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仏英が欧州軍のウクライナ派遣を検討している。目的は何?平和維持軍? 欧州人は欧州防衛をどうする(2)

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
マクロン大統領とスターマー首相。11月11日パリ凱旋門近くで兵士を閲兵(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ヨーロッパの軍隊や民間軍事会社をウクライナに派遣するーーこの件に関する話し合いが、フランスとイギリスとの間で再開されたことを、仏『ル・モンド』紙が11月25日に報道した。裏付けのある情報筋による情報とのことだ。

スターマー英首相は、11月11日にフランスを訪問した。第一次大戦終了の記念式典のためだ(連合国とドイツの休戦協定日で、フランスでは祝日)。この訪問のおかげで、ここ数週間、話し合いに勢いがついているという。

思えば今年の2月、マクロン大統領は、ウクライナに欧州軍を派遣する可能性を言い出して、多くのEU加盟国から大変強い反発を受けた。特にドイツは筆頭格だった。

今、マクロン仏大統領とスターマー英首相の間でこのような動きが生じたのは、もちろん来年1月にトランプ氏がアメリカ大統領に就任することへの反応である。

しかし、これは一体どういう意味なのだろうか。彼らは何を行うつもりなのだろうか。

米露の交渉から外されてはならない

ここ最近、欧州のニュースを追って見ていると、関係者や言論人たちには、共通の思いが感じられる。

それは、アメリカとロシアが欧州を抜きにしてウクライナをめぐる駆け引きを行い、欧州の行く末を決めてしまうようなことがあってはならない。欧州のメンバーは、必ず交渉のテーブルに着かなくてはならない――というものだ。

いよいよ、もしトランプ政権がウクライナの意志に沿わない形で和平合意を強要するのなら、欧州が軍を派遣してウクライナを援助しようという意味なのだろうか。

どうもそうではなさそうだ。むしろ、外交・軍事を駆使して、和平案にどれだけ欧州が関与できるようにするか、和平案が結ばれた後にどうするか、を考えた話のようだ。

ウクライナ戦争の行く末について、トランプ次期政権の意向が機密であるように、欧州側の話し合いの内容も機密である。

だから現段階では、ジャーナリストが取ってきた情報や、わずかな発表からしか、推測することしかできない。トランプ次期政権による和平案にどれだけ欧州側が関与できるかは、現段階では不明である。

英国軍関係者は同紙に「英国とフランスの間で話し合いが進められているのは防衛協力に関することで、ウクライナと広い意味での欧州安全保障に焦点をあてており、特に欧州の同盟国の間に硬い中核をつくることを目的としている」と語っている。

これらの発言は、11月22日にロンドンを訪問したフランスのバロ外相の発言と対応していると、同紙は言う。

ロンドンを訪問し、ラミー英外相との会談にのぞむフランスのバロ外相。11月22日。
ロンドンを訪問し、ラミー英外相との会談にのぞむフランスのバロ外相。11月22日。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

バロ外相は22日にイギリスのラミー外相とロンドンで会談した。

23日のBBCのインタビューでは、ウクライナ支援について西側同盟諸国は制限を設けるべきではなく、「レッドラインを設定したり、表明したりすべきではない」と述べた。

フランス軍が戦闘に参加する可能性についての質問には、「私たちはいかなる選択肢も放棄しない」と返答した。まるで2月のマクロン大統領のようだ。

2月、マクロン大統領は、西側の部隊をウクライナに派遣する可能性について「合意はない」ものの、「何も排除すべきではない」と述べた

さらに「一定の要素の配備が正当化される、安全保障上の必要性が生じるかもしれない。それを排除すべきではない」とも述べ、「私が支持するのは、戦略的なあいまいさだ」とも付け加えた。

このことは欧州連合(EU)加盟国の中から大きな反発が起き、特にドイツは筆頭格とも言えた。

そしてロシアはこれまで激烈な反応をフランスに対し示してきたと同時に、西側諸国が部隊をウクライナに派遣すれば、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)全体との直接的な紛争になると警告してきた。

つまり、マクロン大統領とフランスにとっては、前回は上手くいかなかったが、言っておいた甲斐があり、今回はイギリスという味方を得て、ロシアへ大きな圧力をかけることができる。これは、欧州が「交渉のテーブルに着かなくては」と団結し始めているからこそ可能で、効果がある手法となった、ということか。

さらに、トランプ次期政権に対しても何かのシグナルを送っているのだろうか。

フランスが実際にしていること

それでは、フランスは実際に何をしているのだろうか。現状はどうだろう。

実際のところ、国防省やエリゼ大統領宮では現在、通常兵力や民間軍事会社の派遣に正式なゴーサインは出ていない。

しかし、数ヶ月前から、その提案は明らかにテーブルの上にあるのだと同紙は報じている。

そのひとつが、フランスの武器輸出契約と、関連する軍事ノウハウの移転を監視するフランス国防省の主要機関である「国際防衛評議会(Défense conseil international/DCI)である。DCIはフランス政府が34%を所有している。
部分民営化の一環として、21,56 %の株式を売却したのは、今年の3月のことだ。

