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ウラナミシジミの悲しき死滅拡散=上京しても都会の冷たさで死に絶える涙の物語

天野和利時事通信社・昆虫記者
クズの茂みで交尾中のウラナミシジミのカップル。マメ科のクズも彼らのお気に入り。

 西日本各地の海沿いの町から上京して、夢破れて散っていく。ウラナミシジミはそんな悲哀を感じさせる蝶だ。

 東京都心の公園では、春、夏には全く見られなかったウラナミシジミが、秋になると突然、大量に出現。9月から10月に見頃となる萩(ハギ)の花で良く見かけるようになる。小さな蝶だが、翅の裏側の波模様は、ハッとするほど美しい。

 東京では、猛暑の季節には全く見られず、秋から12月までその姿が見られるので、暑さに弱く、寒さに強い蝶だと思われがちだが、実はウラナミシジミは南方系の蝶だ。

 西日本ではほぼ1年中見られる蝶で、夏から秋にかけて、世代を重ね、数を増やしながら北上を続け、萩満開の季節に関東にたどり着く。

交尾中のウラナミシジミのカップルを邪魔しに、別のオスが飛んできた。
交尾中のウラナミシジミのカップルを邪魔しに、別のオスが飛んできた。

ウラナミシジミのオス(左)とメス(右)。翅の表側の模様で雌雄が区別できる。
ウラナミシジミのオス(左)とメス(右)。翅の表側の模様で雌雄が区別できる。

秋の東京では、萩の花でウラナミシジミを見かけることが多い。
秋の東京では、萩の花でウラナミシジミを見かけることが多い。

 しかし、関東地方で幼虫や蛹で越冬できる場所は、房総半島南部にほぼ限定されると言われてきた。つまり、東京など他の関東各地で秋から冬にかけて見られるウラナミシジミは、越冬できずに死滅する。そして次の秋にまた西日本から北上してくるまで、その姿を見ることはできない。こうした生態を「死滅拡散」と呼ぶ。

 だが地球温暖化のせいなのか、最近は東京でも1月に姿を見かけたことが何度もあるので、東京でも越冬可能な場所がありそうだ。

 悲しき死滅拡散も、実は生息域拡大のための決死の行動なのかもしれず、温暖化がさらに進めば、死滅拡散作戦が功を奏して、ウラナミシジミが関東に確固たる地盤を築く日がやってくるかもしれない。

 東京のある公園では、1月に外来のマメ科植物にウラナミシジミの成虫、卵、幼虫が多く見られる。冬場に採ってきたそんな幼虫を自宅で育てる際には、スーパーで売っているサヤエンドウが餌として利用できる(幼虫の好物はマメ科植物の実)。暇な人は試してみるといい。

 そうすれば、東京でも早春にウラナミシジミの成虫を見ることができる。これは、秋まで待ちきれない関東在住者(そんな人はまずいないが)にとっての秘策だ。

外来のマメ科植物の実に潜り込むウラナミシジミの幼虫。
外来のマメ科植物の実に潜り込むウラナミシジミの幼虫。

冬に見つけた幼虫を飼育するには、サヤエンドウが便利。
冬に見つけた幼虫を飼育するには、サヤエンドウが便利。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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