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トリキ錬金術で露呈した「Go To イート」の真の問題とは? 利用者が覚えておきたい注意点も

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

「Go To イート」開始

2020年7月22日に開始された「Go To トラベル(Travel)」に続いて、「Go To イート(Eat)」も10月1日にスタートしました。管轄している農林水産省から公式サイトもリリースされており、詳細が記されています。

「Go To イート」は、新型コロナウイルスの感染拡大によって大きな打撃を受けた飲食店を救おうという全国的なキャンペーンです。

対象となる飲食店は、店内飲食を主とする日本標準産業分類の「76 飲食店」に属する業態。ただし、風営法の業態に該当する飲食店は除きます。

メディアにも大きく取り上げられているので、多くの方は「Go To イート」が始まっていることを知っているでしょう。

ただ、報道の多さや知名度のわりには「Go To イート」が一体どういったものであるのか、あまりよく理解されていないように感じられます。

前回は施策に疑義を呈する記事を書きましたが、今回は利用者の視点に立ち、仕組みや利用時の注意を中心に説明していきましょう。

「Go To イート」概要

「Go To イート」には、食事券とオンライン飲食予約の2つがあります。

食事券

(給付金868億円)

登録飲食店で使えるプレミアム付食事券(購入額の25%分を上乗せ)

  • 地域の飲食店で使える食事券(例:1セット1万2,500円を1万円で購入)の発行事業者を都道府県、政令指定都市及び特別区単位で公募
  • 購入制限:1回の購入当たり2万円分(上記の例では2セット/人まで)
  • おつりは出ない
  • 販売は2021年1月末まで、有効期限は3月末まで

出典:「Go To Eatキャンペーン事業」について(農林水産省)

食事券は1万円で25%が上乗せされた1万2500円の紙製チケットを購入し、登録された飲食店で使えます。地域によっては1万円ではない場合もあるので、確認が必要。

500円や1000円単位で使用でき、おつりは出ません。1日1回の購入で2セットが上限となっています。

オンライン飲食予約

(給付金616億円)

オンライン飲食予約サイト経由で、期間中に飲食店を予約・来店した消費者に対し、次回以降に飲食店で使用できるポイントを付与

  • 昼食時間帯は500円分、夕食時間帯(15:00~)は1,000円分のポイントを付与
  • ポイント付与の上限は、1回の予約当たり10人分(最大10,000円分のポイント)
  • ポイント付与は2021年1月末まで、利用は3月末まで

出典:「Go To Eatキャンペーン事業」について(農林水産省)

オンライン飲食予約は、グルメサイトでオンライン予約して来店すると、次回以降に使用できるポイントが付与されるというもの。

ランチには500円、ディナーには1000円が付与されます。1回の予約あたりに付与できるのは最大10人分。ディナーは15時以降と定められています。

食事券の販売とオンライン飲食予約のポイント付与は2021年1月末まで、利用はともに3月末まで。

食事券は自治体によって異なる

「Go To イート」に関する概要は以上の通りです。

どちらともわかりにくい点があるので、もう少し細かく説明したいと思います。

まずは食事券から。

食事券の販売は自治体ごとに行われています。基本的に自治体は、そこで使える食事券を販売しているので、購入した地域だけでしか食事券は利用できません。

店内飲食だけではなく、テイクアウトやデリバリーにも使用できます。ただし、先に述べたようにデリバリーやテイクアウトの専門店は対象外です。

自治体によって販売開始時期が異なっており、最も早かった新潟県が10月5日、多くの自治体は10月中旬から。遅いところでは11月上旬からとなっています。

自治体によって状況が違うので、食事券の販売開始時期や販売場所は、自治体のサイトや「Go To イート」公式サイトでよく確認しておきましょう。

食事券を発行する事業者の2次公募が行われ、東京都、神奈川県、北海道、福岡県など、1次公募で事業者が決定されなかった14地域についても、10月1日に全て事業者が決まりました。決定したばかりなので、これらの地域については、今後のスケジュールが未定です。

オンライン飲食予約はグルメサイト依存

オンライン飲食予約についてもわかりにくいところがあります。

食事券とは異なり、店内飲食を主とする飲食店の店内飲食だけが対象で、テイクアウトやデリバリーではポイントが付与されません。

グルメサイトによって仕様が全く異なるので、留意しておく必要があります。

「Go To イート」の対象となっている飲食店は、グルメサイトが定めた条件に適合した飲食店です。地域による区分はありません。

グルメサイトによってポイントの種類が異なります。

食べログはTポイント、ぐるなびはぐるなびポイントか楽天ポイントが選択でき、Rettyは独自クーポン、OZmallはOZポイント、HOT PEPPERはホットペッパーグルメ限定ポイント、ヒトサラはヒトサラポイント、favyとトレタはポケペイのEatポイント。

統一されたポイントではないので、付与されたポイントを、他のグルメサイトで使用することはできません。

たとえば、Aという飲食店を予約して訪れ、ポイントが付与されます。その付与されたポイントを使って、Bという飲食店を予約しようとしても、Aを予約したグルメサイトと、Bを予約するグルメサイトが異なっていれば、付与されたポイントは使えないのです。

