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ハリー王子とメーガンさんは、インタビューで王室の人種差別に触れるのか。英連邦王国の危機?

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
ロンドンのマダム・タッソー館の蝋人形。コロナ禍で閉館中にお手入れ。2020年。(写真:REX/アフロ)

3月7日夜、アメリカで、ヘンリー王子(愛称ハリー)とメーガンさんの2時間のインタビューが公開される。日本では8日の午前である。

メーガンさんだけが答えている部分と、夫婦二人で答えている部分の、二部構成だという。

ここで最大の注目点と言える部分は、二つあると思う。

一つは、メーガンさんが「黒人」であることで、王室内で人種差別を受けたことがあると発言するかどうか。そこまであからさまに言わなくても、人種差別的だと感じさせるものがあったと示唆するような発言をするかどうか。

もう一つは、結局二人(特にヘンリー王子)は何がしたいのか、どういうつもりなのか判明するのかどうかである。

アメリカの人種問題と夫妻の言動

いまアメリカでは人種問題がとても大きな問題となっている。大地殻変動といってもいい。

これはアメリカ史上初の黒人大統領、バラク・オバマが登場した時から始まっていると言えるだろう。あのトランプ大統領の登場と政治は、オバマ時代に対する白人の反動という側面がある。

もしメーガンさんが人種問題に言及したらどうなるか。未だに王族や貴族といった身分制が存在し、その頂点に立つ英国王室は大打撃を受けるだろう。

よく日本語記事では「英国王室は、このインタビューに対して戦々恐々とした思いである」という内容が書かれている。最も英国王室が恐れているのは「王室は人種差別主義だ」というレッテルを世界中で貼られてしまうことなのだろう。単なる「いじめ」問題ではないのだ。

2020年、アメリカで黒人のジョージ・フロイドさんが警官に殺された事件の映像は、SNSで全米をかけめぐった。これはアメリカの人種問題にとって歴史に残る事件となった。

以下のビデオで、メーガンさんにとっても同様で「私に強い衝撃を与えた」と語っている。

メーガンさんはこの中で語っている。

数年来、私の(黒人の)母親を、黒人に対する最低の侮蔑言葉で罵るのを聞きました。

私は(黒人と白人の)人種が融合しています。ほとんどの人々は、そのことを語ることができません。私の人生は、壁に止まっているハエのように感じてきました。

(注:メーガンさんもオバマ元大統領も、白人と黒人の間に生まれている。ただアメリカでは、黒人の血が入っていれば「黒人」とみなされる)。

私は、個人的に人種差別の影響を受けたことを超えて、今のこの国がどうあるのか、世界がどうあるのかの現状を見て、物事がより良くなることを望んでいると思います。

メーガンさんとハリー王子は、「Black Lives Matter(黒人の命は大事だ)」運動への支持を表明、何度もネットに登場していたという。これは、大統領選が公式に始まる前の「反トランプ」の表明も同様だ。

もしメーガンさんが人種差別を語ったら、英連邦王国や、英連邦の危機になりかねない。属している国々は、ほとんどすべてが大英帝国の旧植民地で、黒人や、肌の色の異なる人々の居住地域が多いのだ。

「英連邦の日」と同じ日にインタビュー放送

よりにもよって二人のインタビューは「英連邦の日」のお祝いと同じ日で(時差はあるが)、数時間後に放送されるのだ。

英連邦王国(コモンウェルス・レルム)とは、現在は独立国として、英国王を国家元首としてもつ国である。そして、英国王(今はエリザベス女王)が任命した総督が、現地で国王代理をつとめている。

カナダ・オーストラリア・ジャマイカ・パブアニューギニアなど、現在16カ国ある。ただし、元首も総督も形式的に存在するだけで、実際は現地の国会が政治を決めているという。

英連邦(コモンウェルス)は、英国の国王も、任命された総督ももっていない。ゆるやかにつながっている政治連合体である。

英連邦の長は、エリザベス女王である。現在、54カ国ある(英連邦王国を含む)。数は多いが、ほとんどが島である。

3月7日日曜日に、ロンドンで毎年恒例の「英連邦の日」の行事が開かれる。主要な王室メンバーたちがそろって現れるとともに、BBCの番組に出演して17時(現地時間)から放送される。その数時間後に、アメリカで二人のインタビューが放映される。

これはわざとだろうか。フランスのメディアには「スケジュールの調整があったに違いない」と書いているものがある。インタビューの放送中止が無理なら、せめて後にするという意味だろうか(しかもイギリスでのインタビュー放送は、翌日8日の夜である)。

理由を探すなら、2020年の「英連邦の日」のお祝いが、夫妻にとって最後の公式行事の出席だった。「あれから1年」ということではあるのだが。

2020年3月9日日曜日、英連邦記念日にウェストミンスター寺院での式典。これが最後の二人の公式行事の出席となった。
2020年3月9日日曜日、英連邦記念日にウェストミンスター寺院での式典。これが最後の二人の公式行事の出席となった。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

人種問題は、アメリカの建国の年の問題にまで発展している、大問題である。

「アメリカの建国は、最初の黒人奴隷がアメリカに到着した1619年とするべきだ」とする「1619年プロジェクト」を、『ニューヨーク・タイムズ』が発表。

トランプ大統領(当時)陣営が猛反発して、「愛国教育」プランを発表。バイデン新大統領が、就任初日に取りやめるという事態が起きている。

参考記事:なぜトランプは根強く支持されるのか:揺らぐ建国の歴史と人種問題。「愛国教育」でバイデンとの対立 1

このようなアメリカの状況で、人種差別について発言し続けたメーガンさん。

もしあからさまに英王室での人種問題に言及すれば、英王室との断絶は必至だ。もはや「戦争」レベルである。そうすれば夫であるヘンリー王子を苦しめることになるのではないか。