DCIは、80%が元軍人で構成されている。ウクライナ兵の訓練は、フランスやポーランドで既に行っているように、ウクライナで行う用意があるだろうという。

フランス東部の軍事基地で訓練を受けるウクライナ兵1万5000人を訪問したマクロン大統領。10月9日。
フランス東部の軍事基地で訓練を受けるウクライナ兵1万5000人を訪問したマクロン大統領。10月9日。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

また、必要であれば、キーウに送られたフランス軍の装備を維持することもできる。DCIは、すでにウクライナに進出している英国のバブコック・インターナショナル社から、利用可能な施設を共有するよう打診されている。

バブコック社は5月、技術支援の拠点をウクライナに設置するための作業が「進行中」であると発表、
「軍用車両の修理とオーバーホールを含む」と年次報告書で述べている。しかし、英仏の協力関係は現在に至るまで発展していない。

ただ、11月8日にバイデン政権は、ウクライナでの米軍事企業の活動禁止措置を解除したとCNNが報じた。アメリカの請負業者は、F16やパトリオット防空システムなど、キーウに送られた軍備を維持するためにウクライナで公然と活動できるようになった。

今までは、ウクライナから隣国のポーランドやルーマニアなど、NATOの加盟国に搬出して行われてきが、今後はウクライナ国内で行えるので、兵器をより早く前線に戻すことができるようになるという。

このことは、仏英軍事企業の関係にも、影響を及ぼすのではないだろうか。

とはいえ、このように、フランスの政治家たちは、言葉巧みに操るものの、実際のところはまだ(?)大きなことはしていない。

このような姿勢は、元々フランスはそういう国だ(歴史上に色々存在する)とも言えるが、EUという組織のメンバーであることから来る姿勢なのかは、分析が難しい。

西側の軍事顧問は既にウクライナで働いているし、ウクライナでウクライナ兵に訓練するために西側の軍人が滞在とか、西側の高度な武器の使用のために西側の要員が付いているとかいう話は、今までもあった。

どんどんエスカレートして、今はロシア領内の軍事目標に打ち込むための長距離のミサイル・システムに焦点が当たっている。アメリカのATACMS、イギリスのストームシャドー、次はフランスのスカルプか。

フランスとイギリスのトップが話しているのは、実際はこの程度の話なのだろうか。

平和維持軍?

11月6日付の米『ウォール・ストリート・ジャーナル』 紙は、次期大統領のチームメンバー3人の匿名の言葉を、初めて報じた。

彼らは、停戦後「平和維持軍」の支援を受けながら、前線を軍事化地帯として封鎖する計画について述べた。前線は約1290キロにも及ぶ(車で青森県から和歌山県くらい)。

この案は、事実上、ロシアがウクライナの国土のおよそ2割を占領し続けることになるので、ウクライナは承知しないのではないかと言われているが・・・。

問題は「平和維持軍」とはどこから派遣される軍隊であるかだ。

日本ではあまり報道されなかったようだが、トランプ氏のチームメンバーは米紙に対し、この部隊には「アメリカ軍は関与せず、アメリカが資金提供する国際組織からも派遣されないだろう」と、NATOを例に挙げて語ったという。また「訓練やその他の支援を提供することはできるが、銃身(砲身)はヨーロッパ製になるだろう」とも語っている。

ということは、平和維持軍とは、欧州から派遣された軍隊になるのだろうか。仏英首脳が話し合っているのは、このことなのだろうか。

フランス国際関係研究所の研究者エリー・テネンバウム氏によると、停戦合意が成立した場合、ウクライナの安全と、ロシアによる停戦遵守を確保する目的で、ウクライナに通常兵力を派遣することは技術的に可能だという。

「その場合、ウクライナ東部に配置されるこれらの部隊は、NATO第5条(同盟国が攻撃を受けた時、反撃を義務付ける)ではなく、定義されるべき航空・海軍の保護システムによって支援されることになるでしょう」とも。

「目的は、英語でトリップワイヤー・モデルとも呼ばれる高度な『ハリネズミの(ヘッジホッグ)』部隊をもち、停戦を守らせることを担当しながら、ロシアの大規模な攻撃の再開を阻止することもできるようにすることです」とテネンバウム氏は説明する。

