同級生(日ハム・長谷川、楽天・松井)に追いつけ!金沢学院大OBがNPBを目指して独立リーグで奮闘中
■5月5日のヒーローは金沢学院大OBコンビ
今季初の2ケタ得点での勝利だった。5月5日のこどもの日、石川ミリオンスターズは滋賀GOブラックスを相手に10―3と、引き分けを挟んでの連敗を2で止めた。
試合後、投打のヒーローに選ばれたのは、奇しくも地元の金沢学院大学を卒業したばかりの二人だった。「投」は先発で2勝目を挙げた田中颯士投手、「打」は3安打1打点、守備でも好捕球を連発した大谷和輝選手だ。そろってインタビューを受けた同級生の二人は、スタンドのファンに輝く笑顔を届けた。
◆田中颯士(たなかそうじ)
3度目の先発だった田中投手は、立ち上がりからスイスイとアウトを重ねて五回まで快調に進んだ。許したヒットは1本、四球も1つしか与えず、無失点投球だった。
「前回登板が不甲斐ないピッチングで終わってしまったし(4月24日・富山戦、5回4失点)、チーム的にも負けが続いてたんで、そこを僕がいい火付け役になればなぁと思って全力で投げた。前回ムダ球が多かったので、それをなくしてカウント有利な状況で投げていこうと思っていた」。
自身で掲げたテーマどおりストライクを先行させ、球数も五回まででわずかに61球だった。前回は高めに抜けていたという“ムダ球”も、「低めを意識すること」と「フォーム的に上を向かないように、マウンドの傾斜に対してまっすぐというイメージで投げること」を心がけて、なくしたという。そして「相手に流れをもっていかないよう粘れた」と自己評価した。
5点の援護もあり、どこまでイニングを伸ばせるか注目されたが、五回を終わったところで交代となった。「足がつっちゃたんです、脱水で…」。照れくさそうに明かす田中投手。
「体力的にはもっと長く投げられたかなと思っているので、体調管理をしっかりして、もっとロングでいけるようにやっていきたいです」。
すると、すかさず隣の大谷選手が「まだまだだ」とツッコんで笑いをとり、同級生ならではの息が合ったところを見せた。そんな大谷選手については「非常に力強い。ファーストから慣れ親しんだ声が聞こえるので」と、田中投手にとっても安心材料になっているようだった。
◆大谷和輝(おおたにかずき)
大谷選手は自身初の3安打で1打点を挙げて、打撃でも田中投手を援護した。前回の富山戦(4月30日)で修正点が明確になり、その課題克服に取り組んできたという。
「後藤監督にも『楽な練習をするな。練習で気持ちよく打っていたら、試合で結果は出ない』と言われた。どれだけ苦しくバッティングをするか、自分の形で振るということを考えて練習してきた。試合では打席の中での迷いを消して、フォームが小さくならないよう、思いきって振ることを意識している。それと肩が開くとバットが出てこないんで、苦しくても左肩を我慢するようにもしている」。
日々、気づいたことや監督に助言されたことなどを小まめにノートに記し、迷ったときや調子が上がらないときに開いて、生かすようにしている。そうして汗を流してきたことが3安打につながったと胸を張る。
しかし大谷選手がバッティング以上に自身を評価したのは、ファーストでの守備だ。ゴロをさばいた内野手からの、決して好送球とはいえない球をことごとくキャッチして、アウトを完成させた。都合4度あった。
「ファーストはあれが仕事なんで。バッティングより守備で流れが作れたかなというのは自分の中で感じている。常に準備ですね。打球が飛んだときに、どういう送球が来るのか頭に入れといて、どんな送球が来てもグローブに納まるような入り方を考えて守っている」。
チームを、そして同級生を助けるプレーができたことに、誇らしげに目を細めていた。
■NPB(日本野球機構)のドラフト指名に向けて
二人にとって、この日本海オセアンリーグでプレーすることが最終目標ではない。ここから次のステップであるNPBを目指している。彼らの同級生である長谷川威展投手は北海道日本ハムファイターズに5位で、松井友飛投手は東北楽天ゴールデンイーグルスに6位で、それぞれ昨秋のドラフト会議で指名された。NPBでの彼らの活躍はYouTubeなどで見ているという。
