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「香港人権・民主主義法」が成立。これは絶好のタイミング。習近平“国賓”来日中止の決定を!

山田順作家、ジャーナリスト
日本国民はこんなシーンを見たくない(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 11月27日、とうとうトランプ大統領が、「香港人権・民主主義法」に署名し、同法案が成立した。24日の区議会選挙での民主派の圧勝(452議席のうち85%の385議席獲得)を受け、アメリカは、香港の人権、自由、民主主義を守る姿勢を明確に示したことになる。と同時に、中国政府の弾圧政策を容認しないことも示したことになる。

 しかし、日本政府は、これまで香港情勢に対しては「懸念」を表明するだけで、なにもしてこなかった。単なる「フェンスシッティング」(傍観者、日和見)を決め込んできた。さらに、安倍政権は、来春、中国の習近平主席を“国賓”として迎えるというのだから、常軌を逸している。

 なぜなら、そのことで日本が世界に発するメッセージは、人権と自由、民主主義を破壊する中国の行動を認めるということになるからだ。習近平 “国賓”来日は、はっきり言って亡国行為である。

 なぜそうなるのか?

 以下、直近2カ月の主な動向を振り返ってみたい。

[10月16日]、米国務省は、米国駐在の中国外交官に対し、米国の政府職員や地方の州、市などの地方自治体の職員と面会したり、米国の大学や研究機関を公式訪問したりする際に、国務省に事前に届け出ることを義務づけると発表。

 この措置は、1979年の米中国交樹立以来、初めて取られた措置。旧冷戦でソ連に対して取ったものと同じで、中国はこれにより、明らかにアメリカの敵国となった。

[10月24日]マイク・ペンス副大統領が、ウィルソンセンターで「対中冷戦宣言」第2弾とも言うべき演説を行った。

 ペンス副大統領は、中国を「安全保障と経済上の競争相手」と位置付け、対決姿勢を明確に打ち出した。そして、中国政府を、宗教の自由を圧迫し、100万人のウイグル・ムスリムを監禁・迫害していると非難した。そのため先月、トランプ大統領は中国の監視等に関わる公安部門と8つの企業に制裁を加えたと述べた。

(この企業とは、監視カメラ大手のハイクビジョンや顔認証大手のセンスタイムなど。これらの企業がファーウェイと同じくエンティティー・リスト入りした)

 さらに、ペンス副大統領は、台湾を「中華文化における民主と自由の灯台の一つ」とし、台湾支持を明確化した。さらに、香港のデモにも言及し、香港市民の人権と自由、民主主義を守るためアメリカはメッセージを発し続けるとした。

 このペンス演説で特筆すべきは、尖閣諸島問題にも触れ、中国の行動を非難したことだ。

[11月5日]米議会で中国の人権状況を監視する「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会」(CECC)は米国税関・国境警備局(CBP)に書簡を送り、拘束されているウイグル族の強制労働により製造された衣料品の輸入を禁じるよう要請した。

 すでに、人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチによって、ウイグル製の「新疆綿」を使用したアパレルメーカーが告発されており、そのなかには日本の「ユニクロ」や「無印良品」も含まれていた。

[11月16日]ニューヨーク・タイムズが、電子版で、中国政府が新疆ウイグル自治区でウイグル族を強制的に収容していることを示す内部文書400ページ余りを入手したと報道。

 中国政府がテロ対策を目的に職業訓練を行っていると主張する施設では、外部と通信が遮断され、厳格な規律の下で、徹底した“思想教育”が行われていると指摘。2014年、習近平主席は新疆ウイグル自治区で行った演説で、取締りについて「いっさい容赦するな」などと指示したという。

[11月22日]米連邦通信委員会(FCC)は、政府の補助金「Universal Service Fund」(USF)を受ける通信事業者が、ファーウェイやZTEから製品やサービスの購入を禁止することを決定した。

 これにより、5Gと安全保障において、中国企業の排除を決定的に行っていくことがはっきりした。

 以上のように、表向きの貿易戦争とは別に、アメリカは対中冷戦を戦ってきている。この戦争は長期戦であり、中国経済がアメリカ覇権を脅かさない程度に衰退するか、北京政府が体制崩壊するまで続く。貿易戦争の矢面にはトランプ大統領が立っているが、米中冷戦は、共和党も民主党も一枚岩で、議会をあげての戦いである。

 では、この間、日本はなにをしていただろうか? 

 外交的には韓国との「 GSOMIA」問題があったが、対中政策は一貫して「友好関係」維持だった。

[10月22日]天皇陛下の「即位礼正殿の儀」(即位の礼)に、中国から王岐山国家副主席が来日し参列。

 王岐山氏は、政治局常務委員を引退したものの、その後も党内序列を超えた別格の存在。平成2年11月の即位の礼には当時の呉学謙副首相が参列したが、王岐山氏はそれより格上。このような大物を出してきたことは、米中冷戦で窮地に陥りそうな中国が日本を懐柔しようという意図が見え見え。

[10月25日]ロイターが英半導体設計大手ARMが、ファーウェイへの半導体技術の供給を継続すると表明したと報道。

 英ARMは、ファーウェイ傘下の半導体企業ハイシリコンに、同社が製造する半導体のアーキテクチャーを提供している。これがないとファーウェイは機器をつくるのが困難になる。いわば、窮地にあるのに、英企業ということで米国の規制外にあることを理由に供給を継続した。しかし、英ARM は、ソフトバンクグループが巨額買収した、いわば日本企業である。

[11月4日]安倍首相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合のために訪問したバンコク郊外で中国の李克強首相と約25分間会談。

 李首相は12月に中国・成都で日中韓首脳会談を開く方針を表明し、安倍首相はこれを期待すると表明。また、来春に予定する習近平国家主席の“国賓”来日に向けて協力することも確認した。この日中韓首脳会談は、約2年ぶりのことになる。

 

[11月25日]安倍首相は、中国の王毅国務委員兼外相と官邸で会談。来春に予定する習近平国家主席の国賓としての来日に向けた連携を確認した。

 この会談の冒頭で、安倍首相は習氏の“国賓”来日について「日中新時代にふさわしい、有意義なものになるよう双方で努力していきたい」と述べ、これに対して、王氏は「中日関係は当面、正常な発展軌道に戻った。安倍首相が重要な役割を果たしたことに称賛の意を申し上げたい」と応じた。

 安倍首相が、習近平主席の来日を正式に要請したのは、今年6月のG20サミット(大阪)での習主席との会談の席だった。すでに、香港ではデモが始まり、米議会は超党派で「現在の危険に関する委員会:中国」(Committee on the Present Danger:China)を設置していた。

 米議会で、このような委員会が設置されたことは、第二次世界大戦後、3度しかない。

 1回目は1952年、トルーマン政権のときで、これは朝鮮戦争の勃発を受けて、ソ連の脅威に対抗するために設置された。2回目は1976年、レーガン政権時で、このときもソ連の脅威に対処するためだった。3回目は2004年、ブッシュ・ジュニア政権時で、このときはテロとの戦いが目的で設立された。

 安倍首相が言う「日中新時代」とはなんなのだろうか?

 アメリカの明確な敵となった中国に対し、アメリカとの「希望の同盟」(安倍首相自身が米議会の演説で述べた言葉)を維持しながら、さらに仲良くしていくということなのか。

 トランプとも習近平とも仲良くしたい。もし、それができれば、自分は大物宰相だ。そう考えているのかもしれない。

 しかし、歴史的に見て、2大国のどちらにもいい顔をして媚びへつらった国は、たいてい滅んでいる。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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