Yahoo!ニュース

普及が進んだ落雪式住宅 雪の人的被害から身を守るには

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
落雪式住宅(右)と雪下ろしが必要な従来の住宅(左)(筆者撮影)

 日本海側の各県の今シーズンは、中(なか)2シーズンをおいての大雪となりました。最近普及が進んでいる落雪式住宅での除雪作業。もしかしたら、屋根を落雪式に換えて初めての大雪を迎えるご家庭もあるかもしれません。除雪する際の注意事項は、落雪を処理する時の溺水と落ちてきた雪による閉じ込めです。応急手当としては、いずれも早期発見、一刻を争う心肺蘇生法の実施、そして保温です。

 ★★1月9日追加情報、三連休酷い状況です。こちらで確認

除雪の安全、注意事項

 雪国新潟県庁ばかりでなく、NHKをはじめとする報道機関でも再三流されている、除雪作業の安全を守るための注意事項は次の通りです。

「一人でしない」「無理しない」「落雪・転落 気をつけて」を合言葉に、十分注意して除雪作業を行うようにしてください。(新潟県ホームページ 除雪作業中の事故にご注意ください

 雪国の住民である筆者の記事「尋常ではない初雪の除雪 作業中に流雪溝や水路で溺れないために」にて、流雪溝などを使って除雪する時には「2人以上で」「明るいうちに」「子供から目を離さない」と呼びかけたところです。

 屋根の雪を除雪する作業を雪下ろしと言いますが、下ろした雪を消す作業を片付けと言います。これらの作業は必ず対となっています。普及が進んだ落雪式住宅では片付けが中心となり、屋根から人が落ちる心配はなくなりました。とはいっても、特有の事故があります。本稿では、片付け作業中に発生する事故による窒息や低体温に焦点を当てます。

実は落雪式だらけ

 雪国の高齢化は急ピッチで進んでいて、住宅の雪下ろしをはじめとする除雪作業の軽減化が喫緊の課題です。昨今は、農村部を中心に雪が屋根から自動的に滑り落ちる落雪式屋根が普及しています。落雪式屋根のついた新築ばかりでなく、リフォームとして屋根を落雪式にするご家庭もあります。

 特に新潟県では、長岡市よりも南の方向、つまり山沿いに近い所では、図1に示すように落雪式屋根の普及がかなり進んでいて、屋根の雪下ろしの光景がむしろ珍しくなっています。

 そのため、想定される事故としては屋根からの転落よりは、むしろ片付けに伴う事故があげられます。先日新潟県柏崎市で小学生が家庭用除雪機に巻き込まれて死亡する事故があったばかりです。家庭用除雪機による事故は、片付けや道付け(雪の積もった所に人の通り道を作ること)の作業時に発生します。

図1 落雪式住宅がずらりと並ぶ。新潟県内でも屈指の豪雪地帯の風景で、今時は落雪式でない住宅の方が珍しい。このような地区では屋根からの転落事故よりも水路での溺水や雪に埋まる事故が頻発する(筆者撮影)
図1 落雪式住宅がずらりと並ぶ。新潟県内でも屈指の豪雪地帯の風景で、今時は落雪式でない住宅の方が珍しい。このような地区では屋根からの転落事故よりも水路での溺水や雪に埋まる事故が頻発する(筆者撮影)

近年の積雪の統計

 新潟県内にて大雪がどの程度頻発しているでしょうか。図2をご覧ください。これは新潟県内にて大雪警戒本部や豪雪災害対策本部が設置された市町村数を示しています。警戒本部等の設置市町村数が多い年は、豪雪だったことが間接的にわかります。

 近年では2017年度のシーズンが豪雪でした。その前は2012年度と2011年度でした。逆に2018年度と2019年度ではゼロですから、前回の大雪から今年は2シーズン間があいていることになります。今シーズンの皆さんは前回の大雪から年齢で3歳分、重ねていることになります。

 もしかしたら、この3年の間に屋根を落雪式に換えたご家庭もあるかもしれません。そうすると今シーズンは初めて本格的に落雪が稼働するシーズンで、思わぬ事故に備えなければならないかもしれません。

図2 近年の新潟県内にて大雪警戒本部や豪雪災害対策本部等が設置された市町村数(筆者作成)
図2 近年の新潟県内にて大雪警戒本部や豪雪災害対策本部等が設置された市町村数(筆者作成)

雪の被害状況

 図3に近年の雪による人的被害状況を示します。新潟県が冬の時期に例年発表している「雪による被害状況」を参考としてまとめました。

 縦軸の死者・負傷者数の死者数は例年全体の数%に達しています。つまり助かったけれどもかなり危険な目に遭った人は新潟県内だけでも多い年には数百人に達することがわかります。

 そして豪雪の年は死者・負傷者数が多くなり、少雪の年は少なくなる傾向にあることもわかります。従って、高齢化や落雪式の屋根の普及といった要因よりも、とにかく「豪雪になれば人的被害も増える」ことは昔も今も変わらないということです。

図3 雪による人的被害の様子(新潟県発表の雪による被害状況を筆者がまとめて作成した)
図3 雪による人的被害の様子(新潟県発表の雪による被害状況を筆者がまとめて作成した)

