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映画『Planet B』、2039年のパリ。“近未来過ぎる”SFの恐ろしさ

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
温暖化阻止は時間との勝負。切羽詰まった若者は爆弾を手にする

舞台は2039年のパリ。

わずか15年先の未来である。近未来もののSF映画は数あれど、こんなに近過ぎる未来を舞台としたものは初めてではないか。

『AKIRA』の舞台が2019年のネオ東京で、製作の31年後『ブレードランナー』が2019年のロサンゼルスで、同37年後『2001年宇宙の旅』が、同33年後『ブレードランナー 2049』が2049年のロサンゼルスで、同32年後

だいたい30~40年先の未来、というのが、“推測可能でリアリティがあり、かつ共感できる身近な未来”ということになるのだろう。

■15年後のリアリティとは?

だが、この『Planet B』は15年後に設定しなければならなかった。主人公たちが温暖化を阻止するために破壊活動を行う、環境テロリストだからだ。

温暖化阻止にはタイムリミットがある

環境省の資料(23年8月版)では、「気候変動の地球温暖化は、短期のうちに1.5度上昇に達し、複数の気候ハザードの不可避な増加を引き起こし、生態系及び人間に対して複数のリスクをもたらすだろう」としている。ここで言う「短期」とは「2021~40年」を指している。

つまり、環境テロリストが温暖化阻止のための破壊活動を行うなら、2040年までにやらないと間に合わない可能性がある。他のSFのように30~40年先なんて悠長なことを言っていたら、“環境テロが起きている世界”という設定自体がリアリティを失ってしまうのだ。

『Planet B』の1シーン
『Planet B』の1シーン

■温暖化をめぐる不信がテロを呼ぶ

さて、そんなに切羽詰まった温暖化阻止で、グテーレス国連事務総長の「真実の時」なんて発言を聞くととんでもないことがすぐに起こりそうなのだが、一方で、そんなに切羽詰まった感じもしない。

旅行など移動の制限もかかっていないし、クリスマスの大騒ぎもそのままだし、オリンピックやサッカーW杯は相変わらず大々的で何なら拡大傾向だし、温室効果ガス対策で電力供給や経済活動が制限された、なんて話も聞いたことがない。

何より、COP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)ですらオンライン開催されていないのだ。

切羽詰まっているらしいが、切羽詰まった実感がない。いったいどっちなのか?

『Planet B』の1シーン
『Planet B』の1シーン

テロというのは、こういうちぐはぐな空気の中で起こる。

温暖化だけでは環境テロは起こらない。起爆剤が必要だ。温暖化は“単なるビジネスの口実”で、国際機関も国も企業も“本当はまじめに対策するつもりがないのでは?”という不信感が募ってこそ爆発する。

■若者=逃げ切れない世代の反乱

“自分たちが止めるしかない”と立ち上がるのは若者である。当然だ。

彼らこそ最大の温暖化の被害者なのだから。

トレビの泉を黒色に染めたり、ゴッホやモネ、ゴヤの名画や『モナリザ』にスープやソースをかけたりしている活動家たちの幼さの残る顔を覚えている人もいるだろう。

『Planet B』のテロリストたちは全員20代だと思われる。主人公を演じるアデル・エグザルホプロスは31歳だ。2039年に20代ということは今の小中学生。温暖化対策に熱心な政治家に未来を託そうにも選挙権すらない

『Planet B』の1シーン
『Planet B』の1シーン

温暖化問題には世代間ギャップがある。

私なんて15年後は77歳で、もうこの世にいるかどうかもわからない。私のような逃げ切り世代もいるし、短期的な被害者、中期的な被害者、長期的な被害者もいて、それぞれ寿命によって決まる。若いほど長く温暖化に苦しめられる運命だ

そうして、若者は貧困化する

温暖化は、世代間でも進行している貧富をさらに拡大する。温暖化対策をビジネス化して儲けるごく少数がいる一方で、温暖化による被害で経済的にダメージを負う大多数がいる。

老害とか大人が好き勝手やって地球を壊したツケを払わされるのは、何の罪もない若者たち。“奴らのせいで、我われには暗い未来しか残っていない”という怒りと絶望が、爆弾を手に取らせるのだ……。

環境破壊に反対する者が破壊行為を行うのは明らかに矛盾しているが、その矛盾こそが断末魔の叫びに聞こえる。

追記:『Planet B』という題名は、環境活動のスローガン「プラネットBは存在しない」から来ているのか。ただし、この作品内では正反対の皮肉な意味で使われている。

※文中の環境省の資料はここから国連総長発言はここから、ダウンロードができる

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※写真提供はシッチェス国際ファンタスティック映画祭、写真のクレジットは(C)Le Pacte

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在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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