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JR東日本「時間帯による変動運賃」を検討 収益回復の切り札になるのか

小林拓矢フリーライター
ラッシュ時の普通運賃は上がるのか?(写真:アフロ)

 新型コロナウイルスの影響により、鉄道事業者の収入減は続く。JR東日本は前年同期比で4月25.9%、5月30.4%、6月56.5%だった。回復基調は続き、最近では混雑も見られるようになったものの、コロナ前に想定していた範囲外の低い水準を回復するには、程遠い状況である。

 そんな中、JR東日本の深沢祐二社長は7日に行われた記者会見で「以前のように利用客は戻らないと思う」という見通しを示した。そんな中で、「長期的に経営が成り立つ形で、さまざまなコストやダイヤ、運賃の見直しのための検討を深めている」と述べたことを、朝日新聞デジタルが同日報じている。

 ダイヤの見直し、というのはだいたい考えられる。利用の少ない早朝や深夜の列車を減らし、終電の繰り上げなども行われることが予測できる。ラッシュ時間帯も利用者の動きにあわせて、ピーク時の前後が増えピーク時が減っているならば、それに合わせた列車ダイヤを組めばいい。

 では、「運賃の見直し」とは?

利用者の多少に応じて運賃を変動

 運賃の見直し方法としては、利用客の多い時間帯と少ない時間帯で変動させるというものを例に挙げている。テレワークの普及により定期券の利用者が減少し、ふつうに運賃を支払って乗る人が増えたという状況もある。

 また、定期券は割引率が高く、しかもその利用者が混雑時に集中するということで、事業者としてはあまり儲かるものではない。利益の薄い定期券利用者のために、事業者は莫大なお金を投じてラッシュの対策を行っている。

 定期券利用は減少、しかし混雑時間帯はまだ残る、一方で運賃収入減。どう稼ぐかとなると、「時間帯変動運賃」というのもひとつの考えだ。

 つまり、混雑している時間帯は「稼ぐ」ためと利用者を抑制するために運賃を高く、空いている時間帯は利用者を増やすために運賃を安くするというものである。

 一方で、鉄道の運賃というのは許認可が必要だ。さらにSuicaエリアやPASMOエリアでは紙のきっぷの運賃と交通系ICカードの運賃が異なっており、JR東日本では交通系ICカードでの運賃が紙のきっぷの運賃より若干安くなっている(まれに若干高いところもある)。

 そのあたりから考えると、紙のきっぷは値段を上げ、その価格を基準に交通系ICカードでの運賃を時間帯により変動させるというのが、妥当なところだろう。

 紙のきっぷは発券時間と改札を通過する時間には若干の差があり、場合によってはそこで運賃の差が出てきてしまう。また、条件によっては改札を通過できない可能性も出てくる。

 そうなると、乗降の時間と履歴を確認し、即座に運賃を計算し、改札を通るときに支払いのできる、交通系ICカードでの利用で導入されるということは考えられる。

 しかし、似たような取り組みは、すでに関西では行われている。

関西で行われているポイント還元・運賃割引

 関西では、プリペイドのICOCA、ポストペイのPiTaPaと、2種類の交通系ICカードが普及している。PiTaPaは利用するのに審査が必要という課題があり、現在ではICOCAの利用者が多い。

 ICOCAでは、平日の混雑時間帯を避けると、「時間帯指定ポイント適用区間」で1ヶ月4回以上の利用1回ごとに運賃の50%もしくは30%のポイントが貯まるというサービスがある。また同一運賃区間に1ヶ月11回以上の利用で運賃の10%のポイントが貯まるというサービスもある。

 PiTaPaでは、社局によっても違うが利用回数や利用額による割引もある。

 また関西では、時間帯限定の回数券が以前は発売されており、そのバラ売りが、駅の近くの金券ショップで販売されていた。そういう文化があるために、交通系ICカードのポイントサービスが充実した。

 しかしこういったポイントサービスは、運賃そのものには手を付けず、許認可の範囲外で自由に行っていることだ。

JR東日本の運賃はどうなる?

 現在、JR東日本ではSuica利用者に向けて乗車の際の利用額に応じてポイントが貯まるというサービスを行っている。カード型のSuicaよりもモバイルSuicaのほうが還元率は高い。現在の状況では、利用時間帯に応じて還元率を変えるという方針で行くというのが、手早く妥当であると考える。

 しかしJR東日本は、運賃自体に手をつけるという考えである。PASMOの利用者を考慮すると、Suicaにだけポイントをつけて還元、というわけにはいかないのだ。

 そのためには運賃をどうするか、許認可をどうするかなど、いろいろと考えなければいけない。ただ、紙のきっぷから交通系ICカード、そしてスマートフォンと交通系ICカードの組み合わせへという時代の流れを考えると、交通系ICカード利用者に有利な運賃の変化となるのではないだろうか。

 その場合、関西と同様、閑散時間帯にはサービス、混雑時間帯にはそうでもないということになると考えられる。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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