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観光列車運休、車内販売休止、きっぷ払い戻し 「緊急事態宣言」で鉄道事業者はどうする?

小林拓矢フリーライター
北陸新幹線の車内販売は休止となった(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 不要な外出は控えよ、なるべく自宅にいるように――そんなメッセージが、「緊急事態宣言」に添えられた。そしてこの宣言では、さまざまなところに自粛を「要請」した。

鉄道は動く、けれど

「緊急事態宣言」が出る前には、一部メディアで通勤電車などの減便が報じられた。だが政府はその後、現在の運行状況を保つ、と発表した。

 もし一般の通勤電車などを減便した場合、比較的混雑している列車が感染源ともなりかねないという状況もあれば、鉄道で移動しなければならない人のために列車を確保しなければならないという理由もある。テレワークが推奨されている状況はあるものの、多くの人はテレワークができる環境にない。

 通勤電車の利用者は減少し、朝ラッシュもひどくないという状況も伝えられる。しかし、これでラッシュ時に減便を行えば、混雑は避けられない程度の状況でもある。

 ゴールデンウィークの臨時列車は多くは運休し、または運行を予定していても予約は受け付けない、つまり定期列車の利用状況によっては運行しないということになった。おそらく、運行はされないだろう。

 定期列車と臨時列車をうまく組み合わせてつくられた東海道新幹線も、臨時列車の多くは運休となり、「のそみ12本ダイヤ」の本領はいまだ発揮できていない。

 利用者のために、必要な列車は動かすものの、人が乗らないであろう列車は動かさないということがいえる。

観光列車の運休

 その最たるものが観光列車だ。JR東日本は、「のってたのしい列車」を運休すると発表した。SL列車や、「リゾートしらかみ」のような風景をたのしむ列車、「TOHOKU EMOTION」のような美食をたのしむ列車などは運休となった。

 SLの運行で人気を集めている大井川鐵道も、SLは5月8日まで運休となった。

 また、観光客の利用が多い銚子電鉄は、一部の列車を運休させるという措置をとった。

 クルーズトレインも運休だ。JR東日本「TRAIN SUITE 四季島」は5月16日出発分まで運休、その他のクルーズトレインも運休が相次いでいる。

 期待されていた新しい列車も運転は行われない。JR西日本の「WEST EXPRESS 銀河」は、運転開始を延期し、開始の見込みは立っていない。長時間、とくに夜間の運行となるため、密閉空間であることは避けられない。

 新型コロナウイルスは、乗ることを楽しみ・よろこびとする列車の運行をできなくさせた。これらの列車は乗車時間が比較的長く、感染源のクラスターとなってはいけないという判断だからだろう。

 残念ではあるものの、このような情勢だからしかたがない。

車内販売などの休止

 現在、車内販売を行っている新幹線や特急は多くない。しかし、JR東海以外では車内販売を休止し、車内で飲み物などが買えなくなっている。北海道・東北新幹線や北陸新幹線のグランクラスの飲食サービスを5月31日まで停止した。

 駅弁売店の休止も相次ぐ。JR東海系列のジェイアール東海パッセンジャーズでは、駅売店の販売を大幅に縮小し、営業をとりやめた店も相次いだ。JR東日本系列のJR東日本フーズでも駅弁売店のみならず駅そばなども営業休止・縮小が行われている。

 利用者の減少にともない、関連するサービスも縮小している。

 気がかりなのは、そこで働く多くの人が非正規であるということだ。シフトが減ることによる給与削減や、休業することによる給与の補償など、どうするのか。

 非正規職の場合は、時給などで給与が計算され、働かない(働けない)ぶんは一般的には給与は支給されないというのが現状だ。有給休暇も使えない場合もある。

「緊急事態宣言」によるさまざまな事業の縮小で、こういった影響も鉄道にはあるのだ。

きっぷの払いもどしや発売停止

 鉄道事業者では、きっぷなどの払い戻しについても案内している。定期券・回数券などの無手数料での払い戻しに応じている事業者は多く、さらにフリーパスなどの発売停止を行っている事業者もある。京急電鉄では、人気の高い「みさきまぐろきっぷ」などの販売を停止し、京王電鉄では「高尾山きっぷ」などの販売を停止している。

 各観光地が休業になる中、その関連きっぷは発売を停止した。

 特急券の払い戻しに関しても無手数料での払い戻しを条件によっては認め、「出かけないこと」を促進させるような取り組みを行っている。

 なお、10日が使用期限である「青春18きっぷ」は、一部でも使用していると払い戻せない。こういった状況では、未使用のぶんの払い戻しに応じてもいいのではないか。

 鉄道事業者は、新型コロナウイルスによる「緊急事態宣言」を受けて、その方針に沿った動きを打ち出した。いずれも、経営面に与える影響は大きく、場合によっては働く人への影響も大きい。外出はなるべく避けるという政府の方針の中、鉄道事業者は公共の交通機関として、できることは最大限にやり、自らを犠牲にしても世の中の状況のためにつくすという方針を示している。

 鉄道を利用する人にとっても、いまは耐えるときかもしれない。いつこの状況が終わるかわからないものの、終わったら鉄道に乗り、駅弁などを食べようではないか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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