完全週休3日の実現は社員の努力だけでは無理 4年間挑戦して分かったこと
今年で創業125周年という老舗企業のサタケは、2017年から毎年夏に全社員を対象とした「週休3日制」のトライアルを続けています。
いずれは年間を通じて週休3日制にすることを目指しているそうです。その目的や、やってみて分かった週休3日制導入のポイントなどを、人事部 部長の小林照幸さんに伺いました。
今年も6月から「週休3日制」トライアル中
サタケで初めて「週休3日制」のトライアルを始めたのは2017年のこと。7月から8月にかけての5週間、毎週月曜日を休日としました。
その後、週休日を変更したり、全員一斉に休む形から半数ずつの交代制にするなど、微調整をしつつ取り組みを続けています。
急なコロナ禍に見舞われた2020年はトライアルを中止し、その分の休日を5月に移動、緊急事態宣言に合わせてゴールデンウィークの連休を延長するような形になりました。
今年は、6月23日の週から週休3日制の取り組みが始まっており、毎週水曜日に社員の約半数ずつ交代で休むという形で8月1日の週まで続けられる予定です。
交代で週休3日を実施するに当たっては、各課やチーム内で、前半のAグループと後半のBグループに全員を割り振り、人事部に申請する形を取っています。
精米機のトップメーカーであるサタケは、米の収穫時期である8〜10月が繁忙期。また、麦の収穫期である初夏も忙しくなります。そのためどうしても平日に休むのが難しい人もいて、休むはずの水曜日に働いた場合は、休日出勤扱いで後で振替休日を取得するのだそうです。
逆に、週休3日のトライアル期間に有給休暇を組み合わせ、長めの夏休みにするのもありです。
過去3回取り組んできて、家族との時間が増えた、平日の混んでいないときに出かけられる、平日でなければできない用事を済ませやすいなど、社員からもポジティブな評価が得られているとのことです。
月曜日や金曜日に全員が休むのは難しかった
実際にやってみたから分かる難しさもありました。
例えば、初年度は月曜日を週休日としたところ、営業部門からは「顧客からの連絡や問合わせの多い月曜日は避けたい」という意見が。
そこで翌年は金曜日にしましたが、週の終わりは一週間の総括や翌週の予定確認のミーティングが組まれることが多く、やはりやりづらいところがあったようです。また、「全員一斉に休むのは、取引先などへの影響が大きい」ということもあり、2019年からは水曜日に交代制で休むということになったのでした。
週休3日制を導入するに当たって、顧客の理解を得られるかは大きな課題です。 一方で同社は、2016年に24時間365日対応の「お客様サポートセンター」を立ち上げています。営業担当者が休みの日や時間外でも問い合わせ対応ができるようになり、逆にサービスが向上した面があるのです。これが週休3日による業務時間の短縮をカバーする上でも大きかったと、小林部長は振り返ります。
給料維持で週休3日を実現するために、生産性向上が不可欠
サタケには、ゆくゆくは1年通して完全週休3日制を実現したいという考えがあります。
「今は、お取引先様に迷惑をかけないために半数は出社するようにしています。でも、それを年間続けるとなると勤務体系も複雑になりますし、理想は全員で週休3日にすることです」と小林さん。
その際、勤務日が減るからといって会社全体の売上を下げたり、社員の給料を減らしたりといったことは考えていません。あくまで現在の給料を維持しながら、週1日分の労働時間を減らすことを目指しているのです。
通年で週休3日を実現していくには、会社として生産性向上に取り組むことが不可欠だと小林さんは語ります。
「今は期間限定でテスト的にやっているだけですから、頑張ればなんとかできる話なんです。でも一年中やろうとしたら、仕事のやり方を変えざるを得ません。何も変えないまま4日で5日分の仕事をしようとすれば時間外労働が発生してしまいます」
生産性向上の具体的なステップとして、小林さんは「無駄な仕事の削減」「仕事のやり方の見直し」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を挙げます。
