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岸田首相に米軍機オスプレイの飛行訓練ルートと日米地位協定の見直しについて聞いた その回答は?

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
臨時国会が閉会したのに伴い、12月13日に官邸で記者会見を開いた岸田首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

11月29日に鹿児島県屋久島沖で米空軍のCV22オスプレイが墜落した。CV22は特殊作戦用で、重大事故の発生率が米空軍全体の他の軍用機と比べても極めて高くなっている。

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ところが、米軍は日本国内でのこの飛行訓練ルートを公開していない。防衛省も筆者の質問に対し、「米軍の運用に関することであり、承知していない」と回答した。

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オスプレイの安全性について各地の地方自治体が懸念の声を上げる中、地域住民の不安を払拭するために日本政府は米側に飛行訓練ルートについての情報開示を求めるべきではないか。

岸田首相は12月20日、官邸報道室を通じて、米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員である筆者の質問に書面で回答した。

●米軍機の飛行訓練ルートの情報開示請求

米軍機の飛行訓練ルートの情報開示請求について、岸田首相は「米軍機の飛行訓練は、パイロットの練度維持・向上のために必要不可欠な要素であり、日米安保条約の目的達成のため、極めて重要です。他方、米軍は、全く自由に訓練を行ってよいわけではなく、我が国の公共の安全に妥当な考慮を払って活動すべきであることは当然です」と回答した。

そして、「米側からも、飛行に際し安全確保は最優先であり、国際規則や日本の国内法に整合的な米軍の規則に従って行われているとの説明を受けています」と述べた。

さらに、「政府としては、引き続き米側に対し、安全面に最大限配慮し、地域住民への影響を最小限にとどめるよう求めてまいります」と述べたものの、米側に飛行訓練ルートの情報を開示請求するかどうかについては直接言及しなかった。

2020年9月23日、ウクライナの首都キエフの上空を飛行するCV22オスプレイ
2020年9月23日、ウクライナの首都キエフの上空を飛行するCV22オスプレイ写真:ロイター/アフロ

●日米地位協定の見直し

乗組員8人全員が死亡した今回の屋久島沖でのCV22オスプレイ墜落事故のように、たとえ日本の領土・領海で起きた重大事故であっても、過去の米軍機墜落事故と同様、海上保安庁や警察などは日米地位協定の壁に阻まれ、事情聴取や物的証拠の機体の捜査ができないでいる。

日米地位協定に基づき、在日米軍基地の外で米軍機の事故が起きた際、米軍機などは米軍の「財産」とされ、米側の同意がなければ日本側は捜索や差し押さえができないからだ。たとえ重大事故が民有地で起きて住民が危険性を訴えても、米軍機の飛行を止められず、事故原因の究明さえできない。このため、地位協定の見直しを求める声は依然として強い。

また、日米地位協定により、米軍には最低安全高度などを定めた日本の航空法は適用されていない。しかし、日本と同じ敗戦国のドイツやイタリアは駐留米軍に国内法を適用し、日本の特異性が目立っている。全国知事会もこれまでも何度も求めているように、日米地位協定の見直しを米国に求めるべきではないか。

日米地位協定の見直しについて、岸田首相は「日米地位協定と、米国と他国と締結している地位協定との比較については、地位協定そのものの規定ぶりのみならず、各国における米軍駐留の在り方、実際の運用、安全保障環境等の背景等も含めた全体像の中で検討する必要があり、単純に比較することが適当とは考えていません」と回答した。

そして、「その上で、日米地位協定については、これまで、手当すべき事項の性格に応じて、効果的かつ機敏に対応できる最も適切な取り組みを通じ、一つ一つの具体的な問題に対応してきているところであり、今後もそのような取り組みを積み上げていく考えです」と述べた。

筆者は12月13日の岸田首相の記者会見に抽選に当たって出席したが、質問時間に指名されなかったため、官邸報道室を通じて岸田首相に書面で質問していた。電子メールで20日、回答を受け取った。

今回の回答は外務省日米地位協定室が中心となり、これまでの国会答弁などを踏まえて作成したとみられる。

事前に飛行訓練ルートの情報が地方自治体に提供されれば地域住民への説明も丁寧に行える。政府にはしっかりと米軍の運用を把握し、逐一丁寧な情報開示や説明によって少しでも住民の不安を取り除く姿勢をもっと明確にして示してほしいものだ。国会やメディア、さらには国民は安全性が十二分に確立されるよう米軍と政府の対応を注視していかねばならない。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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