という風習がある。さらに夏セールは風物詩だ。この流れに、福袋を乗っけることができる。
新聞記事を調べてみると、2013年ごろに「夏にも福袋を始めてみようか」と試行錯誤する百貨店の記事を見かける。もちろん厳密な意味での夏の福袋の嚆矢を発見することはできないが、おおむねこのころから一般的に広がってきたといえるだろう。
さらに福袋は衣類や食品類も多い。考えてみたら当然だが、正月=冬の福袋、と同様に夏にも特有の食品はあるし、夏から秋にかけてしか着しない衣類はある。上半期を終えたタイミングでの福袋は理にかなっている。
3.コロナ禍が夏の福袋を広げた
コロナ禍はリアル店舗に行きにくい側面があったいっぽうで、知人や遠くの親類にも出会えない時期が続いた。そこでECが発展した。そこに、福袋の発展余地があった。
なぜかというと、自分のためではなく、他者のためにプレゼントを贈る需要が高まった。自分のためであればお好みの商品を買えばいい。しかし、他者のために買うのであれば福袋の「何が入っているかわからない」事実が、逆説的に他者に贈りやすくした。それは「他者の好みはわからないけれど、福袋であることを言い訳に、ブラックボックスである福袋を贈る」人が増えたのだ。
興味深いのは、夏の福袋には、「チケット」「クーポン券」などが多数含まれるものが多い。これも、「他者への贈り物としても使える」と考えてみれば、納得がいく。
そもそも、「あえて買わないけれど、福袋で当たったら使おうかな」というくらいの気持ちで求める人が多いだろう。実際に福袋についてのアンケートでも購入者はそう答えている。その、ある意味「てきとうな」商品が求められる環境があった。
・ところで
なお、関係者は口を揃えて「福袋は儲からない」という。もちろんポジショントークでもあるだろう。しかし、まったくの嘘ではなく、さほど利幅が大きなものではない。
なんのためかというと、新たな顧客層の発掘と、リピーター創造のためだ。その意味で、けっしてボロ儲けしているわけではない。それに各店舗は真剣に福袋を企画し販売している。消費者も店舗も両得なのだ。
7月から夏の福袋が本格化する。ぜひ、せっかくの夏だし、経済を盛り上げるためにも、そして新たな店と出会うためにも(そんなこと考えずとも散歩がてら街に繰り出して)、これまで意識しなかった夏の福袋を確認してみてはどうだろうか。