“初代王者の二連覇”を狙えるのは石川ミリオンスターズだけ!新リーグに懸ける端保球団社長の意気込み
■2022年のスローガンは「温故知新」
「温故知新」―。
古きを温(たず)ねて新しきを知る。過去のできごとや以前学んだことを、もう一度調べなおしたり考えなおしたりして、新たな道理や知識を見出し自分のものとすること。
石川ミリオンスターズ(日本海オセアンリーグ)の2022年スローガンだ。そして、「温故知新」のスローガンに合わせてユニフォームも刷新した。なんと創立した2007年から2015年まで着用された初期モデルを採用しているのだ。
なつかしいストライプ柄には、「温故知新」の思いが込められている。
■端保聡社長が見込んだ後藤光尊監督の人間性
「温故知新」を掲げ、後藤光尊監督のもと、チームは船出した。
「ウチは毎年、キャッチコピーは監督が考えるんで。毎年ずっとそうなんですよ」と明かすのは、ミリオンスターズの社長、端保聡氏だ。「『初心に帰って、昔のいいところを踏襲しながら、新たなことにチャレンジしていくために』という後藤監督の思いです」とのことだ。
後藤監督は2001年にオリックス・ブルーウェーブからドラフト指名を受け、オリックス・バファローズ、東北楽天ゴールデンイーグルスで計15年、NPBで
活躍した。イーグルスアカデミーで2年、バファローズで2年のコーチを経て、昨年はミリオンスターズの野手コーチとして選手を指導してきた。
端保社長から監督にと見込まれたのは、その指導力だけではない。
「チームのこと、選手のこと、いろいろ考えてくれているし、考える頭を持っている。自分の立場で今、何ができるかということを常に考えている。NPBで活躍した一流選手であり、なおかつ広い視野を持っている」。
端保社長が高く評価するのは、姿勢も含めたその人間性だ。
「スポンサーのところに行くときは極力連れてってくれって言うわけですよ。それで一緒にスポンサー回りもしている。そういう人物。すごく意欲を感じる。なんでも吸収したいっていうね」。
昨年から接してきた端保社長は、「いずれは事業家になったらいい」と、心底惚れ込んでいる。
■球団史上3人目の選手兼任監督の誕生
そんな後藤監督が新年早々、ある提案をしてきた。
「昨年末に監督就任をお願いして、地元の互礼会で年明け初めて会ったときかな。『社長、ちょっと条件があるんです』と。『金のことか?』って訊いたら、『いえ、違います。現役をやっていいですか?』って」。
端保社長は「はい、どうぞ」と二つ返事で快諾したという。過去、ミリオンスターズには2人の選手兼任監督がいた。故・森慎二氏とフリオ・フランコ氏だ。
「森慎二にしてもフランコにしても、やるからにはちゃんとやりたいっていうのがあった。当然ながら後藤監督も中途半端では出たくないだろうし、出るからにはやってくれると思った。若い選手の出場機会を減らしてまで出るということは、それなりの責任があるということもわかってくれている」。
プレーヤーとしてのグラウンドでの姿を思い返し、「いきなり、あれはビックリした。あんなプレーが見られれば、いいんじゃないですか」と、4月3日の福井ネクサスエレファンツ戦で見せたサードでのダイビングキャッチに大いにうなずく。
■独立リーグ界に打ち立てた数々の金字塔
ミリオンスターズは、BCリーグの初期メンバーとして2007年から独立リーグ界で躍動してきた。初年度、BCリーグ初代チャンピオンに輝いた。四国アイランドリーグplusとのグランドチャンピオンシップで徳島インディゴソックスに勝利して、BCリーグ勢として初の独立リーグ日本一に輝いたのは2011年、設立5年目のことだ。
NPBに選手を送り出したのもBCリーグで初(2007年・内村賢介、東北楽天・育成1位)。15年間で富山GRNサンダーバーズとともにトップタイとなる14人の選手を輩出している。
2012年にはハワイで米独立リーグとの交流試合を実施。2014年には木田優夫GM兼投手(現北海道日本ハムファイターズ・ファーム監督)が「1日コーチ」のオファーを送った友人の明石家さんま氏が来場し、石川県立野球場に1万5877人を集めた。これは国内独立リーグ史上最多動員数という快挙で、いまだ破られてはいない。
■日本海オセアンリーグに参入
BCリーグで数々の功績を残してきたミリオンスターズが、今年から日本海オセアンリーグに移ったのには、わけがある(参照記事⇒日本海オセアンリーグの誕生)。
「コロナ禍で2年やってみて、その中で西地区だけが中地区、東地区と比べてどうしても距離があり、違うリーグになっているのかなという感じがしていた」。
昨年までのBCリーグは福島、群馬、新潟、信濃が中地区、茨城、栃木、埼玉武蔵、神奈川が東地区、そして現在の日本海オセアンリーグに所属する富山、石川、福井、滋賀は西地区に分類されていた。
コロナ禍で長距離の移動が困難になり、中地区や東地区と交流がもてなくなっていた。さらにコロナ禍以前は公式戦に組み込まれていた読売ジャイアンツ3軍との試合も、昨年は中、東地区で2年ぶりに実施されたが、西地区だけは蚊帳の外だった。
「コロナで経営はめちゃくちゃきつくなった。それ以前からもギリギリ、カツカツで運営していたところ、さらに3分の1強が減るっていう状態で…。おかげさまで資本金があったんで、なんとか2年間は乗りきれた。でもこのまま続くと、無駄に経費だけが増えていくと思った」。
