台風のあとは異常高温
台風10号は、昨夜(9月6日)から今朝(7日朝)にかけて九州の西の海上を北上しました。九州や四国では台風進行方向の右側(危険半円)に入ったため、長崎県野母崎で最大瞬間風速59.4m/sを観測するなど各地で暴風が吹き荒れました。また降り出しからの雨量も宮崎県えびので500ミリを超えるなど、平年の1か月分の雨量が降った所もありました。まだ明日にかけて太平洋側の地域を中心に大雨に警戒が必要です。
台風がもたらす「暑さという災害」
台風は、朝鮮半島から中国大陸へと進みつつありますが、 大雨とは別の災害にも注意が必要です。それは「高温」という災害です。昨日の新潟県内は全国で最も気温があがり、上越市では37℃を超える猛烈な暑さになりました。この台風によって、日本列島に非常に暖湿な空気が大量に流れ込んでおり、それが特に日本海側の地方を中心に、9月としては異例の高温をもたらしているのです。
地上の気温を大まかに予測するとき、気象関係者は上空1500メートル付近の天気図を参考にします。これは地上の気温は日射や地形によって大きく影響されるので、その影響をあまり受けない上空の温度の方が、客観的な判断の目安になるからです。そして上空の気温は地上よりも下がり、一般には上空1500メートル付近では、地上よりも9度ほど低いのが平均的です。
この時期(9月上旬)ですと、能登半島の輪島(注1)上空1500メートルの気温は15℃くらいです。ところが今朝9時の輪島上空の予想温度は21℃以上もあり、台風が暖かい空気を持ち込んでいる事が分かります。
しかし、ことはそれだけではありません。実は、南風が中部山岳を越えるときにフェーン現象(注2)が起きて、日本海側では、熱風のために異常な高温になりそうなのです。今回の台風と比較対象とされた1959年の伊勢湾台風通過後も、フェーン現象と見られる気温の上昇がありました。このときは本州縦断コースのため関東各地で気温があがり、東京では最高気温が32.1℃を観測。当時としては79年ぶりの暑さになりました。
さらに、フェーン現象は空気を乾燥させるので、火災なども引き起こします。1955年10月の新潟大火や1956年9月の魚津大火などは、台風が引き起こしたフェーン現象が被害を拡大させた原因だとされています。本来は、春が火災シーズンと言われますが、この時期でも大火になることは稀ではないのです。
国内初、9月の40℃超え
まだ記憶に新しい台風9号通過後の9月3日、新潟県三条市で9月としては国内最高の40.4℃、胎内市でも40.0℃を記録しました。さらに記録はこれだけではありません。夜も気温が下がらず福井県福井市(越廼こしの)では最低気温が29.8℃と、これもまた、9月として国内で最も高い、最低気温の記録に。そして驚くべきことに、その日の輪島上空1500メートルの気温は24.5℃まであがり、9月としては46年ぶりの記録更新、年間を通しても2位の値となりました。
このときの天気図を見ると台風9号が朝鮮半島付近にあり、この高温がフェーン現象によって起きたことが分かります。そして、今日の予想天気図を見ると、同じような位置に台風があり、フェーン現象が起こることが容易に想像できます。今日からあすにかけて輪島や山形上空1500メートルの気温は23℃近くまで上がるという予想もあり、3日に匹敵する暑さになりかねません。
さらに、今回台風がほぼ真っすぐに北へ上がるコースを辿っていることから、まだ日本付近に張り出している高気圧が強いことが分かります。台風のコース自体は「秋」というより「夏」に近いと言っていいでしょう。
とすると、まだ厳しい暑さは続き、南海上の海水温も今回の台風でそれほど下がっていないので、台風シーズンはまだ始まったばかりだと言えるでしょう。
余談ですがフェーン現象は、急激な温度変化によって、体調にも影響を与え、海外では交通事故が増えたり、精神状態が不安定になるなどの研究もあります。
台風の直接的な影響が無かった地域でも、暑さによる「災害」に見舞われる恐れがあるのです。
(注1)高層観測をしている地点
(注2)フェーン現象:湿った空気と乾いた空気では温度の逓減率(ていげんりつ:高度が上がるにつれて、気温が下がる割合)が違い、山を越えるときに雨を降らせた空気は山を下りるときには乾いた空気となって温度が急激に上昇する現象。(模式図参照)