不透明な時代が始まろうという時にまだ「桜」で強弁する安倍総理
フーテン老人世直し録(494)
如月某日
3月5日から始まる予定だった中国の全国人民代表大会(全人代)が延期される見通しになった。新型コロナウイルスの感染拡大防止を優先させるためだと言う。中国で最高重要会議と位置付けられる全人代の延期は極めて異例である。
全人代は憲法に「国家最高権力機関」と明記され、毎年3月5日に開かれることになっていて、31の省と直轄市、自治区と人民解放軍から選出された3000人の代表が集まる。初日に李克強首相が「施政方針」に当たる「政府活動報告」を行い、2020年の経済成長目標を発表する予定だった。
しかし全人代の前に行われる地方の人民代表大会が、新型コロナウイルスの影響で開けなくなったことから、全人代の延期という異例の事態を迎えるようだ。これはその後の外交日程や経済運営にも様々な影響を与えると予想される。
新型ウイルスの収束が見通せない状況が続けば、4月に予定されている習近平国家主席の国賓としての来日や、東京五輪の開催にも影響が及ぶ可能性がある。新型ウイルスについて分からないことが多すぎることから、今年の世界はまるで先行きの読めない不透明な時代になると思う。
フーテンは年頭に「今年は新規まき直しの年になる」というブログを書いた。それは2000年代の最初の20年間は前世紀の後始末の時期であり、21世紀はこれから本格的な始まりという意識があったからだ。19世紀から20世紀への移行もそんな感じだった。
19世紀は産業革命と帝国主義の時代と言われる。産業革命で経済力をつけた英国、フランス、オランダなど欧州各国は植民地獲得競争に乗り出し、アフリカやアジアの国々を次々に植民地にしていった。日本は植民地になることを免れた珍しい国である。
19世紀末から20世紀初頭は「遅れてきた帝国主義国」ドイツやイタリアが植民地経営に手を伸ばし、日本も19世紀末から20世紀初頭の日清・日露の両戦争によって国際社会に参画する。さらに第一次世界大戦で英米側に与し「世界の5大国」に上り詰めた。
19世紀の帝国主義を終わらせたのは、20世紀初頭の第一次世界大戦である。この戦争は産業革命によって兵器の威力が増し、1500万人を超える戦死者を出す悲惨な戦争となった。そしてドイツ、ハンガリー、オスマンの各帝国が敗れ、また戦争中に起きたロシア革命でロシア帝国も崩壊する。こうして1918年に第一次大戦が終わり20世紀の幕が開くのである。
新しい世紀は平和を模索するところから始まった。悲惨な戦争を二度と繰り返さないため国と国との戦争を非合法化し、国際社会が侵略をやめさせようと国際連盟が作られた。しかしその理想は米国が参加しなかったためにうまくいかない。
そうした中からファシズムが生まれた。20世紀とはファシズムと共産主義と自由主義が戦った時代である。ファシズムは大衆を煽って民族主義を植え付け、全体主義イデオロギーで大衆に反共産主義と反自由主義を押し付けた。日独伊三国がファシズムで結束した。
共産主義は、世界を資本家と労働者の階級対立と捉え、資本家を打倒して労働者階級による平等社会を目指す。ソ連は市場経済を否定し計画経済によって国力の増進を図る一方、共産党一党独裁体制を敷いて国民の自由を束縛した。
資本主義と市場経済を是とする英米仏など自由主義国は、平等より個人の自由を優先し、国民の選挙による民主政治によって権力を移行させ、人権の尊重と法の支配などの価値観を重視した。
20世紀はまず共産主義と自由主義が手を組みファシズムを打倒する。ルーズベルト、チャーチル、スターリンがヒトラーと東条のファシズムに勝利したのが第二次世界大戦である。それが終わると自由主義と共産主義の戦いが始まる。米ソ冷戦が始まり、それは1989年まで40年間続いた。
そして1991年にソ連が崩壊する。米国は唯一の超大国として世界に君臨することになった。自由主義の圧倒的勝利に見え、米国の政治学者フランシス・フクヤマは『歴史の終わり』を書いて「自由と民主主義が人類の最終形態である。歴史は終わった」と宣言した。
しかし我々は今、共産主義に勝利した米国が、共産党一党独裁の中国から経済や先端技術で追い上げられ、さらに米国の価値観に反発するイスラム社会との戦いに遭遇し、超大国の地位の揺らぎに苦悩する姿を見せつけられている。
特に2016年に登場したトランプ大統領は、米国が世界を支配するための価値観として掲げた人権の尊重と法の支配をかなぐり捨て、かつて米国が打倒したファシズムに近い民族主義を煽るポピュリズム政治を推進する。
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