スーダン首都で激しい衝突 空港を占拠 空軍による爆撃 死傷者多数 今何が起きている?現地インタビュー
現地時間16日午前、スーダンで軍と即応支援部隊(RSF)が首都ハルツームで衝突し、戦車による砲撃だけではなく、戦闘機からの空爆など激しい戦闘が発生。空港が占拠され、多数の民間人が空港内で拘束されている。軍とRSFの攻撃で何人もの死傷者が出ている様子が次々とSNSに投稿されている。
先程、日本時間16日夜10時過ぎ、現地で活動しているJICAスーダン事務所長の坂根宏治さん、JVC・日本国際ボランティアセンター、ハルツーム事務所現地代表の今中航さんに電話やzoomでインタビューした。下記映像と合わせて記事を読み進めてもらえたら。
軍と衝突したRSFは軍事会社、傭兵部隊としても知られており、ダルフール紛争や2019年の市民革命でも虐殺行為を行なっている。ロシアとの距離も近い。今回の衝突はなぜ起きたのか。
坂根さんと今中さんの証言から紐解いていく。
堀)
今、坂根さんがいらっしゃるのはハルツームでいらっしゃいますよね。
坂根)
朝の9時半ごろから銃撃の音が室内でも聞こえるようになってきました。市内各地で銃撃戦が行われ、それがどんどん激しくなってきましたし、昼の12時過ぎには戦闘機も飛ぶようになってきました。
実は、今から2日前、13日にスーダン北部のメロウェ空軍基地でスーダン軍とRSFというバシール政権時代に作られた「即応支援部隊」との間で対立がございました。緊張が高まってきたところで、今日の朝、急きょ銃撃戦が展開したいうのが現在の状況です。
今朝の9時半から既に6時間程経っていますが、今も引き続き銃撃か聞こえる時があります。
堀)
坂根さんご自身、この衝突は予測できたことですか?
坂根)
ある程度の緊張はここ数日間で高まってきていたんですが、戦闘機が出るところまで高まるとは想定していませんでした。非常に驚いています。
◆衝突はなぜ起きた?正規軍と傭兵部隊の緊張 背後にはロシアも
堀)
この状況は「クーデター」なのでしょうか?
坂根)
非常に複雑な状況が発生していまして、2021年10月25日にいわゆるクーデターが発生しまして、それまで行っていた暫定民主政権の民主派のグループが逮捕されたり、解任されたりという事案が発生しました。
その時は国軍もRSFも共に軍政側だったのですが、それから1年以上経ちまして、昨年、2022年の12月に政府を元に戻そうということで「政治枠組み合意」、こちらの言葉では「フレームワークアグリーメント」というのができました。
まず、原則論として元に戻すという枠組みに合意ができました。その後、ファイナルアグリーメント(最終政治合意)を4月1日に、それを踏まえ暫定民主政権を樹立するというプロセスになったんです。タイミングとしては、ちょうどまさに大詰めのところでした。
その大詰めになる最後のポイントが「セキュリティーセクターリフォーム」、つまり軍事部門改革の話だったんです。一番のポイントが軍とRSFの統合問題でした。
軍は2年以内に統合しようと言ってるのに対して、RSFは10年はかかると言っていて、なかなかその折り合いがあってつかなかったんですね。で、それがトリガーになっていまして、軍とRSFの間で、統合前までにどちらが優位な立場を築くのかせめぎあいがあったんです。それが、4月13日、木曜日の北部のメロウェでの攻防です。
スーダンの空軍基地を100台以上の軍事車両でRSFが押さえにかかりました。RSF側はそもそも空軍を持ってないので、そこを押さえようとしたということと、もう一つ。
RSF側の言い方としては、軍がエジプトと調整し、エジプト空軍を派遣して、RSFを狙おうとしていたので、それに対して先制攻撃を行なったと。RSFが軍の制空権を抑え軍用機を飛ばせないようにとしたようです。
軍としてはこの暫定政権移行プロセスの中で、軍は政治プロセスから撤退すると言ってるものの、その中で軍の力が弱まる反面、RSFの力が強くなって治安維持構造が逆転したり、変なことになることを恐れていたので、全体としては政治合意には賛成と言ってるんですが、RSFとの関係をどうするかというところが、ひとつの大きな課題になっていたと思われます。
◆資金源は戦利品として得た「金」採掘権 その影響力は各国に
堀)
まさに2019年の市民革命の時にも「治安維持部隊」として市民の虐殺行為を行ったりですとか、遡るとダルフール紛争でもかなり非人道的な攻撃をする部隊としても、世界で注目を集めました、そういう部隊が新しい政府作りをする、自分たちから主導権を引き渡すようなことをするとはなかなか思えないなと思って注視してきました。RSFは、実際、かなりいろいろなところに資金源も持っているということも聞いたことがあるんですけど、坂根さんからご覧になっていて、このRSFというのはどういう組織、どういう人たちだというふうに見ていらっしゃいますか。
(※下記映像は2019年市民革命を当時取材した際のルポ。ここから民主政権への移行プロセスが始まった)
坂根)
本当に不思議というか、とても特徴のある組織だと思います。堀さん言われたように、バシール政権時代は「ジャンジャウィード」という一つの武装グループでして、この武装グループがダルフール紛争の時に虐殺行為をしたと言われています。
このジャンジャウィードは、バシール政権時代に「ダルフール方面は任せてくれ」と言って、バシールの手先となってダルフール紛争を買って出たところがありますので、バシールに重宝されて、それで首都まで上がってきたグループです。
そのときに「ジャンジャウィード」から名称を変えて「ラピッドサポートフォース(即応支援部隊)」に。おそらく考えてみると、バシールを守るためにあらゆること即応して対応する、これがRSFです。