 事故の形態としては、屋根から転落する、側溝等に流される、落ちてきた雪に埋まる、除雪機に巻き込まれる、その他があります。ここでは特に雪の片付けに伴って発生する、側溝等に流される、落ちてきた雪に埋まる事故に焦点を当てます。

 図4は近年の雪による人的被害のうち、側溝等に流される、落ちてきた雪に埋まる事故によるものを示します。これらの事故は、全体の被害からするとそれほど数は多くないものの、高齢者がほとんどを占め、さらに致死率が高くなります。

図4 雪による人的被害のうち、側溝等に流される、落ちてきた雪に埋まる事故に焦点を当てた(新潟県発表の雪による被害状況を筆者がまとめて作成した)
図4 雪による人的被害のうち、側溝等に流される、落ちてきた雪に埋まる事故に焦点を当てた(新潟県発表の雪による被害状況を筆者がまとめて作成した)

側溝等に流される

 側溝等に流される事故の現場は、流雪溝と水路でほぼ占められています。比較的流量があって、人の体が流されるくらいの威力があるところで事故が発生します。大量の雪を流して片付けるのですから、当然といえば当然です。

 新雪を片付けるときには、雪の塊でも軽くて水に流れやすく、事故は起こりにくいのですが、十分に締まった雪の塊や水を含んだ雪の塊はこのような水路等で流れにくくなり、塊を崩す作業中に流されたりしています。流雪溝や水路の中で塊を壊すのではなく、陸上で塊を壊し、流れやすいようにしてから捨てましょう。

落ちてきた雪に埋まる

 落雪式屋根から雪が落ちるときには、ある程度の積雪となって、それが屋根の傾斜に耐えられなくなると落ちてきます。図5にその様子を示します。余談ですが、筆者の大学での研究の一つが摩擦の小さな物質の創製です。屋根と雪との間の摩擦を小さくすることによって、近年の落雪式屋根が発達しています。

図5 落雪式屋根からの落雪の様子。ある程度まとまって流れるようにして新雪が落ちてくる(筆者撮影)
図5 落雪式屋根からの落雪の様子。ある程度まとまって流れるようにして新雪が落ちてくる(筆者撮影)

 どちらかというと新雪がいきなり落ちてくるので、雪崩のようです。突然くるので、すぐ下で作業をしていたり、遊んでいたりすると逃げる暇がなく雪に埋まることになります。落ちてきた雪で倒されるとその下に完全に埋まります。立ったまま埋まって顔は外に出たとしても、腰以上の深さまで埋まれば、いくら軽い雪でも身動きがとれなくなります。

早期発見と応急手当

 このような事故から生還するための考え方は、水難事故と共通しています。

 窒息と低体温がその危険性となります。そのため、時間との勝負ですが、早期発見と的確な応急手当ができれば、助かる可能性が高いとも言えます。「除雪作業は2人以上で」と言われるのは早期発見のためです。

流雪溝に流された

 流された人は、流されながら次のグレーチング(鉄の網)の雪捨て口でグレーチングにしっかりつかまって、声を出して助けを呼びます。近くの人は雪捨て口を開けて救助します。一人ではなかなか引き揚げることができないかもしれません。大声で近所の人に知らせます。グレーチングにつかまっている間に体、特に指先が凍えます。すぐに力が入らなくなるので、発見や救助作業に時間をかけることはできません。

 引き揚げて意識があるなら暖かい部屋につれていって、毛布などで保温します。意識がもうろうとしたり、なくなったら、すぐに救急車を呼びます。

 先日、富山県で用水路に流された子供が救助されたニュースがありました。寒い時期ですから、当然この事故も一刻を争うものだったと思われます。

 深さのある水路の場合は、冷水に入っての救助作業はほぼ無理です。落ちた人と同じ運命をたどります。そのため、発見者は一刻も早く携帯電話で119番通報し、救助隊を呼びます。

 落ちた人は厚着の場合が多く、保温は比較的できます。背浮きになって動きを止めて、できるだけ衣服の中の水の入れ替わりを防ぎます。衣服の中で体温で温められた水が、ある程度体温が奪われることを防ぎます。冷たくてつらいですが、救助隊がくるまで頑張ります。

雪に埋まった

 近くの人はスコップをもって、気をつけながら掘り出します。顔が出ていれば話をしながら意識の状態などを確認していきます。意識がもうろうとしていて要領を得ないようであれば、119番通報して救助隊と救急隊を呼びます。

 雪に顔が埋まっている状態なら、掘り出しながら同時に119番通報して救助隊と救急隊を呼びます。掘り出したら、意識の確認から始まる心肺蘇生法に入ります。日本赤十字社などの応急手当の動画で日頃から勉強しておくことをおすすめします。

 呼吸が戻ったり、意識が回復したりしてもそのまま放置せず、明るくて暖かい場所に移動します。移動には大人数が必要となりますので、大きな声で近所の人の応援を得ます。その後、毛布でくるんで保温をして救急車の到着を待ちます。

まとめ

 今回は、近年普及が進んだ落雪式住宅における雪の事故を想定しました。除雪作業すべてにおいて共通するのは、「2人以上で」「明るいうちに」「子供から目を離さない」です。落雪式住宅には特有の事故がありますので、「転落事故がないから安心」と思わず、除雪作業は常に危険と隣り合わせと考えて行動しましょう。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

斎藤秀俊の最近の記事