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ロシアW杯5日目。格上の「強さ」と格下の「無力感」。単調・単発の韓国の攻撃は日本にも共通か?

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
不要なPKを犯したイノセントさはすぐに修正できても、攻撃時のイノセントさは……?(写真:ロイター/アフロ)

マッチレビューではなく、大きな視点でのW杯レポートの4回目。観戦予定の全64試合のうち大会5日目の3試合で見えたのは、格下のチームの無力感。特に、日本にも共通するかもしれない韓国の攻撃の単調・単発さだ。

サプライズの多い今大会だが、5日目の結果は順当だった。スウェーデン対韓国(1-0)、ベルギー対パナマ(3-0)、イングランド対チュニジア(2-1)、いずれもFIFAランキング通り。ランキング上位者が下位者に順当に勝利した。

だが、上位者はそんなに強かったか?と問われると首を傾げる人も多いのではないか。

格上が格下を内容で圧倒したゲームはない。

守備が組織され格差が縮まっている今のサッカーで、強さが見た目や数字にあらわれる形で明確に試合に反映されることはむしろ少ない。そうでなくディテール、90分間の中では局面に過ぎない場面での、個の差や特定のプレーの優位さに反映されることの方がはるかに多い。「何となく負けてしまった」が何回も続き、結局全然勝てない時に「強いな」と感じるものなのだ。

強く見えなかった格上の順当勝利

大差となったベルギー対パナマでも、前半は0-0で均衡を破ったのはメルテンスのスーパーゴールという個の力。その後、勝てないと観念した相手から追加点を奪うのは容易だった。しかし、相手を自陣に釘付けにするとか3位と55位というランキング差が反映された試合だったかと言えばそうではない。

12位と21位の戦いであるイングランド対チュニジアが最も接戦となった。

終了間際の決勝ゴールが最も差のあったプレー、空中戦によって生まれたのも必然だった。後半チュニジアは5バックに変えて最終ライン間の穴、スターリングやリンガードに好き勝手に使われ、決定的な縦パスが通っていたところを埋め互角の展開に持ち込んだが、空中戦だけが劣勢だった。ペナルティエリア内で2度連続で頭で触られるというのは、W杯レベルではあってはならないことだった。

24位対57位のスウェーデン対韓国は、韓国にとって惜しい試合だったと言える。

GKチョ・ヒョンウが奮闘しながらも差があった空中戦以外で、スウェーデンを「強い」と感じた人は少ないだろう。エリア内に投げ込むロングスローもとても練習したとは思えないしろものだったし。VARによって与えられたあのPKがなければ、ゴールに背中を向け危険のない相手の足を引っ掛けた必要のないプレーがなければ……。

だけど、韓国が勝てる、とも思えなかった。スウェーデンも良くなかったが、韓国の攻撃はそれ以上に無力で点が取れそうになかったからだ。

ダーッと来てダーッと蹴ってしまう

韓国の攻撃は単調・単発だった。

「単発」なのはしょうがない。長身FWキム・シヌクがすぐにカードをもらってしまってポストプレーがほとんどできず、左右のサイドの上りからのセンタリングをシュートする、という狙いがまったくの空振りだったからだ。終盤放り込むべき場面で、彼は交代させられていたというちぐはぐさもあった。気になったのは、「単調さ」の方だ。

スペインで欧州のサッカーに慣れ、アジアのサッカーを見ると違和感があった。どこかが違う。その差は、こっちでは「イノセントな」と形容されるアジア勢の無抵抗ぶりに集約されている。

個の技術の違い? 戦術理解度の違い? それは欧州でプレーするアジア人選手が増えている今でも厳然としてある。だが、それだけではない……。ふと思い付いたのはリズムの違いである。ダーッと走りこんで来てダーッと蹴る。そのリズムに間や変化がない。

昨日の韓国のチャンスはカウンターから生まれていたから仕方がない面もある。相手がそろう前に攻め切ろうとするのは仕方がない。

だが、ほんの一瞬、急ブレーキをかけて相手DFを飛ばし生まれたギャップを突く、という発想はなかったと思う。何秒も止める必要はない。たぶん時間にして1秒以内、一瞬で良い。切り返して態勢を作り直し、顔を上げる時間を作るだけでいいのだ。ダーッと来てダーッではなく、蹴る前にフッと息を付く間を入れる。それで守る方は混乱するし、プレーの別の選択肢が見えてくるし、より正確なパスを出せシュートが打てる。

要は、最近ブームとなっているパウサ(Pausa=間)なのだが、これがスペインの子たちは自然にできる。全部やり切らないで止まる。ここで止まったままだと駄目。止まって呼吸を外してすぐに動かすと相手は反応できない。イニエスタもそうしているし、メキシコやペルーもそうしていた。

アシストやシュートの1つ前のプレー

それと、韓国の選手たちには一発で決定的なプレーをしよう、という意識が強過ぎるように見えた。まだ難易度が高い段階でアシストやシュートを急いで、当然ながら失敗する。天を仰いだり、仲間に謝ったり……。

実はもう1つプレーを噛ませると、次のアシストやシュートはより確実に簡単になる。ボールを持っている選手が間を作り、周りの選手が反応してコンビをする。それだけでリズムが変わり、相手は守りにくくなるし、こちらはより確実に崩せるようになる。ダーッと走りこんで来てダーッと蹴るのに、ダーッ、フッ、ダーッを混ぜると、攻撃は単調でなくなる。

もっとも、これ、言うのは簡単なのだがやるのは簡単ではない。結構、直観的な問題だったり、子供の時からの習慣だったりする。

よく陥ってしまうのが、プレーが止まってばかり、間を作ってばかりの凡庸な遅攻になってしまうこと。スロー、スローはクイック、クイックよりもさらに悪い。肝心なのはクイック、スロー、クイック、あるいはその逆なのだ。

チュニジアはそうでなかったが、パナマも「イノセント」だった。今日これからコロンビアと対戦する日本はどうなのか? 格下であってもサプライズを起こせる。だが、無力感が漂う攻撃では何も起こらない。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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