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史上かつてない大接戦だったキングオブコント 10組中9組がファイナルを望まれた異常事態の詳細

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Splash/アフロ)

なぜか「小太りのおじさんの下着姿」が2年連続優勝

キングオブコント2022はビスケットブラザーズの優勝だった。

2021年に引き続き、小太り下着姿コントの圧勝であった。

昨年、2021年キングオブコントは空気階段が「SMクラブの火事」コントを演じて下着姿の2人が走りまわり、486点の高得点を叩き出して、そのまま優勝した。(空気階段の水川は小太りではないですけど)

今年2022年の第1ステージは、ビスケットブラザーズが「野犬と戦うキラキラリン」を演じ、最初は一人だけセーラー服姿に下着(パンツ)姿だったが、最後は二人とも下着姿になって戦って481点を得て、そのリードを守って優勝した。

(コント名は便宜的にこの原稿用に付けたものです)。

審査員とテレビで見ている人の温度差

いまや、小太りパンツ時代である。(早く終わってもらっていい時代ですが)

今年のKOCの結果に納得いかない人がいるなら、おそらくこの「小太りパンツ姿」コントに対する拒否感が第一にあるのではないだろうか。

審査員もまたパフォーマーなので、この「パンツ姿での設定のわかりにくいコント」であっても、目の前の客をどこまで巻き込んでいくのか、というポイントで評価する。

熱を測っているようなものだ。

もちろん技術やテンポや間合いや演技や表情も見ているのだが、それに加えて大きな要素として「客を巻き込む熱」も入れているばかりだ。

わかりやすさを第一に評価しているわけではない。

会場の熱気の中で審査をするのと、家の中でいろんな雑音にまぎれながら見ているのとではずいぶん印象が違ってくる。

しかたがないところだ。

審査員の採点幅が狭まっているわけ

おそらく大会出場者のレベルが上がっているのだろう。

また、それに呼応して、審査員の「幅のある採点」が減ってきている。

最低点数は、今年は「89点」がもっとも低く、それも2回だけである。

第1ステージで審査員5人が10組を採点するので、50回の採点、そのうち89点が2回だけで、あと48回は、つまり96%が90点台だったのだ。

甘くなったのではないだろう。

あきらかに出演者の平均レベルがすごく高くなっているように感じる。

かつてのように「80点」という、ある意味「不合格の烙印」のような点数が付けられることがなくなった。

ハイレベルのパフォーマーが集まって、文句がつけられないステージを展開することが多くなったのだ。少なくも2022はそうだった。

1点差を大事にする審査になってきた

審査員は去年と同じメンバーであった。

去年に入れ替えがあったので、二年目のメンバーである。

去年に比べて、より採点幅が狭まっている。

なるべく1点刻みで差をつけようとしているのだ。

たとえばロバート秋山は、去年は「97から89」と8点幅で採点していたが、今年は「96から92」の5段階で評価していた。

かまいたち山内も9点幅から8点幅、バイきんぐ小峠も去年の8段階の評価から今年は6段階評価、東京03飯塚も8段階から7段階へと狭めている。

(ダウンタウン松本の幅は同じ)

1点を大事にする姿勢が、審査員に強くなってきている。

10組中9組がファイナルステージを望まれていた

ファイナルステージに進んだのは、「ビスケットブラザーズ」と「や団」「コットン」であったが、他のチームが最終ステージに上がってもおかしくなかった。

気づかれなかったかもしれないが、かなりの僅差だったのだ。

第1ステージで、審査員が「上位三組」に入れたユニットを並べてみる。

(優勝したビスケットブラザーズをBBと表記する)

ダウンタウン松本:1BB、2コットン、3いぬ

東京03飯塚:1BB・や団、3かが屋

バイきんぐ小峠:1BB、2クロコップ、3コットン・かが屋・最高の人間

ロバート秋山:1BB・コットン、3や団・ロングコートダディ

かまいたち山内:1コットン・ネルソンズ、3BB

BBことビスケットブラザーズは4人が1位、1人だけ3位採点で、圧倒的に評価が高かったのがわかる。

そして、第1ステージ通過の「や団」と「コットン」以外にも、いぬ、かが屋、クロコップ、最高の人間、ロングコートダディ、ネルソンズも審査員それぞれによっては3位以内に採点をされている。

ビスケットブラザーズを含めると9組となる。

彼らもまた、ファイナルステージに進む実力ありと認められたわけである。

キングオブコント史上かつてない接戦だった

ビスケットブラザーズを含めて10組中9組を、審査員の誰かが「もう1ステージ見たい」とおもっていたわけだ。

いやはや。

これはかつてない接戦である。

過去の「審査員の誰か一人でも3位以内に採点したグループ数」を出してみる。

2021年:5組

2020年:6組

2019年:6組

2018年:6組

(それ以前はファイナルステージ進出は5組)

やはり今年の9組はずば抜けて多く、本当に「優劣つけがたい」大会だったことがよくわかる。

9組から洩れているのはニッポンの社長

3位以内に誰からも評価されなかったのは「ニッポンの社長」だけである。

そして三年連続、決勝進出しているのも彼らだけである(去年と今年の二年連続がそもそも彼らだけ)。

そういう意味では決勝の常連である。

つまり、その奇抜な世界観がある程度認められてきたわけで、ふつうの客も慣れてきているということにもなる。

今回も初見のグループがけっこうあり(審査員の山内もそう言っていた)、その世界観が新鮮で衝撃的だと、見る人に深く刺さってくる。

コントの持つ力だろう。

漫才と違うコントに必要な力

漫才とコントは違う。

漫才は、親しそうな二人が出てきて慣れ親しんでいる気配で会話を始め、客もそれに同調していくが、コントはもっと世界が断絶している。

世界構築にそれぞれ強烈な癖があり、やはり初見のほうがその世界観に圧倒されることが多い。

世界が揺らぐさまと、演技力でもって全国大会決勝まで突き抜けられる。

ただ、必要とされる「演技力」は半端ない。

そのままドラマに呼ばれても端役くらいはこなせられる人たちでなければ、キングオブコントの決勝まではやって来られない。

印象に残るクレイジーを見つける場

狂気に近い憑依をなせる者が、どんどん残っていけるわけで、クレイジーさを漂わせていても天下を取れるのが「キングオブコント」のすごいところだろう。

逆に、クレイジーさが強く突き抜けていないと、この大会で優勝してもそのあとあまりテレビに出られない。

そういう傾向があるようにおもう。

ここは、「強烈に印象に残る変てこさ(クレイジーさ)」を持っている芸人を見つける場となってきているようだ。

2020年代に入り、お笑いの世界はまた違う段階に入ってきている。

そう強く感じさせる大会であった。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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