フィンランド、デジタルヘルス革命の最前線へ
デジタル化が進むフィンランドで、医療業界に革命を起こす祭典『ラディカル・ヘルス・フェスティバル・ヘルシンキ』が開催された。
欧州委員会が発表するデジタル経済社会指標(DESI)2023でフィンランドが堂々の1位を獲得したことからも明らかなように、世界的に社会のデジタル化が急速に進む中で、フィンランドは先頭を走っている。では、医療・福祉現場における現状はどうなっているのだろうか。
医療業界のマインドセットを変え、テクノロジーで急速な変化をもたらそうとする世界的なイベントがフィンランドで開催される。これが「偶然ではない」と話すのは、ヘルシンキ首都圏の健康エコシステムを発展させる「ヘルスキャピタル・ヘルシンキ」のディレクター、ユハ・パッコラ氏である。
パッコラ氏はいくつかの背景を挙げて説明した。
本題に入る前に、「EHDS」という単語を頭に入れておこう
欧州連合における健康データのデータ共有フレームワークEHDSは、今まさにホットな言葉である。欧州を単一市場として捉えた市民データの共有を可能とし、データの二次使用のために国境を超えたインフラ整備が整う未来がやってくる。
EU理事会と欧州議会は3月にEU域内の電子ヘルスデータの利活用を可能とする「EHDS法案」を暫定合意したばかり。今後、EU理事会は新しいEHDS規則を正式に採択し、システムやアプリケーションがどのような状況でどのように機能するかを示すテストケースやデータの種類に応じて段階的に適用されることになる。
EHDSのモデルはフィンランド
「そもそもEHDSは、フィンランドのモデルに基づいて開発されている」とパッコラ氏は話す。
フィンランドでは、健康データの二次利用法、データ機関となるフィンランド社会保健データ許可局「Findata」を5年以上前から整備している。「Findata」は、社会・ヘルスケアデータの二次利用を許可し、個人のデータ保護を向上させる。許可後は、データの編集、結合、前処理を行い、分析のためのツールを提供している機関だ。
「ヨーロッパの他の国々が今計画していることを、フィンランドは長い間行ってきました」と、パッコラ氏は他国がフィンランドの経験から学び、つながりを持つことが可能だと説明する。
フィンランドの3つの特長
フィンランドがデジタルヘルスの最前線に立つ理由として、パッコラ氏は次の3つの特長を挙げる。
1. イノベーションの国
フィンランドは国民一人当たりのスタートアップ企業の数が多い。現在も、多くのスタートアップと起業家精神が成長し続けている。「ノキアの遺産」とも呼ばれるフィンランド特有の背景がある。スマホ市場で敗れたノキアだが、その才能は各地に散らばり、新たな新興企業ムーブメントを生んだ。
フィンランドには「協働」「コラボレーション」の伝統があり、業種の垣根を超えた連携がスムーズに機能し、イノベーションが進みやすい。このように、スタートアップの巨大なコミュニティが育つ土壌がある。
2. 強力で質の高い健康データの長い遺産
フィンランドでは義務的に健康データ記録簿を収集してきた。例えば、がん登録は1953年に開始され、現在では登録されたデータはすべて電子フォーマットで管理され、より広く共有されている。フィンランド国立公衆衛生研究所では、これらの登録データを内蔵しており、電子形式で研究に利用することができる。
3. ヘルスケアデータが最もデジタル化された社会
フィンランド社会はすべてが電子フォーマットで動いており、5年以上前から電子処方箋が義務付けられている。そのため、パンデミックが発生した際には、電子的に物事を進めるためのすべての設備が整っており、リモートアクセスのスイッチを入れるだけで対応できた。
フィンランドの市民はデジタル化された手続きに慣れており、税金の支払い、遠隔診療、銀行など全てがデジタル化されている。医療のデジタル化も進んでおり、フィンランド最大の専門医療機関であるヘルシンキ大学病院HUSでは、200万人近い人々に二次医療を提供している。
「ラディカル・ヘルス・フェスティバル・ヘルシンキ」という、医療業界の古い考え方を変え、改革を起こそうとする祭典がフィンランドで始まるのは、だからこそ偶然ではない、とパッコラ氏は語る。
そして北欧諸国に共通するフィンランドの強みは、「信頼」という文化にもあるのだろうと筆者は思う。政治家や警察などの機関を信頼する傾向が高い北欧。だからこそ市民がデータ共有をさほど警戒せずに、それは社会の発展のためになると思っている。そのような条件が揃ったフィンランドからは学び、応用できることも多く、「他国にはぜひ利用してほしい」と、この国は歓迎してドアを開けているのだ。