飲食店に訪れた後、いつポイントが付与されるかも、付与されたポイントが何に使えるかも、グルメサイトに依存しています。

食事券の2次公募された地域は不利

ここまで詳しく説明してきましたが、「Go To イート」も実際に始まったことなので、改めて問題点を指摘しておきたいです。

まずは食事券から。

食事券は自治体によって、動きがかなりバラバラになっています。できるだけ早く飲食店を助けるために、準備ができた自治体から始めるのは賛成です。

しかし、終了日はどの自治体ともに同じであり、予算は全ての自治体の総額。したがって、遅く始められた地域は、他の地域に予算を使われてしまうので、不公平が生じます。

2次公募でようやく事業者が決まった地域は、これからスキーマを構築し、飲食店を登録し、販売場所を用意しなければなりません。1次公募では事業者が決定してから開始されるまで、40日から70日を要しました。

したがって、2次公募で決まった地域では、どんなに早くても11月中旬くらいからの開始となるのではないでしょうか。遅ければ12月中旬くらいの開始となってしまい、年末の書き入れ時に間に合いません。

約12.8万の飲食店(2020年10月時点での食べログにおける東京の件数)を有する東京都をはじめとして、神奈川県や福岡県の開始が遅れてしまうのは残念です。

オンライン飲食予約では売上が増えにくい

オンライン飲食予約に関しても懸念があります。

既に色々なところで報道されていますが、付与されるポイントよりも安い金額で飲食すると、利益を上げられてしまうという事態が起きています。

社会的な問題となったので、ランチ500円、ディナー1000円を下回る場合には対象外とするように変更されました。

グルメサイトは予約されたプランがどういったものであるかシステム的に把握しているはずなので、最初から席のみの予約や値段の安いプランを対象外にしておくべきだったでしょう。

ただ、この問題の本質は別のところにあると、私は考えています。それは、オンライン飲食予約の施策が、飲食店の売上を増やす方向に働いていないことです。

飲食店で使うお金が少なければ少ないほど、消費者が得になります。付与されるポイントが定額なので、使うお金が少なければ少ないほど、付与されるポイントの相対的な割合が高まるのです。

これでは、オンライン飲食予約で、消費者がたくさんお金を使わなくなるでしょう。

食事券は売上を増やすのでよい施策ですが、反対にオンライン飲食予約は売上を低くするのでよい施策であるとはいえません。

オンライン飲食予約では、グルメサイトから送客されることになりますが、そうなると飲食店は、グルメサイトに手数料を支払わなければなりません。多くてランチで100円、ディナーでは200円になります。Retty、favy、トレタは送客に手数料をとりません。

加えて、支払いでクレジットカードが使われたら、飲食店は加盟店手数料である決済金額の4%前後をとられてしまいます。

このような事情を鑑みると、営業利益率が10%あれば優良といわれる飲食店にとって、オンライン飲食予約で利益を上げることは難しいのではないでしょうか。

また、キャッシュレス決済の中でも、クレジットカード決済は、通常10日から1ヶ月と入金されるまでに時間を要するのが飲食店にとって悩みのタネ。ただでさえ経営が厳しくキャッシュが少なくなっている現状では、1日でも早く現金がほしいところです。

ディナーが15時からとなっているのも問題。16時くらいまではランチタイムで営業している飲食店もあります。その場合には、ランチを食べただけでディナーのポイントが付与されるので、ディナーに行かなくなってしまいます。

1回の予約で10人分までポイントが付与されることも疑問。なぜならば、「外食業の事業継続のためのガイドライン」を遵守することが「Go To イート」の参加条件となっているのに、クラスターとして定義されている5人よりも多い人数で予約できるからです。

私も飲食店にたくさんの人が訪れてほしいですが、国の方針がチグハグしているように感じてなりません。

飲食店に活気が戻ることを期待

「Go To イート」の予算は当初、食事券、オンライン飲食予約ともに767億円となっていました。しかし修正されて、食事券が868億円、オンライン飲食予約が616億円となっています。

食事券はオンライン飲食予約よりも飲食店の利益が大きくなるので、食事券の予算が増えたのは好ましいことです。ただ、総額が減ってしまっているのは残念としかいいようがありません。

この予算の変遷ひとつとってみても、透明感や納得感に乏しいだけに、「Go To イート」があまり理解されていなかったり、抜け穴ができてしまったりしているのは、さもありなんという気がしてします。

「Go To イート」の目的は「感染予防対策に取り組みながら頑張っている飲食店を応援し、食材を供給する農林漁業者を応援する」とされているだけに、ひとつでも多くの飲食店を救うべく、引き続き国や自治体に頑張っていただきたいです。

そして、ひとりでも多くの人が「Go To イート」をきっかけにして、再び外食するようになり、日本が世界に誇れる飲食店に活気が戻ってくることを期待します。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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