中、東地区と交流をもとうとすると、その分、移動費がかかる。その打開策を模索していたところ、昨年、当時オセアン滋賀ブラックスの球団社長に就任した黒田翔一氏(現日本海オセアンリーグ代表)から提案があった。
「現状のままでは滋賀も撤退しなければならない。西地区の4つの球団で新しいリーグをするのであれば残ります」。
端保社長としても「ウチも来年までは大丈夫かもしれないけど、このままいったら経費だけがかさんでいく。それでも、僕の中では独立リーグの球団は多いほうがいいという考えがある。ならば一緒に新リーグでやろう」と決意した。
■4球団が一丸となる体制
日本海オセアンリーグとしてシーズンが開幕して1ヶ月ほどが経過した。優勝を4球団が戦っているが、試合以外のところでは手を結び、リーグとして一丸となって突き進んでいる。
たとえばドラフト指名に向けてだ。元横浜DeNAベイスターズのスカウト・武居邦生氏(2007年~2021年、山﨑康晃、今永昇太、上茶谷大河、柴田竜拓、楠本泰史らを担当)を招聘し、“スカウト目線”での選手の売り込み戦略を練る。
加えて、これまでBCリーグ在籍中の15年間、球団別人数でトップの15人をNPBに輩出している富山とともに、2番目の14人を送り出した石川の人脈も、リーグとして共有する。
また、選手の体の管理もリーグとしてあたっている。ミリオンスターズのコンディショニングを担当してきた理学療法士でもある片田敬太郎コーチが、チームの枠を越えて選手の体のケアに目を光らせる。
各球団の若いトレーナーたちもまた、片田コーチの卓越した知識、熟練の技に間近で触れることができるのだ。これもリーグとしての財産だ。
「リーグが一つになっている、その“象徴”がある」と端保社長が明かすものがある。選手が移動時に使うキャリーバッグだ。これまでミリオンスターズのチームスポンサーとして応援してくれていたエース株式会社がリーグのサプライヤーになり、リーグロゴの入ったキャリーバッグを提供してくれている。
「まずリーグの価値を上げることが大事。リーグを覚えてもらわなきゃということで、エースさんにお願いした。エースさんの森下宏明代表取締役がウチの後援会『M’s Family』の代表で、快く引き受けてくださった」。
黒地に日本海オセアンリーグの略称「NOL」のロゴが入ったバッグは、選手にとってもステイタスである。
■集客とNPB輩出のどちらも目指す
創設1年目、紆余曲折しながらシーズンを遂行しているが、「正直なところ、手応えはまだまだ。でも、まだまだなんだけど、これは“可能性のあるまだまだ”なので、改善のしようがある」と端保社長は話す。
やはり第一の課題は集客だ。ミリオンスターズのホーム開幕戦(4月9日)には始球式に斎藤佑樹氏を招待したが、動員数は期待したほどには伸びなかった。
「集客とNPB輩出、これを同時にというのはBCリーグにいたときにもできていなかったけど、あらためてやらなきゃいけないなと。そのために告知、メディアへのリリースのところからもっと変えていかないといけない」。(ホーム開幕戦の詳細記事⇒石川ミリオンスターズに斎藤佑樹がやってきた)
いい企画を打ち出しても、それが周知されていなければ人も集まらない。日本海オセアンリーグの認知度を上げるための告知、宣伝などの広報活動に、リーグとしてもっと力を入れる必要があると説く。
■地元の石川県から3人の高校生が入団
さて、今年のミリオンスターズはどんなチームだろうか。「長打はないけど、打つほうも守るほうも、近年になくレベルがそれなりにきてるんじゃないかなっていうふうには思う」と自信を覗かせる端保社長。投打ともにドラフト候補になりうる選手が複数人いる。
また、今年は地元石川県の高校生が3人、入団した。津幡高校から森林秀匡投手(能美市)、羽咋高校から松元風樹内野手(津幡町)、鵬学園高校から北橋歩外野手(七尾市)だ。
「これまで2人はあったけど、3人は初めて。去年、高田竜星が1年でジャイアンツに入ったので(育成2位指名)、それもいい影響があったと思う。みんなの口をついて出るのは、『NPBに行きたいので独立を選びました』ということ」。
3人ともすでに公式戦デビューし、NPBスカウトの前でそのプレーを披露している。秋までにどれくらい成長するのか楽しみだ。
■日本で2番目に価値のある野球リーグに、そして“初代王者の二連覇”へ
高校卒業後の進路に大学、社会人と並んで独立リーグが選択肢に入っているのは間違いない。今後も好選手を獲得するためにも、新リーグ1年目の今年、一人でも多くの選手をNPBへ送り込むことは必須だ。
「それこそ4球団が一丸となって、NPBに行かせられるように。NPBに行くためには日本海オセアンリーグだと、選んでもらえるように。NPBに次いで、日本で2番目に価値のある野球のリーグにしていきたい」。
端保社長の鼻息も荒い。
新リーグでは運営面など、端保社長が培ってきた15年間の経験による手腕が頼りにされている。明らかにこれまで以上に多忙な様子だが、「やっぱり忙しいのが好きなんでしょうね」と笑う。そして、「またモチベーションが上がった」と意気に感じて走り回っている。
これからも、夢を追いかける選手たちを熱く熱くバックアップしていく。
そして石川ミリオンスターズは、あと3勝に迫った通算500勝、さらには“初代チャンピオンの二連覇”を貪欲に目指す。
(写真提供:石川ミリオンスターズ)
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