今年の琵琶湖は深呼吸をしないのか。酸素不足は何を引き起こす?
琵琶湖の異変
今年はまだ琵琶湖が深呼吸をしていない。このままどんどん気温が上昇したら、今年は深呼吸しないかもしれない。
そうなると観測史上初めての出来事となる。
水は温度が下がるにつれて密度を増して沈む。
湖の表面が寒風や雪解け水で冷やされると、水は徐々に下降しはじめる。湖面の水が湖底に向かい、湖底の水が上昇し、対流する。
湖底まで混ざることを「全循環」という。
湖面の水は酸素をたくさん溶かしている。一方、湖底では少しずつ酸素が消費されていく。
全循環が起きると、湖底に1年分の酸素を供給することができる。そうしたことから別名「琵琶湖の深呼吸」と言われる。
琵琶湖の湖底には魚、エビ、貝類、そのほか微小な生物がたくさん生息しており、生態系維持のために「深呼吸」は不可欠だ。
それが今年はまだ起きていない(3月12日現在)。
以下は最近の全循環が起きた日である。
2007年3月19日
2008年2月12日
2009年2月23日
2010年2月8日
2011年1月24日
2012年2月13日
2013年1月29日
2014年2月17日
2015年2月2日
2016年3月14日
2017年1月26日
2018年1月22日
2019年 ?
琵琶湖環境科学研究センターは、琵琶湖の中でも水深が最も深いとされる高島市沖約3キロの地点で底層(水深約90メートル)、表層(水深50センチ)の水中の酸素量を示す「溶存酸素濃度」を週1回程度調査している。水1リットル当たりの酸素がいずれも10~11ミリグラムになったときに全循環が起こったと判断している。
過去12年では、1月に4回、2月に6回、3月に2回。前年の気温・水温、夏場の気温・水温、台風などで湖水の撹拌が起きたか否か、そして冬場の気温・水温などによって全循環の日は変わると考えられている。
観測開始以来、これまでいちばん遅く全循環が起きたのが2007年。この年は記録的な暖冬で、全循環が確認できたのは3月19日だった。
湖底調査で琵琶湖特産のイサザの大量死も確認された。
ワイヤのついた水中ロボットを水深91メートルの湖底まで下ろすとモニターに、死んで白くなったイサザが映し出された。数メートルおきに死んでいた場所も見つかった。湖底の酸欠が原因で死んだと考えられている。
もし全循環が起きなければどうなるか。
循環しないことによる様々な影響が懸念される。2007年のように酸素が減って魚が死ぬ可能性は十分にあるが、他の生物にも影響を与えるので、湖の生態系のバランスが崩れるなど、それ以外のことが起こる恐れもある。何しろ初めてのことなので予測は難しいが、一般的には以下のような現象が起きるとされている。
・深底部の低酸素化、無酸素化
・生息する生物の絶滅
・溶存酸素濃度の低下とともに還元的になった湖底堆積物からリン(栄養塩類)が溶出し水質悪化
いずれにしても大きな影響が考えられる。
温暖化による湖の酸素不足は世界的な傾向
ただ、温暖化にともない全循環が途絶えたり、起きない年があったりで、深層無酸素や低酸素の状態が続く湖は海外には多数ある。温暖化の影響を受けたと報告されている主な湖には以下がある。
中央ヨーロッパの大型湖沼
気候変動と関連した水温上昇
全循環パターンの変動
低酸素化
中国雲南省フーシェン湖
底層の無酸素化
アフリカのタンガニーカ湖
深層から表層への栄養塩の供給が低下し魚類の著しい低下
じつは前例は日本にもある。
鹿児島県の池田湖だ。池田湖は薩摩半島南部に位置する九州最大の湖だ。
面積は琵琶湖よりだいぶ小さいが深い湖だ。
ここでは1986年以降、上下層の水の混合がなく、底層水は1990年以降、無酸素状態が続いた。
湖底では好気性生物が死滅し、底泥中の窒素、リンが溶出。湖沼内の窒素、リンの濃度が上昇し、水質が悪化した。
気温が低かった2006年冬には全循環が確認されたが、底層水の溶存酸素量は回復しなかった。
現在も100メートルより深い場所で無酸素状態が続いている。
湖の中の酸素が減るメカニズム、全循環が起こらなくなるメカニズムは解明されてはいない。さまざまな要素が関連しあって起きるのであって、気温・水温との関連性はその1つでしかない。湖の面積、深さ、標高、周辺環境や湖内の生態系などとも関わりがあるだろう。
だが、温暖化が進むにつれ、水面が暖かくなって沈みにくくなり、湖底にまで酸素が届かなくなる傾向にあるとは言えるだろう。
低温や雪解け水の流入によって琵琶湖の表面温度が下がることを祈りたいが、天気予報では滋賀県はしばらく温暖な日が続くという。琵琶湖が心配だし、そのほかの湖にも注目したい。