田中投手は「大学のときに一緒に戦った仲間なんで、投げてて抑えてたりしたら素直に嬉しいけど、やっぱり悔しいっていう気持ちもある。あの二人よりいい順位で入ることを目標にやってるんで、負けてられない。基本的な球速をアップさせて、それに伴ってボールの精度を上げていきたい」と率直な思いを吐露する。
大谷選手も「ドラフトを一緒に見ていて、選ばれたときは嬉しかったけど、やっぱり悔しい気持ちも反面あった。自分はポジションは違って打者なんで、NPBに行って二人と対戦して結果を残したい。自分の場合は単打より長打を打たないとNPBには行けないと思うんで、そこを意識しながらやっていきたい」と意気込んでいた。
■後藤光尊監督の総括
試合後、後藤光尊監督が総括した。
「2ケタ得点?そんな打った感があんまりないけど…。向こうのミスにつけこめた部分もあるので、そのへんの集中力はよかったんじゃないかなと思う」。
単純に大量得点を喜んでいるわけではなかったが、選手個々には評価を与えた。
「どうやったらつながるかっていうのをいろいろ考えながら」と変更したオーダーの中で、「藤村に久しぶりにタイムリーが出たんで、これをうまいこときっかけに復調してくれればいいなと思う。練習で試行錯誤しながらやってる中で、センター返しというか、しっかりと捉えた当たりが久しぶりに打てた。あとはやっぱり北橋に初ヒットが出たことがよかった」と、初めて1番に据えた藤村捷人(ふじむらしょうと)選手とルーキー・北橋歩(きたはしあゆむ)選手の名前を挙げて喜んだ。
ヒーローの大谷選手については「しっかりとバットが振れるようになってきてるんで、それを継続してやってくれれば。練習でやっていることがゲームでは出たり出なかったりの繰り返しなんで、いかにそれを思い続けてやれるか。やっぱりいいときって何も考えずに結果が出てしまう傾向があるんで、よかったときに何を意識してるかっていうのを忘れなければ、継続できると思う」と評価を与えつつ、継続していくことを求めていた。
そして守備に関しては「うまいうまい。久しぶりにうまいファーストやなと思った」と手放しで讃えていた。
一方、田中投手には「こんな5月のゴールデンウィークの暑さで足つってたら、ちょっと話にならん」と、苦言を呈した。
「彼も長いイニングをあまり投げた経験がない子なんで、それも含めて、いろんなことを感じながら成長していければ。何が足りないのかは明白で、彼の場合は投げる体力。そのへんは片田(敬太郎)コーチと相談しながら、練習してくれると思う。これをなんとかプラスにしてほしい」。
さらなる成長を促していた。
ルーキー・森林秀匡(もりばやしほずま)投手は初登板だった。「地元の子なんでね、ホームで投げられたというのがよかった。期待はしている」と、ホーム球場でデビューさせられたことを喜んだ。3失点はしたが、それでもしっかりとイニングを完了してベンチに帰ってきた。
「ちょっとふてぶてしさというか、あまり動じない精神力をもっている。そういうものを残しつつ、謙虚さも大事にしながら、もう少しまっすぐをガンガンいってほしいなっていう思いもある。まぁ、まだまだ育成段階なんで、いろんなことを話しながら、できればなと思う。とりあえず早い段階でこうやってホームで一回投げられたっていうのはよかったかな。その程度です、まだ」。
第一歩を踏み出した若武者には、「まだまだ足りないものばかり。多くを求めてやってほしい」と貪欲に吸収することを望んでいる。
■勝ち点方式
5月5日が終了した時点で、石川ミリオンスターズは3勝3敗2分けで勝ち点8。リーグ2位だったが、同7日に福井ネクサスエレファンツに敗れて一気に最下位に転落した。
順位は勝ち2点、引き分け1点、負け0点の勝ち点方式で、入れ替わりも激しい。今後の巻き返しに期待したい。
(写真提供:石川ミリオンスターズ)