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農仕舞い

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

 各地に百姓の友人がいるので、盆暮れには生産物をいろいろ送ってくれる。お返しは秩父の酒と豚肉の味噌漬け、それに自身の唯一の生産物である本をおまけにつける。

 今年異変が起こった。みんな40年、50年の付き合いで、同じように年を取ってきた。その彼らが荷物の中に入れてくれる手紙で、「送れるのは今年が最後です」と書いてくる。岐阜の柿、紀州のミカン、高畠のブドウ、新潟のもち、三里塚の豚肉、みんなそうだ、コメだけはまだしばらくは年間通して買わないですむが、あとは軒並み今年限りになりそうだ。

 10月に山形・上山市に農民詩人の木村迪夫さんを訪ねた。詩のほかにコメと果樹をつくる百姓だが、果樹はもうやめている。最後に残った20アールほどのコメも、今年の収穫で最後にするという。貧農の家に生まれ、土地を少しずつ増やして百姓として生きてきた。「やめることを決めて田んぼに立ったら涙が出てきてね」。

 俳句の季語に「畑仕舞い」という言葉がある。秋が深まり、収穫を終えた畑の作物残渣や枯れた草を始末し、来年の春耕に備えるさまをいう。多くに仲間が人生の“農仕舞い”に入りつつある。木村さんは自身の田仕舞いの詩を朗読してくれた。

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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