このRSFと軍の関係というのは非常に複雑です。正規軍である「スーダン国軍」の中に幾つかある諜報機関の一部としてRSFが位置づけられてるものの、RSFは国防軍とはまだ一緒ではないし、また特殊な動き方をするというそういう複雑な構造を持ってるというのが成り立ちの部分としてあります。
通称「ヘメティ」と呼ばれていますが、モハンマド・ハムダン・ダガロという人物がトップでして、へメティの個人的なパフォーマンスで動いているところがあります。
非常に機転が利く人物だと言われていて、これまでにもダルフール等での金採掘権を戦利品として、これまでの紛争の戦利品として押さえ、自分のプロパティーとして採掘をしてきたと言われているんですね。
それが一つの資金源となって非常に大きな金を所有している。
ちょうど2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻しましたが、その前日にへメティ氏はロシアに訪問して今後の協力関係を話してるんですね。恐らくあの当時はロシアに対する包囲網が強くなってくる中で、ルーブルが経済封鎖の影響で使用できなくなる。要はゴールドですと価値が落とさずに取引ができるので、その中で金を差し出す代わりに支援を得たいという話をしてるんじゃなかろうかなと思います。
また、RSFは傭兵部隊としても活躍をしています。イエメン紛争ではサウジ軍に協力を申し入れてサウジ軍側としての尖兵といいますか傭兵として働いていて、サウジアラビアから重宝もされています。
リビア紛争でも傭兵を送っています。ヘメティ氏は戦争ビジネスに長けてるところがありまして、西アフリカだとか、周辺国から人をリクルートしてRSFのスタッフとして、傭兵として雇ってどんどん人を増やしているとも聞いています。
ある意味でまさに「軍事会社」としてその資金源を確保し、その中でどんどん肥大化していってる。今回もいろんな情報を踏まえながら自分たちの権利を守り、広げようと動いてきたというのが特徴ではないかなと思います。
◆民主化を阻む、権威主義国家の介入
堀)
本当に民主化のプロセスが全く一筋縄ではいかないというのが今のお話を聞いていて、改めて痛感しました。そして、西アフリカ諸地域では「ワグネル」といったロシアの傭兵組織、民間軍事会社などがマリを始め、影響力を持ってきたりとか、ロシアや権威主義的な国が今後、こういう混乱と共にアフリカ地域で、また更なるどういう影響力を持っていくのかというそういうことにもつながってくる。
(参考記事:ブルキナファソは北朝鮮に接近 西アフリカは武装勢力結集の地に 襲撃相次ぐ)
坂根)
ワグネルの存在はスーダンでもありまして、RSFとも密接に関わっていると言われています。ワグネル自身は西アフリカに入るより先にこちら東の方に入ってきてまして、スーダン、あるいは中央アフリカ共和国、こういうところを拠点にしながらエリアを広げようとしている。
ワグネルはさらに対象エリアを広げようとしており、チャド等にも影響力を伸ばしているように見えます。ワグネルはアフリカ東部で拠点を拡大する一方、西アフリカでも拠点を開拓しています。加えて、2020年頃からワグネルだけではなく様々な国がさまざまな利権を求めて関与してくるという情勢になっています。
多くの拠点で発生するようになってきまして、まさに権威主義が増えてきているって言われてるところと繋がるんですけれど、10年、20年前であれば、いわゆる「普遍的価値」というのがありまして、それに対して従っていこう、そうでないと生きて行く場所がないので、従っていこうという価値観があったと思うんですが、その価値観を支持しない人たちが様々な関与をしていく。
資金源を提供、軍事技術や傭兵、ドローンなどのIT技術も提供し、あるいは監視機能を強化する。様々な形の資金・技術の支援によって、普遍的な価値、例えば民主主義だとか、そういうものに対して与しない人たちもをサポートする形ができていっているような気がします。これがなかなか難しい状況になってきていて、権威主義っていうのが温存されて動いていく。一つの原因になってるんじゃないかなと思います。
坂根)
堀さんが言われたように、私自身も今のこのアフリカのこういう紛争に直面してる国々のことを非常に気になっておりまして、ちょっと道を外れてしまったというのか、まっすぐに歩けなくなってしまった国というのが増えてる気がします。これはやはり先程も言われましたように、政治プロセスの中で一番困っているのは市民なので、そうした市民に対してどうやって、安定や発展の道を提供していくのか、それは考えていく必要があると思います。
堀)
坂根さんなどJICAの皆さんをはじめ、日本のNGOも含めて、そうした人道的な見地からしっかりと暮らしを守る人々の安全を守る支援がますます必要になってきますよね。
坂根)
はい本当にそうです。今までの日本のNGOの方も一部何団体か入っていて頑張っておられます。非常に危険と隣り合わせなので、JICAは入れないところもありますけれど、しかしながら、まさにそういう人たちを見捨てずにやっていこうと考えておられる。我々もやっぱり臆せず、そこに生きる人たちのことを考えて支援を続けていきたいと思います。
◆紛争最前線の村で人道支援を続けてきた日本のNGOの懸念
その紛争地に残り、支援を続けている日本のNGO、日本国際ボランティアセンターのスーダン事務所現地代表、今中航さん。軍事衝突発生時は、首都ハルツームから離れた南コルドファン州カドグリで教育支援活動をしている最中だった。今中さんに現地の人たちの受け止めや、今後の支援への影響を聞いた。
今中)
今は南コルドファンのカドグリにいます。ここはいたって平穏というか。衝突の音なども聞こえることなく何も起きてない状態です。
堀)
今のところは人道支援、それに対しての今後の影響がどう出るのかというのも心配なんですが、見通しはいかがでしょうか?
