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中国へのイエス/ノーを総選挙で争点にした南の島国が直面する泥沼

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
テント内でフィアメ氏が宣誓する様子=NZサイト「Stuff」より筆者キャプチャー

 南太平洋の島国サモアで今年4月9日に実施された総選挙(定数51)で、中国による支援事業を推進する与党と、中止を訴える野党がともに25議席と同数となった。残る1議席を得た無所属当選者が野党支持を表明して22年ぶりの政権交代が実現する運びとなったものの、現政権が選挙結果を受け入れず、事態は泥沼化している。

◇紆余曲折の選挙結果

 総選挙の結果、トゥイラエパ首相の与党・人権擁護党と、元副首相のフィアメ氏が党首を務める野党FAST党がともに25議席を獲得、残る1議席は無所属候補がとった。

 選挙管理委員会は4月20日、「当選者に占める女性の割合が、憲法の定める最低ライン(10%)に達していない」という理由から、人権擁護党所属の女性を追加で当選と決定し、同党の議席を「26」とした。一方、無所属当選者がその翌日、FAST党との連携を表明したことで人権擁護党と同数となった。

 最高裁判所が5月17日、「追加議席は無効」と選管決定を覆したことで、FAST党が過半数となり、フィアメ氏がサモア初の女性首相に選ばれる運びとなった。

 ところがフィアメ氏が議会で首相に就任する予定だった同24日、トゥイラエパ氏が「われわれは現職に留まる」と宣言。国家元首のトゥイマレアリイファノ2世も議会を閉鎖した。このためフィアメ氏は屋外に仮設テントを張り、芝生の上で宣誓するという異例の展開となった。

 トゥイラエパ氏はこの宣誓についても「反逆的で違法である」と提訴。国家元首も選挙結果を無効にして新たな選挙を実施すべきだとの別の決定を下し、事態は混とんとしている。

◇「中国人はわれわれのビジネスを支配する」

 サモアは人口約20万人の小国。観光業が頼りで、慢性的な貿易赤字に悩まされている。

 トゥイラエパ氏は1998年11月、首相に就任し、長期政権を維持してきた。空港や病院、政府庁舎などのインフラ整備を中国に頼り、中国からの借款は約1億6000万ドル(約175億円)に達し、サモアの対外債務の約40%を占める。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」にも組み込まれている。

 サモアでは、中国が資金提供するバイウス湾の埠頭建設プロジェクト(2021~26年)が進められている。トゥイラエパ氏は今年1月、地元紙の取材に、プロジェクトは交渉の最終段階にあり、新型コロナウイルス感染症が収まれば作業が始まるとの見通しを伝えていた。

 現政権は雇用創出や貿易・観光促進という効果を全面に押し出しているが、埠頭の設計や資金調達の方法は公開していないという。米国やオーストラリアなどの専門家の間では「埠頭が軍事利用されるのでは」という懸念が持ち上がり、中国の駐サモア大使館が「根拠のない主張」と反論してきた経緯がある。

 総選挙でも、このプロジェクトの是非が争点となった。

 FAST党は、中国と良好な関係を維持しつつも、プロジェクトについて「サモアの輸出入産業の規模に見合わない」「軍事基地でなければ、規模の大きさを説明できない」などとして中止を公約に掲げてきた。

 地元紙によると、無所属当選者もFAST党との連携を発表した際、こう語っている。

「わが国に中国系企業が増え、非常に多くの中国人がいる。われわれが知らないこと、気づいていないことの背後に、何か大きなものがある。中国人はわれわれのビジネスを支配し、地元企業がそれに対抗するのは難しい。そして彼ら(中国人)が稼いだカネは彼らの祖国に行くだろう」

 サモア総選挙後の混乱について、中国外務省の趙立堅(Zhao Lijian)副報道局長は5月25日の定例記者会見で「中国とサモアは良い関係にある。中国は一貫して内政不干渉の原則を堅持している。サモア側には内政をうまく処理する能力と知恵があると信じている」と述べるにとどめた。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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