それに、アメリカや英国内のみならず、英連邦内の夫妻の白人支持者はどう反応するのか、未知数である(下卑た物言いをするのなら、この夫妻に出資する企業等はリベラルな「白人」が多いだろうが、あまり言い過ぎると、顧客がリベラルな人ばかりとは限らないので、どう反応するかも未知数だ)。

といって、もしまったく人種問題に言及しなければ、メーガンさんは多くの支持者を失望させ、失うことになりかねない。バイデン政権となり、ジャマイカ生まれの黒人の父とインド出身の母をもつカマラ・ハリスという女性副大統領が登場した今のアメリカは、メーガンさんにとっては追い風なのだ。

おそらく「示唆する」レベルになるのではないだろうか。

ヘンリー王子の覚悟は

上記で「ヘンリー王子を苦しめることになりかねない」と書いたのは、王子に英王室と断絶して生きる覚悟がどれほどあるのか、わかりかねるからだ。

ここで二つ目の問いになる。結局、二人(特に王子)はどうありたいのか、どういうつもりなのか。そこがよくわからない。

夫妻は2020年に1月に、エリザベス女王から珍しくも一人称で「二人はもう王族の現役メンバーではない」と告げられている。さらに2021年2月には「もう王族としての責任も義務も継続しない」と宣告されている。それなのに王子は、自分たちの慈善事業や奉仕を「公務」と呼び続けている。

ヘンリー王子は、最近、別のインタビューに応じている。1週間ほど前の2月26日にアメリカで放送された。

コメディアンであるジェームス・コーデンが司会をつとめるアメリカのトーク番組「The Late Late Show With James Corden」である。

ここで気になったのは、王子の以下の発言である。

私たちの人生、私の人生は常に公務についてのものでしょう。メーガンはそれに従事していました。そして私たち二人は公務を行うことを楽しんでいました。思いやりを持って人々を幸せにしようとし、私たちができる少しでもいいので世界を変えようとしています。

私に関する限り、あちらの側でどのような決定がなされようとも、私は決して離れることはありません(「離れる」の原語はwalk away。責任逃れをする、逃げ出す、撤退する等とも訳せる)。

私は常に公務を続けるでしょう。私が世界のどこにいようとも、変わりません。

「公務(public service)」という言葉を何度も使っている。

さらに、コーデン司会者は、家族を守るために英国から離れたことをどう思うか、言葉を変えて何度か王子に聞いている。彼はイギリス人で、王族が英国を永久に去ったことの結果をわかっているように見える。

しかし王子は、慈善事業を続けていると答え、「英国で行っていたのとはちょっと違うやり方で」とか「私はステップ・ダウンというよりも、ステップ・バックしたのだ(退陣ではなく後退した)」と語っている。

もしかしたら、王室の措置に大きなショックを受けた王子に対し、親しいアメリカ人が「アメリカにいても、何も変わりはありませんよ。アメリカで行う慈善事業も、今までのあなたがしてきたことと同じです。あなたの公務ですよ」とでも説得したのだろうか。

ヘンリー王子が慈善事業を続けるとしたら、素晴らしいことだ。しかし、それは決して「公務」ではない。エリザベス女王の発表だけではない。彼は大変重要なことをわかっていないようだ。

王室をもつ国民は、国外に永住してしまった王族など、必要ないのだ。王族は国にいなければならない。一時的に、病気やその他の理由で外国に住むのなら許容されるかもしれないが、王子のようにアメリカ人の妻とアメリカに永住してしまっては終わりである。

フランス革命では、もしルイ16世と王妃マリー・アントワネットが国外逃亡さえしなければ、フランスは立憲君主国になったかもしれない(途中でみつかってパリに連れ戻された)。このバレンヌ逃亡事件で、世論が激変したのだ。

王子の母親のダイアナは、どんなに辛くてもイギリスに住み続けて慈善事業を続けた。だから彼女は、イギリスの大輪のバラとなり、その名声は世界にも広がったのだ。

王族は特権階級であるが、常に国民と苦楽を共にしなければ、存在価値はない。それには一緒にいなければならない。「病めるときも健やかなるときも、死が二人を分かつまで」と誓った夫婦と同じように。

東日本大震災のとき、ネットで「天皇陛下が皇居から逃亡した」という噂が広まった。そのように、国民は「皇室(王室)は自分たちと共にあるのか」を根本的に気にしている。

宮内庁担当官は、記者がその噂について尋ねたとき、「そのような質問に答える必要はない。陛下がどこにおられるか、国民の方々はよくご存知のはずだ」という内容を答えた。これが信頼関係というものだろう。

この感情は、王室がない国のアメリカ人にはわからないだろう。理由はどうあれ、このことがヘンリー王子にはわかっていないのだろうか、それとも、後から気づいたけれど、辛すぎて受け入れたくないのだろうか。

しかし・・・若い時は仮装パーティーでナチスの格好をして、上流階級の仲間と一緒にふざけていた王子が、信じられない変わりようだ。軍隊での経験、オバマ大統領夫妻との出会いが、彼を変えたのだろう。

もう後戻りはできない。王子であることはできるだけ忘れて、アメリカの一市民として自由を享受して、幸せになってほしい。

※インタビューは終了し、全貌を紹介する記事を発表しています。インタビューで語られた二人の生の声が、日本語で読めます。長いので何回かに分けています。よかったらご覧ください。

【インタビューの全貌を紹介】メーガン&ハリー、オプラに語る1:キャサリン妃とエリザベス女王編

◎参考記事:ヘンリー王子はなぜメーガン・マークルさんを選んだのか。オバマ前大統領夫妻との関係は(2018年5月 Yahoo Japan 月間MVA受賞記事)

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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