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ロシアW杯7日目。ボールを持って守る、スペインもお粗末でした。イランの狡猾さとサウジの無邪気さ

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
自陣に引きこもり+遅延行為。イランは世界のもう1つの顔を見せてくれた(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

マッチレビューではなく大きな視点でのW杯レポートの6回目。観戦予定の全64試合のうち大会7日目の3試合で見えたのは、日本のお手本になれないスペインの拙さと、お人好しでは勝てないサッカーのシビアさだ。

いやー、まったくお手本になれませんでした――。お恥ずかしい。

イラン対スペイン(0-1)でスペインが先制した時これで安全に逃げ切る、と思った。南アフリカではグループステージ突破後4試合をすべて1-0で勝ち上がり優勝までしたスペシャリストなのだ。日本のみなさんにボールを持って守る、とは何ぞやを知ってもらいお手本になれる、と信じていた。

お粗末でした。コロンビア対日本の記事で書いたような、原則を外れるようなプレー、ドリブルで突っかけるとかはなかった。GKも巻き込んだし遠慮なくバックパスもした。が、軽かった。ポーンと浮かしたようなバックパスは何ですか! 受け手が胸で止めないといけないような。ヒールキックも要らないでしょ! 足と体だってもっとちゃんと入れないとボール取られちゃうでしょ!

逃げ切りに軽さ、曲芸は必要ない

スペインが曲芸のようなプレーをする時は、調子に乗っているか、びびっているかのどっちかである。昨日は後者。パススピードが落ち、不要に距離感が近過ぎ(もう3メートル離れれば安全にキープできる)、サイドチェンジが不十分で、イーブンボールの競り合いにも敗れる。というわけで、目の色の変わったイランのカウンターに次々と襲われた。

ゴール前ではGKデ・ヘアの顔が青ざめており、ピケもセルヒオ・ラモスも得意のヘディングでのバックパスを明らかに避けていた。デ・ヘアのポジショニングが不安だったのだろう。ミスはなかったが、スーパーなセーブもなかった。VARのお陰でイランのゴールが取り消されるまでの数分間は恐怖の沈黙だった。

引きこもりからアグレッシブなチームへのイランの180度の変身は見事だった。

ケイロス監督が完全にチームを掌握している証拠だろう。個としてもGKベイランランド、MFタレミ、アミリ、ジャハンバクシュ、FWアズムンと各ラインにレベルの高い選手がいる。専守防衛のチームはいくらでもあるが、鋭いカウンターを繰り出す別の顔を持ち合わせているチームはほとんどない。“アンチフットボール”なんて失礼な呼び方ができないゆえんである。レアル・マドリーでは失敗したケイロスだが、持てる戦力を最大限に引き上げる戦い方を授けたことは称賛に値する。ポルトガル戦が楽しみだ。

イラン、アジア超えの正しいマリーシア

イランは狡猾さという点でもアジアを超越している。

すでにモロッコ戦でもその片りんを見せていたが、ゴールキック、スローイン、FK、CKといったセットプレーを利用した遅延、被ファウルでは大袈裟に痛がるし、GKは負傷してもグラウンド外に出せないというルールを逆手に取っての遅延。相手を焦らす挑発に、気の短いジエゴ・コスタは危うく引っ掛かるところだった。

こういうマリーシアを悪く言うべきではない。特にイランのような戦力が限られたチームが使うのは立派な戦法の1つであり、昨日はクリーンだったスペインだって普段は多かれ少なかれやっているのだ。先制された途端、さっさとプレーを再開し始めた変身もまた見事だった。

イランと対照的だったのが、ウルグアイ対サウジアラビア(1-0)で見たサウジアラビアの人の好さだった。不安だったGKを交代させてもまたGKにミスが出て失点。反撃に出ようとするも、トップの選手にいきなり絶妙のパスを送り込もうとするとか、誰もいないのにセンタリングを上げるとかの単調な攻撃で、ロシア戦よりも見せ場を作るもののゴールが遠かった。

アジア勢のイノセントさを象徴するのが、82分倒れたルイス・スアレスを見て攻撃を途中で止めて、ボールを外に出したシーン。あんなものはフェアプレーではない! 大体、ルイス・スアレスが倒れたのだってかなり怪しい。見ていて、直観的にカウンターを止めるつもりだな、と疑った。その証拠に、何事もなく起き上がったではないか。

絶対に勝つ、という意志はあったか?

ルールを確認しておけば、サウジアラビアにプレーを止める義務はない。ケガが重大だと判断すれば審判が止める。グループステージ敗退が決まりそうな場面なのだから、むしろボールを出せとアピールする相手の隙を突くつもりでカウンターを続行すべきだった。確かロシア戦でもサウジアラビアの選手がスローインのボールを拾ってあげるシーンがあったが、そんなことをする必要はない。クイックスローされたら数的不利でいきなりピンチである。

こういうことを私はスペインでの監督生活で学んだ。小学生世代はケガのフリやダイブはないが、中高校生となるとそれらもレパートリーに加わる。

ロナウド対モロッコ、いや失礼、ポルトガル対モロッコ(1-0)は懸念した点が出た。ロナウドが絡めば絶対的に強いが、絡まないと守備だけのチームになってしまう。

その守備は安定している。左SBゲレイロに穴があるが、最終ラインのその他3人と、モウティーニョとカルバーリョの2ボランチが堅く、GKルイ・パトリシオは全32チームのベストGKだ。それでもあれだけ攻め込まれたのは、モロッコがここで敗退するようなチームではなかったから。ジャッジへの抗議に割いたエネルギーをもう少しプレーに込めていたら、チャンスボールがことごとくCBベナティアに転がって来た不運がなければ、もしロシアのジュバのようなCFを擁していれば……。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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