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【ギリシャ神話】木馬で有名な“トロイ戦争”とはどのような物語なのか?美しき女神たちが起こした悲劇とは

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

“ヒストリー”という言葉は、一説によれば“ストーリー”が語源とも言われますが、たしかに“history”“story ”と、綴りの上でも近しいものがあります。

その言葉の通り、ときに本当の話は映画や小説よりもロマンにあふれているものですが、この記事ではその極みともいえる、神話が現実へとつながった歴史をご紹介します。

さて、あなたは“トロイの木馬”という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは現代でもコンピューターウィルスの名前に命名されるなど、色々な場面で耳にしたことのある方は多いと思います。

もともと、この木馬の舞台となったトロイ王国は、ギリシャ神話の中で語られる空想と思われていた存在で、それは以下のような物語でした。

トロイ戦争の物語

まだキリストも生まれていない何千年も、はるか昔。ギリシャに最高の美貌をもつ、アフロディーテヘラアテナという3人の女神がいました。

あるとき彼女らはだれが最も美しいかという話で、言い争いとなります。その結果、判断を公平なものにするべく、第三者に判定して貰おうという事になり、その審判人に選ばれたのがトロイ王国の王子でした。

トロイ王国は神話によると、ギリシャから見ればエーゲ海を挟んだ東側、今でいうトルコに位置する場所にあり、隆盛を極めていたと語られている王国です。

しかし3女神の1人アフロディーテは、トロイ王子のもとを訪れて、こう告げました。「もし私を選んでくれたら、世界で最も美しい女性と結婚させてあげましょう」。

その密約にトロイ王子は見事に乗り、アフロディーテは最高の美女とされるヘレネを紹介してくれるのですが・・。

ヘレネはギリシャの強国である、スパルタ王国の王妃でした。とにかくトロイ王子はスパルタを訪ねますが、スパルタ王は熱く歓迎してくれます。「これは海をこえてはるばる、よう来られた。わが宮殿で、ゆるりとして行かれるが良い」。

その後、スパルタ王は所用で外出することとなり、そのスキに王子はヘレネ王女のもとへ。アフロディーテの魔力もあってか、たちまち2人は恋に堕ちて駆け落ち、そのままトロイへと帰ってしまいました。

・・さて、しばらくしてスパルタ王が帰還しますが、とうぜん異変に気付きます。「んん?愛しのヘレネが、どこにも見当たらんぞ」。

家臣は言いました。「陛下、たいへん申し上げにくいのですが、ヘレネ様はトロイ王子と駆け落ちしてしまわれました」。

とうぜんスパルタ王は激怒します。「あの青二才め。恩を仇で返しおって許さぬ。こうなればトロイ王国を滅ぼし、ヘレネを奪還するぞ」。

ただちにスパルタをはじめ、その支配勢力や同盟国も含め、ギリシャ中から軍隊が招集されました。そして大船団を組織すると、ギリシャの港から次々に出陣して行ったのです。

スパルタ王国VSトロイ王国

さて、神話によればトロイ王国とは、エーゲ海に面した、丘の上に築かれていたといいます。しかし、そこから見える海が軍船で埋め尽くされるほど、ギリシャは大軍で攻め寄せてきました。

見張りのトロイ兵は驚愕して震えあがりますが、しかし王子は言いました。「あわてるな、トロイの城壁は難攻不落。決して超えられはせん」。                                                                                                                                                                                                              それは大げさでもなく、堅固な石の城壁で囲まれたトロイは鉄壁で、ギリシャ軍がどれほど攻め立てても、びくともしません。

そうして戦線は膠着。しかしスパルタ王も意地にかけて諦めず、気づけば9年もの月日が経ってしまいました。さすがに、それだけ攻めあぐねては、ギリシャ側も疲弊します。次第に戦意も低下し「いい加減、もう国に帰りたい」と言いだす兵士も、あとを絶ちません。

そんなある日の朝、トロイの見張り兵が城壁に上がると、城を囲んでいたギリシャ軍が見当たらず、海岸を埋め尽くしていた船団も、忽然と姿を消していました。トロイ兵は歓喜して言いました。「みんな見てみろ、敵がすっかり引きあげているぞ。われわれの勝利だ!」トロイ軍は念のために城門を出て周囲を見渡しますが、たしかに敵の姿がありません。

しかし1つだけ、10メートルを超すかという巨大な木馬が、そこには残されていました。

トロイの木馬の伝説

トロイ王子は「なんだこれは」と訝しがりましたが、捕虜にしたギリシャ兵に問い正すと、彼は言いました。

「あれはわれらが女神アテネの加護を得るために、作ったものでございます。しかし戦いの最中に、もしトロイに奪われてはアテネの怒りを買い、天罰を受けてしまいます。それゆえ、万がいち奪われても城門を通せないよう、これほど巨大にしたのでございます」。

トロイ王子は思いました。「なるほどな。われらも、またいつかスパルタに攻められてはかなわん。しかし拠り所とするアテネの加護を奪われては、再侵攻の意志もくじけよう」。

そこでトロイ軍は城壁の一部を壊し、その木馬を戦利品として引き入れることにしました。そしてトロイ王国内では戦勝の宴が開かれ、兵隊も国民も飲めや歌えの大騒ぎで盛り上がります。

さて、そうして時間が経って皆が騒ぎ疲れた頃、夜になると木馬の1部分がパックリと開き、なんと内側からギリシャの兵隊が出てきたのです。隊長らしき人物は言いました。「よし、手当たり次第に火をつけて回れ。そしてヘレネ王妃は必ず奪還するのだ」。

この木馬は完全なる、ギリシャ軍の計略だったのです。火の手が上がると同時に城の外には、退却したと思わせて潜んでいたギリシャ軍が出現。壊された城壁から怒涛のごとく、王国内に攻め入ってきたのです。

城壁を突破された上に不意をつかれては、もはや守備側になす術はありません。強く美しく栄えてきたトロイ王国は、この計略によりたった一夜で滅び、焼き尽くされてしまったのです。

※トロイ戦争の神話は様々な派生があり、登場人物の名をはじめ上記と異なる展開のストーリーで語られることも、多々あります。

トロイ王国は架空の存在?

さてトロイ王国の存在をはじめ、ここまでの物語は日本で言うところの江戸時代まで、すべては空想だと人々に考えられてきました。しかし、あるとき“シュリーマン”という、ひとりのドイツ人はこう思いました。

「女神の話はともかく、他の部分は妙にリアリティを感じる。トロイは実在した王国に違いない」。

この神話は悲劇や儚さもありつつ、しかし物語としてはどこか美しさもあり、彼は幼少の頃に心を惹かれました。同時にトロイ王国は実在したと信じ、それを生涯をかけて追い求める人生を送ったのでした。

≫シュリーマンが送った夢と冒険の人生

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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