これまでも週休3日のトライアルが仕事の棚卸しのきっかけとなり、その成果は年間の時間外労働時間の減少という形で現れてきているそう。
「ピークだった2010年との比較で60%くらい減っています。人件費に換算すると、数億円の削減になります。だからといって社員の給料を減らそうとしているわけではないので、その分を年度末に特別ボーナスとして支給したりしています」
一方で、「各自の努力で業務量を減らしたりやり方を変えていくのは、これ以上は難しいだろう」とも。さらに生産性を向上して週休3日の実現に近づけていくには全社単位での変革が必要で、鍵になるのはDX(デジタル・トランスフォーメーション)だといいます。
小林さんは情報システム部も兼務しており、今年から3カ年のDXの計画を策定し、その実行を推し進めているところです。
具体的には、無駄な業務は削減した上で、人の意思決定が入らないような処理はRPAなどを導入して自動化する、紙の書類と印鑑を電子化するなど、アナログなプロセスをどんどんデジタルに置き換えていく方針です。
コロナ禍でテレワークも浸透
なお、昨年は週休3日の実施を見送った同社ですが、テレワークの対応はグッと進みました。
以前は営業担当者が出先で仕事をする以外のテレワークは、ほとんど行われていませんでした。しかしコロナをきっかけにインフラの整備やルール作りを進め、サタケ本社のある広島に緊急事態宣言発令中だった取材時も、社員の3割程度がテレワークをしているとのことでした。
これも週休3日のトライアル時と同様、顧客に迷惑がかかったり仕事が滞ったりしないよう、各課の中でグループ分けをして交代でテレワークをするようにしているそう。
製造業の同社には、「テレワークなんて無理」という職種もあるのでは? そんな疑問をぶつけると、小林さんは「昨年はたしかに、部門ごとの偏りがあった」と振り返りました。
生産部門はもちろん、技術開発部門の図面を描いたり試験をしたりする仕事も自宅で行うのは難しく、昨年は時差出勤をしたり、会議室なども使って分散して仕事をするようにしたりといった対応をとっていたそうです。
しかし最近では、そういった職種の人たちにも、eラーニングで学んだり、所属長が出した課題についてじっくり考えるといったことをテレワークでやってもらうケースが増えてきた、と小林さん。「テレワークができる・できない」といった不公平感をなるべくなくすためにも、普段は目が向きづらいスキルアップや仕事の視野を広げる時間を作るという意味でも、非常に参考になるのではないでしょうか。
新型コロナウイルスの影響で、多くの会社が十分な準備の期間もなく働き方の変革を迫られました。サタケの場合、週休3日のトライアルを毎年続けてきたことで、柔軟に新しい働き方に移行できる素地が整っていたと言えそうです。
「社員ファースト」の経営理念が先進的な取り組みのベースに
同社は、週休3日だけでなく子育て支援などでも先進的な取り組みをしています。例えば、2005年には男性の育児休職制度も開始してすでに50人の男性社員が育休を取得した実績があるほか、2016年には孫の世話をしたい社員のための「イクじい・イクばあ休暇」も新設されています。
そのようなアイデアはどこから出てくるのかというと、経営陣の方から「社員はこういうことを必要としているのではないか」という話が出ることが多いとのこと。
「代々の経営者に『人を大切にする』という思想があったのだと思いますが、2011年に『社員とその家族を幸せにする』という経営方針を掲げ、その姿勢がより明確になりました。今の社長からも常々、『企業は人だ』『社員ファーストでものを考えなさい』と言われます」
世の中には、社員を大切にすることと経営を成り立たせることの両立が難しいと悩む経営者も多いことと思います。しかし、「社員が会社に不満を持っていたり不幸せな状態では、お客様に対して良い提案ができるとは思いません。お客様に幸せを感じてもらうためには、まず社員に幸せを感じてもらおう、という考え方です」という小林さんの言葉からは、「まず社員の幸せあってこそ」という同社の強い信念が感じられました。週休3日のトライアルを地道に続けられているのも、その目的意識があってのことでしょう。
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