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「炎上」を受け入れる技術-小泉議員、川越シェフ、乙武洋匡氏のケースから考える

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

岩手県議だった小泉みつお氏が亡くなったというニュースが報じられています。この記事を書いている時点ではまだ真偽の程は分かりませんが、自殺ではないかという報道が多いようです。小泉氏は、盛岡市県立病院で名前ではなく番号で呼ばれたことに腹を立て、ブログに「俺は刑務所に来たんじゃないぞ」「会計をすっぽかして帰ったものの、まだ腹の虫が収まりません」と書き込んで間もなく当該ブログは「炎上」、その後ブログは閉鎖、記者会見を開き謝罪していました。

◆「炎上」とはなにか

「炎上」というのは、ある言動が切っ掛けでその当事者のブログやネットメディア、または2ちゃんねるなどの別の掲示板などで爆発的に批判が集中することを指します。その中で過去のスキャンダルなどの「燃料」が投下されると更に炎が強く長く燃え続けることになります。

最近では、川越達也シェフの店に「水800円は高い」という批判があった際に、年収が300~400万の人は高級店の事情が分からないから批判をする、という趣旨の発言をしたことで炎上しました。また、乙武洋匡氏は入店を断られたレストランに対して店名を出して批判をしたことが原因で炎上しました。乙武氏の場合はその後の説明の仕方も更なる炎上の原因になったようです。

◆「炎上」の原因

「炎上」という言葉は非常に言い得た表現で、英語圏においても炎に例えられます。消火活動をするか、燃料がなくなれば収まるわけですね。炎上は、その言動に対して多くの人が「同意・共感」できなかったことが原因です。ただ同意できないと言うだけではなく、ある程度以上の「反社会的」であるという判断が重なったときに起こるものだと思います。

つまり各自意味が分かるレベルにおいて「善・悪」「好き・嫌い」「筋が通っている・通っていない」の判断がマイナスに振れた場合に起こる反応ですね。そして、その判断、つまり「批判」に対して「同意・共感」が連鎖して広がるわけです。

ですから、消火活動は主に「謝罪」や自分の認識を公の場で話すこととなります。火種となったブログや記事を消してしまうことは、その行為自体が「同意・共感」されないものですから、更なる「燃料」となり炎上を加速するケースが多いようです。僕の関わる教育機関でも、クラスで似たようなことはよく起こります。その時に大事なのは、初等教育においては特に、周囲の大人の対処だと感じます。小さな世界は風化が遅いですから、収拾がつかなくなってしまうことも多いと感じます。

◆「炎上リテラシー」の重要性

小泉氏が亡くなったことが、炎上が原因かどうかは分かりませんが、もしそうだとすれば、炎上に対する考え方をしっかり持っておくことで防げたのではないか、と考えます。炎上というのはある種「オバケ」的な大きさを持っているので、個人に対して圧倒的な影響力を持ってしまいがちです。しかし、そのオバケの本質を突いてみると、幾つかのシンプルな問題に集約出来ることが多いと思います。

つまり、数で圧倒されがちですが、原因は至って単純で、単純だからこそ大人数が参加する炎上に成り得るわけです。複雑なものは炎上しません。ですから、まずは「炎上した」という現状を受け入れる誠意を持って、その部分を修正する意思表示をすることで、落ち着くものだと思います。もちろんその時の言葉使いなどは慎重にするべきだと思いますが、まずは取って付けたような消火活動ではなく、本気であれば良いのだと思います。もちろん、強い意志と覚悟を持っていれば、炎上に対して批判するという方法もあると思います。

今回の事件に関しては最悪に近い結果になったことで、ネット上での批評や批判の在り方や、責任追及などの動きがあると思いますが、現象を方法に転換して受け入れるような視点を周知することも大事であると思います。また、小学校や中学校での教育の現場でも、小さな「炎上」が起こった際に、そういう視点で問題を解決するようなファシリテーションが必要なのではないかと感じます。小さな炎上をみなで気づいて、ちゃんと対処できるような場を作ることで、減らせるうつや自殺もあるのではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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