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ロシアW杯1日目、2日目。見えてきたアジア勢が戦える条件と、消えないスペインの憂鬱

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
戦術理解で劣らないこと、GKのレベルが高いこと。でないとアジア勢は生き残れない(写真:ロイター/アフロ)

南アフリカ、ブラジルに続き、テレビ観戦だから可能な全64試合観戦を3大会連続でやるつもりだ。マッチレビューは他の速報記事に任せて、見えてきた戦術的な傾向や前評判との相違点、ジャッジなど大きな視点でのレポートをしてみたい。

ロシア対サウジアラビア(5-0)とモロッコ対イラン(0-1)から見えてきたのは、アジア勢が戦える条件だ。

アジア勢は技術的には劣る(個人技不足、技術の使い方の悪さ)、フィジカル的にも劣る(例えばサウジアラビアの23人の平均身長は32カ国中最も低い)となると、体力(運動量)と戦術でカバーするしかない。が、体力とは使い方の問題でもあり、無駄走りは意味がないとなると、結局、使いどころを知ること、つまり戦術理解度を上げてアジア勢は勝負するしかないわけだ。

サウジ大量失点の戦術的な理由

この点、サウジアラビアはレベルが低かった。

FWからGKまでの距離が長過ぎる。MFまでは結構ラインを上げるのにDFが下がりっぱなし、GKに至ってはペナルティエリアを出ることがない。となると自陣ゴール前の危険なゾーン、いわゆるデフェンシブサードがスカスカでそこをロシアに良いように使われていた。特にGKのポジショニングの悪さは致命的で、バックパスをGKが受けてCB2枚とコンビネーションをすれば数的有利でボールをキープできるのに、わざわざCBが受けてプレスの餌食になっていた。ハイボールへの飛び出し、キャッチングも悪かった。

CBの位置は低過ぎるだけでなく、上がり方も緩慢。ここをサボらないでダッシュでラインを上げておけば、相手を押し込めて逆に体力の消耗が防げるのだが。攻撃時のCKでも、相手がクリアしてラインを上げオフサイドになっているのに歩いて戻るシーンがあった。オフサイドはプレーに参加していないのと同義だから、あれでは連続攻撃ができない。サボるべきでないところでサボるのはやはり戦術理解の問題だろう。

イランのGKはワールドクラス

イランにはこういう戦術的な隙がなかった。

10人で守りカウンター、という明確な戦い方に基づきちゃんとライン間をコンパクトに保ち、個の技術ではるかに上回るモロッコを跳ね返し続けた。あれでどうやって点を取るのか?という疑問は残る。だが、モロッコのオウンゴールで幸運にも勝ち点3を挙げ、第2戦の対戦相手スペインには嫌な存在になった。またイランはアジアの課題である個もDFラインとボランチは見劣りしなかった。それとGKが良い。W杯レベルのGKがいるとやはりチーム全体が落ち着く。

エジプト対ウルグアイ(0-1)ではウルグアイの守備の強さが光った。

特にゴディンとヒメネスのCBコンビはシーズン中より動きが良いくらいだ。2トップのカバーニ、ルイス・スアレスになかなかボールが入らない、中盤の空洞化という問題点はある。だが、あれだけセンターラインが固ければいつかは絶対的な2トップが何とかしてくれる。エジプトは戦術的にも個の技術的にもレベルは低くない。しかし、ロングボールを収めてしかもマーカーも1枚なら軽く抜くことができる、サラー不在の攻撃は形を作れなかった。第2戦でサラーが戻って来られるかどうか。

モラルには問題ないが、問題はデ・ヘア

ポルトガル対スペイン(3-3)の派手なゴールショーはここまでで一番の名勝負だった。

監督解任のショックにもかかわらず、リードを2度許しながら跳ね返したハートの強さは高く評価できる。逆境でこそチームのモラルが問われる。私はこの試合に敗れれば精神的に崩れてグループステージ敗退もあると思っていたが、少なくとも士気という点でスペインには問題がないわけだ。

フェルナンド・イエロ新監督のロペテギ路線継続は明暗が分かれた。

スペイン人がほぼ満場一致で支持するアスパスではなくジエゴ・コスタ先発はサプライズであり、結果を出してない彼が2得点というのはビッグサプライズだった。特に1点目、ペペをひじ打ち気味のタックルでぶっ飛ばし相手4人に囲まれながらねじ込んだのは、まさに彼ならではのもの。これが明。

暗は右SBのナッチョ起用。

CBが本職の彼はロナウドとのスピード勝負に敗れ、フェイントを仕掛けられた時の腰から下の脆さも露呈した。スピードも1対1対応もオドリオソラの方が上。3点目を決めた強烈なシュートがあったとはいえ、カルバハル不在が弱点になり得ることがはっきり見えた。そのナッチョをフォローすべきブスケッツもポジショニングが悪かった。ロナウドが頭でそらす空中戦にほぼ全敗(ボールを競るべき位置に誰もいなかった)で単純なロングカウンターを止められなかったという点も不安材料。

さらにGKデ・ヘア……。親善試合スイス戦に次ぐ2試合連続のキャッチングミスによる失点。表情も冴えずどこか不安が伝わって来る。GKが悪いとW杯では勝てない。当たれば強いが当たらないと弱い彼を、今の悪い流れの中で使い続けるべきなのか? イエロ監督は信頼つまり、先発起用で応えるしかないのだが。

相手が引いてきたら? ロナウド=ポルトガルの不安

ポルトガルは良い意味でも悪い意味でもロナウド次第。“依存”と言われようがあれだけ絶対的なら大会を乗り切れるかもしれない。ゲデスのスピードも驚異的でクアレスマも途中出場ならバリエーションを与えられる。

ただ、戦術的に最も相性が良く(パスカットをし易く前掛かりなので裏にスペースがある)ロナウドの長所が生きやすい相手との初戦だった点は、注意しておくべきだ。相手が引いてきたら、リードされ主導権つまりボールを渡されたらどう崩すのか? モロッコ戦ではそこをチェックすると観戦がより楽しくなるはずだ。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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