今日、双方の攻撃の間に立ち、国連安全保障理事会の任務を麻痺させられてしまっている、レバノンの国連暫定軍とは正反対である。

ドイツは今、政治的困難によって弱体化しているように見える。連立政権が崩壊し、首相信任投票が12月16日に決定、総選挙は2025年2月に行われる予定である。

「したがって、ヨーロッパで唯一の核保有国であるフランスとイギリスが重要な役割を果たすべきです。 バルト三国、ポーランド、スカンジナビア諸国も不可欠な候補のようです」と氏は付け加えた。


テネンバウム氏の仮説のように、フランスとイギリスの話し合いは、停戦後の「平和維持軍」についての話し合いなのだろうか。

同時に、「戦略的あいまいさ」を駆使して、軍隊派遣の話を少しずつわざとメディアにリークしてロシアを苛立たせ、できるだけ停戦交渉では欧州に有利にもっていこうとしているのだろうか。

マクロン大統領は何を目指しているのか

あの2月のマクロン大統領の、「戦略的な口」だけでも、ロシア側の反応は激烈なものだった。

何ヶ月もの間、ロシアとフランスの間で丁々発止というか、険悪なやりとりの応酬は凄まじかった。

大事にはならなかった一つひとつは、他の国の報道では現れなかったようだが、毎日見ているこちらは「殺す道具によらないまでも、相手へのダメージ外交、嫌がらせ外交って、こんなにたくさん方法があるんだ」としきりに関心したものだった。双方の胆力にも(ヨーロッパ恐るべし)。

だからフランスとイギリスの「軍隊派遣」の話は、内実はともあれ、ロシアに対してブラフは相当効くのではないかと思う。

戦争への緊張が高まった頃、若いマクロン大統領は、我こそはとロシアに交渉に乗り込んだことがあった。しかしコロナ禍とはいえ、プーチン氏に完全な塩対応を受けた。本当に彼は成長した。2022年2月7日。
戦争への緊張が高まった頃、若いマクロン大統領は、我こそはとロシアに交渉に乗り込んだことがあった。しかしコロナ禍とはいえ、プーチン氏に完全な塩対応を受けた。本当に彼は成長した。2022年2月7日。写真:ロイター/アフロ

しかし、もし仮に停戦後に、欧州各国軍による「平和維持軍」が実現したとして、NATOの5条の適用外なのであれば、ロシアが合意を破ったときにはどうなるのだろうか。

それが故に、英独は防衛同盟を10月に実現させ、仏英独の三角形の協力体制をつくったのだろうか。

それとも、NATO5条適用範囲になるように、アメリカとの交渉でもっていこうとするのだろうか。

さらに、これを機会に、マクロン大統領や他の賛同するリーダー達は、欧州の「戦略的自律(自立)」を実現する道へと導こうとするのか。

今は「欧州が米露の交渉から外されてはいけない」と、欧州が(一部をのぞいて)団結するような機運を見せ始めているものの、そこまでになったら、ドイツや、今や大きな牽引力となっているポーランド、バルト三国などの国々から、異論が起こるに違いない。

しかしここで言う「欧州」とは何だろうか。「欧州」と聞くたびに筆者の頭の中には「それってどこの国のことでしょう」という質問が反射的になされるのだが、マクロン大統領の提唱する「欧州の自律(自立)」とは、基本、EUの戦略だったはずだ。

マクロン大統領とフランスは、フランスの発展はEUの発展と共にある、EU内で大きな力を得ることが、フランスが国際社会で大きな力を握ることにつながるという考えが基礎原理になっていることは間違いないのだが。

それとも、2022年にマクロン氏が自ら立ち上げて、もはやちっとも話題にならないが、実は継続している「欧州政治共同体」が、何かの形で化けるのだろうか。

11月7日ハンガリーのブタペストで欧州政治共同体の会合が開かれた。マクロン大統領は「他者が書いた歴史を読みたいのか?・・それとも、我々は自らの歴史を書きたいのか」と檄を飛ばした。ゼレンスキー氏も参加。
11月7日ハンガリーのブタペストで欧州政治共同体の会合が開かれた。マクロン大統領は「他者が書いた歴史を読みたいのか?・・それとも、我々は自らの歴史を書きたいのか」と檄を飛ばした。ゼレンスキー氏も参加。写真:ロイター/アフロ

そもそも、世界の最先端の軍事技術をもつアメリカから、自分たちの都合のよいように自律(自立)するなんて出来るのだろうか。

それともジリツ、ジリツと言っても、現実は欧州から離れゆくアメリカを前に、自律(自立)以外の道がないだけだろうか。

自律(自立)した欧州は、果たして平和なのだろうか。

それでも、日本の安全保障環境から見たら、羨ましい環境と戦略と行動ではある。

続く。

【参考記事】ヨーロッパ人は欧州防衛をどうするのか(1)「NATOの欧州化」とは:トランプ氏とウクライナ・ロシア

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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