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1ゴール、1アシスト。ポジション変更後も輝く久保建英(エスパニョール戦分析)

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
今の久保はどこで使われても攻撃のリーダーになっている(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

ポジションが変われば役割が変わる。だが、一番怖い選手であることは変わらない。久保は新ポジションでもなぜ輝いたのか?

13日スペイン時間夜のリーガ第21節エスパニョール戦、久保建英は1ゴール、1アシストの大活躍だった。

コパ・デルレイ、バルセロナ戦に敗れ、リーガではレアル・マドリーに引き分けた後バジャドリーにも敗れて嫌な空気になりかけていたが、「ネガティブな流れを断ち切った」(試合後の本人談)

久保はセルロートと並ぶ、攻撃の原動力となっている。

■[4-3-3]の右トップ、という第三の選択

実はこの夜、彼の配置に変化があった。久保に与えられた今季3つ目のポジションである。

1つ目のポジションは、[4-4-2](中盤ダイヤモンド型)の左セカンドトップ。セルロートと2トップを組む形だ。

2つ目のポジションは、同じ[4-4-2]のトップ下。セルロートが右FW、オヤルサバルが左FWで2トップを形成し、久保が彼らの斜め後ろに入る形だ。この形は、代えの利かないトップ下シルバが負傷し、オヤルサバルが長期負傷から復帰したことで生まれた。

3つ目のポジションは、昨夜の[4-3-3]の右FW。CFがセルロート、左FWにオヤルサバルが入り、そして久保が右という形だ。

今までも久保が[4-3-3]の右を任されることはあったが、それは[4-4-2]のトップ下として起用された後、流れの中でポジションチェンジした結果か、もしくは選手交代でシステムが変更された結果によるものだった。

この日のようにスタートから固定、というのはなかった。

■オヤルサバルが最も輝く形にした

アルグアシル監督はなぜシステムを変え、久保を動かしたのか?

1つは、シルバの負傷。

久保を含め代役を務められる選手がいないので、トップ下のポジションが不要になった。

2つ目は、オヤルサバルの有効活用。

復帰後、久保と代わる代わる左FWとトップ下を務めていたが、どちらでも生きていなかった。狭いスペースで細かくボールを動かせる器用さがなく、久保のようなリズムチェンジとスピードによるドリブル突破がないからだ。

オヤルサバルにはスペースを与えないといけない。

左サイドでボールを持たせると、優れた戦術眼とパス能力でワンタッチ、ツータッチで周りを生かし自分も生きて劇的に状況を変えられる。ピンポイントの硬軟のセンタリング、強烈で精確な左足のシュートがある。

もともと、負傷する前オヤルサバルは[4-3-3]の左トップで絶対的なレギュラーだった。昨夜は今季のベストパフォーマンスで、どんな選手か?と問われれば、こんな感じ、とビデオを見せれば済むような内容だった。

最少の介入で最大の攻撃インパクトを残せるセンスの持ち主で、FK、PKのスペシャリスト。馬力もキャプテンシーもある。だからこそ、スペイン代表ルイス・エンリケ前監督は最後までカタールへ連れて行こう、と粘ったのだった。

3つ目は、久保がこれまでテスト的に使われていた[4-3-3]の右で結果を出していたからだ。

例えばレアル・マドリー戦。キープの軸となった攻撃も良かったが、特に良かったのは守備。久保は相手左SBカマビンガをよく追い掛けて完封し、右SBと協力してビニシウスを封じ込めた。

■前に残れる“久保シフト”に感謝

ポジションが変わって久保の役割も変わった。これはアルグアシル監督の久保用のシフトのお陰である。

例えば、守備時の負担がより軽減されている。これは逆サイドのオヤルサバルと比較すればよくわかる。

[4-4-2]のセカンドトップではサイドを背走する必要がなかったが、[4-3-3]のサイドでは相手SBを追い掛ける必要がある。オヤルサバルも久保もよく追っている。この点では同じ。

違うのは、自陣でのセットプレー(CK、FK)の守備で、オヤルサバルが味方ゴール前まで下がっているのに対し、久保が前に残っていること。セルロートも下がることが多いので、前線には久保一人が残る形にしばしばなる(これはもちろん、ハイボールと密集に強い2人と、そうではない久保という違いがあるからだ)。

そのため、自陣でインターセプトがあると仲間はまず久保を探す。

彼はどこにいるか?

ほとんどの場合は右ライン際にいる。といっても最初からそこにポジショニングしているわけではなく(そんなことをしたら簡単にマークされる)、中央にいて味方のボール奪取とともにスペースのある右へ流れるのだ。こうすると、久保についていたマーカーは危険な中央をケアしないわけにはいかないので、マークを緩める。

サイドで久保がキープしている間に、セルロートやオヤルサバルが上がって来る。

この局面で、久保単独でフィニッシュまで持って行くことは不可能だが、カウンターの起点にはなれるし、チームに一息つかせて敵陣まで押し上げる時間的余裕を稼いでいる。

結果的に、久保が苦手な背走回数は減り、得意なキープ力、ドリブル力が生かせる。体力の消耗が抑えられた久保よりも、オヤルサバルが先に代えられることが多くなっている。

■フィニッシュ、ドリブル、キープに余裕

サイドにはスペースがあるので、前進時にボールをもらった時の振る舞いも違う。

コンビの主な相手は、右インサイドMFのブライス・メンデス。ブライスも久保も器用なので足裏やヒールを使った曲芸のような小技を、時には右SBのバレネチェアを交えて、披露しつつサイドを上がる。セカンドトップの時にはこんな遊びの余裕はなかった。そんな暇があったら、シュートやセンタリングをしないといけなかったから。

さらに、右サイドは逆足(久保は左利き)なので、半身になれば常に左足からのシュートが狙える。対角線へのドリブルを仕掛けて抜いたら撃つ、というのはマジョルカ時代にもよく見られたプレーだ。エスパニョール戦の3点目はこの形から生まれた。

そして、逆サイドからの崩しの際には、大外からのシューターとなる。同1点目はこの形からの見事なボレーだった。

オヤルサバルが最もはまり、久保のパフォーマンスも落ちない、セルロートはゴール量産中。このオヤルサバル、セルロート、久保の3トップはしばらく維持されるとみる。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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