ユヴェントス、優勝翌日に監督解任騒動 アッレグリ劇場は品格問われる「悲しい結末」へ
3年ぶりのタイトル獲得で喜びに包まれた翌日に、まさかのニュースだった。
ユヴェントスは5月15日、コッパ・イタリア決勝でアタランタを1-0で下し、3シーズンぶり15回目の優勝を果たした。マッシミリアーノ・アッレグリ監督は個人で通算5回目の同大会制覇。単独歴代トップの数字だ。
そして一夜明けた16日、イタリア各メディアは「ユヴェントスがアッレグリ解任を決定」と報じた。
セリエAの残り2試合は、下部組織を率いるパオロ・モンテーロが指揮をとるという。来季からは、ボローニャをチャンピオンズリーグ(CL)出場に導いたチアゴ・モッタにチームを委ねるそうだ。1年の延長オプションつきで2年契約を結ぶとされている。
当初報じられた16日中の正式発表はなかった。だが、各媒体は近く解任確実と伝えている。
なぜ、待ち望んだトロフィーを手にした直後に監督解任という騒ぎになったのだろうか。
■コッパ決勝での乱心
15日の決勝では、終盤のアッレグリ劇場が話題となった。
1点差を逃げ切ろうとした終盤、激高した指揮官はスーツの上着を脱ぎ捨てた。2016年のカルピ戦以降、緊迫した試合終盤にアッレグリが時折見せる行動だ。
第4審判を鼻先で怒鳴りつけ、広告看板を蹴るなど、アッレグリのいら立ちは大層なものだった。報道によると、さらに「(ジャンルカ・)ロッキはどこだ!」と、審判部門責任者を呼びつけるなど、判定への怒りが収まらなかったという。加えて、アッレグリはフォトセッション用の照明機材も蹴り壊したとのこと。ユヴェントスは機材の所有者である媒体に謝罪し、損害賠償にも言及したそうだ。
翌16日、アッレグリには2試合の停止と5000ユーロの罰金処分が科された。
■記者脅迫の疑惑
アッレグリが怒りをぶつけた相手は審判団だけではない。『Tuttosport』紙のグイド・ヴァチャーゴ記者を脅した疑惑が浮上している。
ユヴェントスのおひざ元トリノを拠点とする同紙の編集長であるヴァチャーゴ記者が、試合後にアッレグリから暴言を浴びせられ、脅迫行為を受けたと明かしたのだ。
「クソったれの編集長」呼ばわりされたという同記者は、アッレグリから「新聞にはクラブに言われたことじゃなく真実を書け!クラブにおもねるのはやめろ!」と怒鳴られたという。
さらに、ヴァチャーゴ記者は、アッレグリに小突かれたうえ、「どこで捕まえられるか、どこで待っていればいいか、知っているからな。両耳を引きちぎってやる。鼻っ柱を殴ってやる。新聞には真実を書け」と脅されたと主張している。
通信社『ANSA』によると、アッレグリ側は弁護士を通じて脅迫行為を否定。「ただのヒートアップした口論」で、両者が大声で暴言を吐いたとした。しかし、これに対し、ヴァチャーゴ記者は大勢の証人がいると反論。否定したことは「出来事以上にさらに深刻」と非難した。
イタリアサッカー連盟は、アッレグリとヴァチャーゴ記者の件について調査を開始したという。
■幹部との確執
さらに、アッレグリはクリスティアーノ・ジュントリSDに対する行動もSNSなどで騒がれていた。ピッチでチームと優勝を祝うなか、拍手するジュントリの方向に何かを叫び、その場から遠ざかるようにうながすジェスチャーをしたからだ。
ナポリを昨季のセリエA優勝に導いた手腕を認められ、ユヴェントスに招かれたジュントリは、当初からアッレグリとの微妙な関係が指摘されていた。アンドレア・アニェッリ元会長が呼び戻したアッレグリと、そのアニェッリら前経営陣が去ってから加わったジュントリの立場は大きく異なる。
それでも、優勝を祝っている公の場で確執を隠さなかったことは波紋を呼んだ。アッレグリの行為が実際にジュントリへ向けたものかは分からない。だが、その見方が大半だ。そしてこの行動がクラブを不快にさせ、解任決定を後押ししたとも報じられている。
■ユヴェントスの「スタイル」
『La Gazzetta dello Sport』紙によれば、ユヴェントスはアッレグリの一連の振る舞いがクラブの「スタイル」に反すると評価した。解任を巡る法的根拠についても取り組んでおり、補償金を含めた財政面への影響も踏まえて対応を検討中という。
クラブの「スタイル」だけでなく、プレーに関する「スタイル」も、解任理由と見られている。
アッレグリは見る者を魅了するプレーより、勝利・タイトルという結果を重視する。それは決して内容を軽視するということではなく、何よりも実践的ということだ。
しかし、復帰からの3シーズンでアッレグリがユヴェントスにもたらしたタイトルは、今回のコッパ・イタリアのみ。過去2年は無冠に終わった。得点力のなさが常に批判され、さらにそれがトロフィーにもつながらず、アッレグリ体制への不満の声が絶えることはなかったのだ。
後任候補がモッタなのは、ユヴェントスの路線変更を明確に物語っていると言えるだろう。
■アッレグリの手腕
一方で、アッレグリだからこそ、今回のコッパ・イタリア優勝に至ったとの見方もある。
2021年に復帰してからのアッレグリにとって、第2次政権は苦難の連続だった。
クリスティアーノ・ロナウドの退団、勝者のメンタリティー喪失、鳴り物入りで復帰したポール・ポグバの負傷長期離脱、前経営陣の辞任、減点処分による欧州カップ戦出場権はく奪、ポグバとニコロ・ファジョーリの長期出場停止処分…ピッチ内外で様々な問題があったのだ。
それでも、今季のユヴェントスは前半戦で上々の成績を収めた。だが、2月の直接対決でインテルに手厳しい黒星を喫し、以降は急激に失速。終盤は批判ばかりを浴びるようになった。一部のメディアは、アッレグリが孤立を感じていたと報じている。冬の補強が十分でなく、不振に陥ってからもクラブから守られることがなかったと不満を抱いたという。
しかし、最終的にアッレグリは今季の目標を達成した。CL出場権とタイトルをもたらしたのだ。優勝を祝う様子からは、選手たちとの人間関係もうかがえた。ケナン・ユルディズのような若手も登場。少しずつだが、明るい未来も期待できる状況となったのだ。
当然、アッレグリには、計り知れない困難の中でそこまで導いたという誇りがあるだろう。
■敬意
もちろん、どんな経緯があろうと、器物破損や記者への脅しが事実なら、それは許されることではない。OBのマッシモ・マウロも『Repubblica』でその点を批判している。
一方で、アニェッリたちの退陣後、アッレグリばかりが批判の矢面に立たされたとの見方もある。シーズン後の監督交代を既定路線とし、シーズン中の指揮官を支えていなかったとしたら、「スタイル」は大義名分でしかない。
現時点では、どちらも確定した事実ではない。確かなのは、アッレグリが8シーズンにわたって指揮をとり、スクデット5連覇とCL準優勝2回を達成した功労者ということ。別れる場合もリスペクトに値する存在だ。少なくとも、ユヴェントスは敬意を払ったと見せる必要があるだろう。
ファビオ・カペッロは『La Gazzetta dello Sport』で、シーズンを終えることなくアッレグリが解任されるのなら、「本当に悲しい物語の結末」だと話している。