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【世界史】トロイ王国はフィクションでなく実在?人生をかけて追い求めたドイツ人“シュリーマン”の物語

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

※この記事ではギリシャ神話“トロイ戦争”と、その王国が実在した証明に生涯をささげた人物の歴史を、ご紹介しています。トロイの木馬にまつわる神話については、以下を記事をお読みください。

≫【ギリシャ神話】木馬で有名な“トロイ戦争”とはどのような物語か?

あなたは小さい頃に読んだおとぎ話や神話のなかで、大人になっても変わらず、強く心に留めているものはあるでしょうか。

はるか古代から語り継がれてきたギリシャ神話、その中でも有名なトロイ戦争の物語。このストーリーに登場する王国が架空だとは考えず、その実在を追い求め続けた、1人のドイツ人がいました。

その名はシュリーマン。日本でいうところの幕末にあたる時代の人ですが、じつは当時の江戸にも訪れ、その様子を本に書き記した人物でもあります。彼のそうした旅と冒険の運命を決めたのは、幼少のころに読んだ神話の本でした。

しかし、この時代においてトロイ王国が存在した根拠は何もなく、伝説の中にだけ存在していました。しかも舞台は紀元前の大昔であり、日本に例えれば神々の国“高天原”や“ヤマタイ国”を「探しに行く」と宣言するようなレベルで、まるで雲をつかむような話でした。

またシュリーマンの家庭はかなり貧しく、そのような資金を用意するのも、夢のまた夢という状況でした。青年時代、彼がこの夢を人に話すと、笑い飛ばされることも多かったと言います。ただ人によっては、「素敵な夢だね」と応援してくれる人もいました。

しかし現実的な話として“お金”の壁は巨大でした。遠く離れたトルコで神話を手掛かりに、存在すら分からない遺跡の場所を、つきとめなければなりません。

そして、もし場所が分かったとしても、多くの人員を雇って長期間、丁寧に発掘や調査をしなければなりません。その費用は“少し裕福”くらいでは届かず、資産家レベルの巨万の富が無ければ、とても実現できない話でした。

立ちはだかる資金の壁

※イメージ
※イメージ

シュリーマンは若かりし頃はパン屋で働き、自身の生活を支えるのがやっとの状態でした。そのうえ彼はあまり身体が丈夫ではなく、いろいろな肉体労働をかけ持ちしたものの、どれも長くは続かず、困窮に拍車がかかってしまいました。

彼は思いました。「このまま、その日暮らしをしていては、とても無理だ。足し算ではなく、かけ算のレベルで資金を得られる道を探さなくては」。そのようなとき南米へ進出した会社が人材を欲しており、しかも“船の中でボーイとして働けば、船賃は不要”という募集を、耳にします。

「ようし、これだ。南米へわたって財産を築くぞ」。いざ未知の大陸へ、期待と不安を胸に船出しましたが、しかし嵐で船が難破。ヨーロッパへと戻されてしまい、この道はいきなり挫折してしまいました。

「なんということだ。だがしかし、命さえあれば何度でも挑戦はできる。新天地へは行けなかったが、このヨーロッパで一旗あげるぞ」。

シュリーマンは諦めず金融や貿易の勉強、また将来のために何ケ国もの言語を、必死で学び続けました。そうするうち様々なツテも出来、とある商社へ就職することができたのです。

彼は身を粉にして働き、その結果かなりの収入を得て、ついには自身で商社を設立。様々な事業を手掛け、一般的には“裕福”と呼ばれるレベルの財産も、築くことができました。

また仕事でロシアを訪れた際、地元の女性と縁があって結婚し、家庭も築きました。世間的には、十分に人生の成功者とみなされる程ですが、しかしトロイ王国の夢に至る巨万の富には、まだまだ遠く及びませんでした。

クリミア戦争の勃発

さて、ときは1853年。日本ではペリーが来航して大騒ぎになっていた年です。世界でも最強レベルの勢力を誇るロシア帝国と、オスマン・トルコ帝国が様々なゴタゴタから、戦争へと発展してしまいました。

戦場は今でいうウクライナ南部が中心で、黒海の支配権をめぐり両勢力の海軍が衝突。トルコの艦隊は強力なロシア艦隊に敗北しますが、その後トルコに味方するイギリスやフランスなど、ヨーロッパ諸国の援軍が到着。

世にいうクリミア戦争の勃発で、海上のみならず陸上の拠点も巡り、激しい全面戦争へと発展しました。とうぜん周辺の海域は封鎖され、一般の商船などは近づけなくなってしまいます。

この状況にシュリーマンは考えました。「これは物価が、おそろしく高騰するぞ。物資を欲しがる都市に、何とか別ルートで商品を運べないものだろうか」。

彼はここで一世一代の賭けに出ました。ほぼ大半の財産を注ぎ込んで、アムステルダムで物資を購入。南は戦争で封鎖されているので、もっと北側のバルト海を通じ、今で言うリトアニアへ商品を輸送。そして陸路で大都市のサンクトペテルブルグへと運び、売るという作戦でした。

ところで今の価値観に照らせば、戦争を利用して儲けることには、眉をひそめる方もいるかもしれません。あるいは、したたかに情勢を利用するのは当然など、賛否両論ある行動かも知れませんが、いずれにしても失敗すればご破算の、大博打というのは紛れもない事実でした。

燃えあがる港

さて、シュリーマンは物資を貨物船に積み、今でいうリトアニアの港へ運搬する様に、手配をしました。この一世一代の重要な取引です、自身も後を追って現地へ足を運びました。

しかし彼はそこで、港の空が真っ赤に燃え上がる光景を目撃します。シュリーマンの物資が届いたタイミングで、港の周辺では大火災が発生。一帯に存在していた物は、焼き尽くされてしまっていたのです。

焼け跡で彼は絶望します。「すべてを失ってしまった。もう何もかもが、おしまいだ。」がっくりと膝をつき、さながら魂が抜けてしまったようになってしまいました。

はたしてトロイ王国への夢、それ以前にシュリーマンの人生は、どのようになってしまったのでしょうか。この続きと、彼のたどった運命については、以下よりご覧頂けましたら幸いです。

≫シュリーマンが行きついた人生の結末

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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