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JR北海道が経営不振に陥った根本原因は何か 発足当初の適正赤字額は年間500億円とされていた

鉄道乗蔵鉄道ライター

 北海道新幹線の札幌延伸開業の大幅な延期が避けられない見通しとなったことは、2023年10月8日付記事(北海道新幹線、「札幌延伸開業延期」へ 気になる「並行在来線」協議への影響は)で詳しく触れているが、この新幹線の開業延期がJR北海道の経営再建に大きな影響を与えかねない事態となっている。

 深刻な経営危機の中にあるJR北海道は、2019年に発表した長期経営ビジョンでは北海道新幹線の札幌延伸開業に伴う利用客の増加と札幌駅前再開発に伴う不動産収入を前提に2031年度から自立経営を目指すとしていたが、北海道新幹線の札幌延伸開業延期はこの前提条件を崩すことになる。

 それでは、なぜJR北海道は、深刻な経営不振に陥ったのか、1987年の国鉄分割民営化当時に設定されたスキームにさかのぼって考察したい。

JR北海道の適正赤字額は500億円とされていた

 1987年の国鉄分割民営化によって、国鉄は地域別の旅客会社6社と貨物会社1社に分割民営化された。このうち、運賃収入と関連事業によって十分な利益が見込めるJR東日本、JR東海、JR西日本の本州3社については、大都市圏と新幹線の利益で地方路線を維持し、JR北海道、JR四国、JR九州の3島会社については、経営安定基金の運用益によって赤字を穴埋めし、JRに引き継がれた全路線の維持を図るということが想定されていた。

 北海道の鉄道路線は国鉄末期には年間2800億円に達していたが、国鉄末期に行われたローカル線の整理により赤字額を大幅に圧縮。北海道内の国鉄路線を引き継ぐJR北海道について、当時の運輸省は年間の赤字額500億円弱を適正額と判断し、当時の長期金利7.3%から逆算した6822億円を経営安定基金として設けられた。JR北海道は、この経営安定基金から生み出される運用益約498億円で赤字額を穴埋めするものとされた。

 しかし、バブル経済が崩壊した1990年代半ば以降、国の低金利政策によって日本は低金利時代に突入し、JR北海道を含めた3島会社の経営安定基金の運用益は急激に減少。1996年の運輸白書では、すでに「3社の徹底した経営努力にもかかわらず経営状況が悪化してきており、当面この状況が続くと見込まれること」、「早期に完全民営化の実現が可能となる経営基盤の強化が図られるよう、3社の経営状況の悪化の要因である経営安定基金の運用益をいかにして確保することが課題である」と指摘されていた。こうした指摘はそのまま放置され、JR北海道の資金繰りを徐々に圧迫。2010年代に入り、保守費の削減から事故を頻発するようになり、深刻な経営危機が表面化することとなる。

 JR北海道が受け取ることができた経営安定基金の運用益は1987年度の498億円に対して2010年度は231億円まで54%も減少している。JR北海道の経営危機や北海道内の鉄道路線の存廃問題についてはさまざまな問題が複雑に絡み合っていることも事実であるが、もとをたどれば本来、年間500億円が適正額とされた赤字の穴埋めに使われるはずであった経営安定基金の運用益が低金利政策によって減少し、JR北海道の資金繰りを徐々に苦しめていったことにほかならず、国の運輸政策の不作為が根本的な原因と言わざるを得ないだろう。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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