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パチンコの「打ち子」問題について

木曽崇国際カジノ研究所・所長

ネットメディア発で、以下のような報道が広がってパチンコ業界が揺れ動いております。以下、ねとらぼからの転載。

大阪・大手パチンコチェーンで店長にサクラ募集疑惑 本社が「不適切な行為」を謝罪

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170206-00000054-it_nlab-sci

パチンコホールチェーン「べラジオ」が2月4日、従業員が不適切な行為を行っていたとして公式サイトで謝罪しました。ネット上で暴露された店長のサクラ(打ち子)募集疑惑が関係しているとみられます。きっかけはある人物がネット上に暴露したLINE上でのやりとり。べラジオ横堤店の店長と思われる人物が「スロットとカラダで稼ごうや!」などと、打ち子をやらないかと持ち掛けている内容でした。

当該店舗を運営するパチンコチェーンべラジオによる広報に基づけば現在、事実関係を確認中とのことであり、報道されている内容が全て正確であるかどうかは未だ不明でありますが、少なくともそこに従業員による不適切な行為があったという点に関しては認めており、報じられている内容の一部にせよ、全てにせよ、何らかの問題があったことは間違いないようです。ただ、業界にとってこの報道が非常にショッキングであったのは、当のべラジオグループは一般的に優良事業者として業界内では知られる準大手企業であり、革新派の経営者の下で従業員教育にもかなり力を入れていることで有名であったという点。業界においては非常に「痛い」問題の発生であると言えます。

さて、本件で問題になっておる「打ち子」に関してですが、大きく幾つかの類型に分かれます。一つ目の類型がプレイヤー側が組織を為して有利な遊技機を占拠する形で利得を得ようとする「グループ打ち」の一員として募集が行われるもの。ただ、実はこの種の募集はことに最近はその殆どが必勝法詐欺とセットになっており、「高額収入を保証」などとする告知にのせられて連絡をしてみると「秘匿性の高い必勝法を共有する仲間になる為には保証金の支払いが必要」などと言葉巧みに支払いの要求がなされるなどの被害が発生しています。また、上記のような事前の金銭の支払いが求められない場合であっても「打ち子」として幾らかの仕事を廻された後に、「店舗の関係者」と名乗る人物が現れ「あなたの違法行為によって被害を受けた」などとして脅しを受けるなど、様々な派生的な手口が発生しています。

一方、このようなプレイヤー側が組織を行う「打ち子」とは別に、それ程多い事例とは思いませんが非常に残念なことに店舗側がサクラとして募集する「打ち子」が業界内に存在すると言われているのも事実(業界団体は絶対に認めませんが)。この種の「打ち子」は店舗側がいわゆる「出玉感」の演出の為に募集を行うもので、店側が予め高設定をおこなった遊技機にサクラとして座らせるもの。その他のお客様から見ると一見して「この店、結構出しているな」と感じるわけですが、一方で実際「出る台」に座っているのは店側が雇ったサクラばかりでお客様への還元は全く為されていないという状況であって詐欺罪、もしくは少なくとも「著しく客の射幸心を煽る営業行為」として風営法違反が問われるものと思われます。

そして最後に存在する「打ち子」の類型が、まさに今回べラジオで発生した事件。今回の「告発」の証拠として一部で出回っているメッセージアプリによるやり取りにおいて、不適切な行為を行ったとされる店長は個人的な遊興費欲しさに不正を行っていることを募集の相手に示唆しています。この種の「打ち子」は、高度な営業上の秘密である「遊技機の設定」を知りうる立場に居る内部者が、外部の者と共謀して店舗から金を「抜く」為に行うものであり、高設定台を自らの息のかかった「打ち子」に打たせ、その儲けを折半することで成立します。当然ながらこの種のものも業務上の背任行為であり、違法性が問われる可能性が高い。

今回の問題においては組織的な不正ではなく、店長個人の行った不正であることが流出画像等から既に示唆されているため、その点においては当該店舗を運営するべラジオにとっては不幸中の幸い。当のパチンコ業界にとっても業者ぐるみの不正が判明するよりは業界の信頼に対するダメージは少ないとは言えるのかもしれませんが、冒頭でご紹介したとおりべラジオは業界内では従業員教育に力を入れる優良企業として知られる存在でもあり「あのべラジオでもこういう事が起こり得るのか…」というのが正直なところなのかもしれません。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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