今中)
やっぱりスーダン国軍とRSFの緊張や衝突というのは結構長い間ということ「起こるんじゃないか」というのは言われていて、「ないだろう」なみたいな楽観的な見方がありました。今回の衝突はこの数年の中でも特に非難されるべきというか、ひどい出来事だと感じています。
今中)
ここでの教育支援は、次の段階に入っていて、今月はちょうど修了式があり幾つかのコミュニティーで参加しました。6ヶ月間、学校以外に子供たちがここで勉強し、再び朝の学校に戻って教育を継続していくっていうものなんですけども、こういった国の混乱であったりとか、軍時的な衝突というもので、子供たちへの教育や、基本的な計画が脅かされるとことに関しては懸念を示したいなと思います。
さらに、軍事衝突が発生した15日、日本から隣国の南スーダンへ人道支援に向かっていたJVCの今井高樹代表は移動中に次のようなコメント寄せてくれた。
◆人道国家「日本」がここにいることの意味
堀)
最後にぜひ日本でこの情報を見ている人たちに坂根さんから伝えたいことをしてほしいことを考えてほしいことをメッセージを下さい。
坂根)
2つありまして、一つがこの場所に生まれた人たちはずっと独立以来、政治に翻弄されてしまう状況が続いてきています。
半数以上が20歳未満になりますが、若者に対する意識調査で70%以上が3年以内にこの国を離れたいと言うデータもあります。
即ち、この国の将来に対して期待が持てなくて、この国を捨てたい、あるいは違うところで働きたいと考える人達がいる現状が非常に心苦しくて、心苦しいというか非常に辛くてですね。
堀さんもスーダンに来られたので御存じだと思うんですが、この国の人々は並外れて人がいいんです。非常に親切で、優しい人たちでなおかつ理知的で。これだけ冷静に物事が考えられて、人の痛みが分かる人たちであれば、本来は豊かになり、発展するはずであろうと思うんですがそれができない環境にいる。
これをやはり放置できない。真剣に支援していかなきゃいけないなと思っています。環境によってこれだけ違う、そうしたことをぜひ知っていただきたい。
坂根)
もう一つ申し上げたいことがあります。
JICAは政府支援、政府の支援をしているんですが、その中で我々が働きながら思うのは、政治のトップの人たちのやりとりと行政官は違うっていうことです。例えばJICAでは水の協力ですとか農業ですとか支援を行なっています。行政官たちは、国からの給料が遅配されたり、そもそも給料が限られている。非常に過酷な状況になりながらも、どれでも食いついて何とかしようとしてる人たちがいます。
2021年10月のいわゆるクーデター以来、本当にこの国は国家財政がなくなってしまってぼろぼろになってるんですが、それでもハルツーム州の行政官はですね、ゴミを収集し、洪水で水がついたら、それをすぐにそのサイトに来て水を抜きに来てるんですね。
坂根)
「よくやるな」と思います。お金がない中でも、それでも人民に応えられる行政をしようと言ってやってる行政官がいるんですね。
どうしても政府って言うと、政治のリーダーと行政官というのが一緒に見えちゃうと思うんですが、必ずしも上の人たちだけでない。厳しい環境の中でも、政治が揺れる中でも、行政官の役割として市民に良いサービスをしよう、市民の期待に応えようとする人たちがいます。私たちJICAは、そういう人たちを支援しています。
安易に政治のトップが悪いからといって突き放すのではなくて、そういう人達を応援していくことがひいては真っ当な国に繋がっていく入り口だと思うので、そういう世界があるんだっていうこともぜひ感じていただきたいと思います。
以上です。