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リッチー・モウンガ、「細かいことで勝負が決まる」。決勝判定への意見様々。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真提供JRLO)

 国内リーグワン1部のファイナルが5月26日、東京・国立競技場であり、公式で56486人のファンのもとで東芝ブレイブルーパス東京が旧トップリーグ時代の2009年度以来となる14季ぶりの優勝を決めた。

 一昨季まで国内2連覇、今季もレギュラーシーズン全勝と好調だった埼玉パナソニックワイルドナイツを、24―20で下した。

 リーグ選定のプレイヤーズ・オブ・ザ・マッチは、ジョネ・ナイカブラだ。

(写真提供JRLO)
(写真提供JRLO)

 前半27分、後半5分と自慢の快足を飛ばして2トライ。それ以外の局面でもラインブレイクを披露し、34分のフィニッシュもアシストした。

 ラストワンプレーの場面では、自陣10メートル線付近右で値千金のジャッカルを繰り出した。向こうにとっての逆転勝ちのチャンスを摘み取り、ノーサイドを迎えた。

 日本代表として昨秋のワールドカップでも活躍の韋駄天は、国内最高峰の舞台でも光った。

 もうひとりの殊勲者は、やはりリッチー・モウンガか。

(写真提供JRLO)
(写真提供JRLO)

 序盤から鋭い走り、飛び出してくるタックラーの裏側へのパスでチャンスを創出。自陣ゴール前での好守もあり、前半を10―6とリードして終えた。

 後半はワイルドナイツが防御を改善し、接点への圧力と素早いラインセットの合わせ技を披露。するとモウンガは、ハイパントを軸にした組み立てで活路を見出そうとした。後半5分のトライのきっかけも、この人の「50・22」のキックだった。

 今季から来日したニュージーランド代表として2度のワールドカップに出場し、母国クルセイダーズの一員としてはスーパーラグビー7連覇を経験。今回は、来日1年目にして王座から遠ざかっていたチームを頂点に導いた。

 心境をミックスゾーンで述べた。

 以下、共同取材の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――レギュラーシーズンで惜敗したワイルドナイツとの対戦でした。

「ワイルドナイツは、ラグビーで様々ある要素のどこを切り取っても高いレベルのチームだとわかっていました。しかし、それと同時に、チャンピオンカップを持ち帰るのにはきょうの80分で力を出し切ればよかった。過去にどんな結果になっていたとしても、きょうの80分だけだ。そう意思統一できたのがよかったです」

――試合当日の感情は。

「どちらかと言うと落ちついていた。わくわく感も混ざっていましたが。いまは勝ててほっとしています。ブレイブルーパスに優勝杯を持ち帰れて嬉しいです」

――前半の反則は相手よりも2つ少ない4。

「我慢強くいけました。前半の序盤は自陣に押し込まれてかなり苦しい状況でした。しかし試合前から、どんなに苦しくても、諦めずにしがみついて戦い続けようと話していた。ゴールラインを背に守っている状況でもトライを与えず、3点(ペナルティーゴール2本の計6失点)に抑えられたのは僕たちにとって小さな勝利でした。それがなければ、ハーフタイムまでに20~30点取られていてもおかしくはなかった。諦めずに守り切れたのは大きいです」

――モウンガ選手にとって海外クラブで初の優勝。

「母国を離れてのタイトルはもの新しさを感じます。ただ、シーズン当初に思い浮かべていた優勝という光景に向かって1シーズンがんばってきた。そのプロセスは(国を問わず)一緒。クラブとして、組織としてこの状況になれたのが嬉しい」

 スコアボードは、テレビジョン・マッチ・オフィシャル(TMO)と呼ばれるビデオ判定で左右されたようにも見えた。

 ブレイブルーパスが10―6として迎えた前半37分頃には、モウンガの絡む連携で敵陣中盤の右サイドを攻略。ナイカブラがスペースを駆け抜けた。ここで、追いかけて止めようとしたワイルドナイツのマリカ・コロインベテがハイタックルの反則を犯した。

 コロインベテはその際、TMOの末にファールプレーレビューオフィシャルを伴うイエローカード(10分間の一時退場に加え、映像の見返しによっては一発退場のレッドカードに繰り上がる可能性あり)を受けた。

 しかし、その反則がなくてもトライが決まる可能性が薄いとして、ペナルティートライは生まれなかった。

 直後の攻防でワイルドナイツが好ジャッカルを決めたことで、スコアは動かなかった。

 さらに決定的だったのは、24―20とブレイブルーパスがリードしていた後半終了間際の流れだ。

 ワイルドナイツが敵陣で球を保持し、左右へ展開した。最後は右端をウイングの長田智希がフィニッシュも、そのふたつ前の局面でフッカーの堀江翔太が放ったパスが見直しの対象となった。

 場所は敵陣10メートル線付近左。堀江からコロインベテへのパスは、前に投げるスローフォワードだったとしてトライは取り消しになった。ナイカブラの見事なジャッカルは、そのジャッジの約2分後にあった。

 お互いがTMO絡みでトライチャンスをふいにした格好だ。取材エリアからは「勝負の綾」という言葉がよく聞こえた。

 ワイルドナイツ陣営は、ジャッジへの意見を抑えながら自軍の動きを誇った。

 坂手淳史主将は「最後はトライにならなかったですが、あそこまでの形はきれいだった。(最後に)TMOが入りましたけど、自分たちのプレーでは間違った選択をしていなかった」とし、こう続けた。

「TMOを含め、どういう判断かはその日によって変わる。あまり大きく言っちゃうとたくさん書かれちゃうので…受け止めていきたいです」

右が坂手。堀江と並ぶ
右が坂手。堀江と並ぶ写真:森田直樹/アフロスポーツ

 悲運のスローフォワードに泣いた堀江は、こう語った。

写真:アフロ

「とりあえず横にペッと放った感じ。(ちょうど堀江の対面で守っていた)ジョネ(・ナイカブラ)が僕にタックルに来てなかったら…(球は真横に流れてスローフォワードにはならなかった)って感じじゃないですか」

 この件には、ブレイブルーパス側も触れていた。かねてTMOの多用に懐疑的な意見を持っていたリーチ マイケル主将はこうだ。

「きょうも、本当によく、見てくれていました。僕が試合中に気づかないところをレフリーが見ていたりして、きょうも、よかったと思います」

——勝因は。

「何だろうね。…TMOじゃないですか?」

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 リーチがジョーク交じりに応じる傍ら、モウンガは、勝利の談話を通じて判定の妙に触れたような。このようなやりとりがあった。

「長田選手にトライを奪われたかに見えた瞬間は、『厳しいかな』と頭の中に色んな感情が駆け巡りました。ただ、TMOで、大きなビジョンで、例のパスが映し出された時、『まだ、あるのかな』と、また別な感情が浮かんできた。負けたら終わりのプレーオフらしい、細かいことで勝負が決まる試合でした」

——後半からキックを多用。その意図は。

「僕らが戦い方を変えたというより、後半に入ってパナソニックのディフェンスがよく、私たちがアタックのシェイプ(陣形)すら作れない時間帯があった。そこで無理して攻めるより、自陣から脱出してラグビーをしようという意図がありました。ワイルドナイツは、ロビー・ディーンズというラグビーを熟知したヘッドコーチが指導するレベルの高いチーム。仕方がないところです。最後の堀江さんのパスも、50センチ、後ろだったら結果は全く違うものになっていました。レベルの高い決勝を制することができ、誇りに思います」

写真:森田直樹/アフロスポーツ

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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