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日本海オセアンリーグの“二刀流”野村和輝(石川ミリオンスターズ)、初づくしの2連戦は曇りのち晴れ

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
「文字は岡野さんが書いてくれました」と第1号ホームランのボールを手にする野村和輝

■野村和輝選手の初ホームラン

 打った瞬間だった。大きなフォロースルーで鮮やかに振り抜かれた打球は、一直線に122mあるセンターバックスクリーンに向かい、そのやや左側に着弾した。

 5月8日の滋賀GOブラックス戦、第2打席の野村和輝選手の初ホームランは、石川ミリオンスターズにとってもチーム第1号となった。

 公式戦、実に41打席目だった。長距離砲として期待されながらも長打は二塁打が1本のみと、思うような結果が出せずに悩んできたルーキーの、会心の一撃だった。

 アウトローのストレートをしっかりとらえた。

 「打った瞬間に『あぁ、入ったな』と思った。低めだったんで、とりあえず押し込めたかなっていう感じ。監督にいつも言っていただいているミート重視の、軽くというか…。練習でやってきたことがやっと出た」。

 後藤光尊監督からは常に「いかに力を抜くか」を説かれている。結果が出ないと「打ちたい打ちたいという気持ちが勝つんで、そこをどうコントロールするか」と、自身にとっても“力感”は恒常的なテーマだ。だが、どうしても力んでしまい、結果を出すことができないでいた。

持ち味である長打がやっと出た
持ち味である長打がやっと出た

■全打席に内容があった

 しかし、この日は違った。1打席目、2ボールからのレフトフライでそれを感じたという。

 「詰まらないように前で軽く打ちにいけて、その最初の打席からずっと、全打席で軽く打てていた」。

 本塁打の次の打席、変化球を振っての空振り三振も、「次につながる三振かなと思う。やっぱり攻め方とかが高校とは全然違う。そういう部分の新しい勉強になって、引き出しが一つ増えた」と前向きにとらえられている。

 さらに4打席目の四球だ。

 「2ストライク目を空振りした。その空振りだけ、自分の中ではあかんスイングしたなと思った。高めを振るのはいいけど、ちょっとだけ割れて開いてたので、ダメだなと思って一度、打席を外した。で、その次もインコース高めにきたけど、ちゃんと体が残って見逃せたんで、修正できたかな」。

 反省をすぐに生かせた。

 納得の見極めで出塁した後、中川広大選手のタイムリーで生還したが、なんと気迫のヘッドスライディングを見せた。

 「絶対ホームに還りたい、アウトになりたくないっていう気持ちで頭からいった。ギリギリのプレーになったとき、頭からいったほうがセーフって言ってもらえる確率も上がると思ったんで」。

 内容のある全打席に気持ちも充実していた。

第1号ホームランを打ってダイヤモンドを一周する
第1号ホームランを打ってダイヤモンドを一周する

■スカウトが見る前で…

 実は試合前練習で自ら兆しを感じていた。センターから逆方向に何本も放り込み、「練習で感覚よくて、そのまま試合に入ってあそこに打てた。楽に打って入るっていう確信が持てた。不安から確信に変わった」と手応えを深めていたのだ。

 さらに、ずっと見てくれているNPB球団のスカウトが、ちょうど視察に来た日だった。練習前にも声をかけてくれ、いつもどおりストレートに振り負けないことや飛距離を磨くことなど助言を受けた。

 その人が見る前で打撃練習から飛距離を披露でき、その上、本番で第1号を出すことができた。

 NPBに行くには実力はもちろんだが、こういった「運」「縁」「タイミング」が重要なのだ。野村選手は“もっている”ということなのだろう。

力みがなくなった野村和輝のバッティング
力みがなくなった野村和輝のバッティング

■“野村ルール”の適用

 野村選手が期待されているのは、バットだけではない。東大阪大柏原高校時代から投手との“二刀流“としても注目されてきた。投手としては最速148キロを誇り、打者としては高校通算27発を放ってきた。

 そして「プロでも二刀流で勝負したい」と、ミリオンスターズに入団したのだ。

 そこで、日本海オセアンリーグNOL)に新ルールが導入された。投手として降板してもDHで打者として出続けることができるという(その逆もあり)、いわゆるメジャーでいうところの「大谷ルール」だ。NOLでも野村選手のために改正されたルールであるから、さしずめ「野村ルール」といったところか。(「先発投手兼DH」ルールについて

 初本塁打を放った前日、同7日の福井ネクサスエレファンツ戦で初登板初先発のマウンドに上がった野村選手は「3番・DH」で打順にも名前を連ねていた。

5月8日、石川ミリオンスターズのオーダー
5月8日、石川ミリオンスターズのオーダー

■悔しい初登板初先発

 手応えをつかめた「打者・野村」だったが、前日の「投手・野村」は惨憺たる結果に終わった。

 立ち上がり、いきなり先頭を四球で歩かせた。続いてヒットで無死一、二塁から、次打者の犠打の処理に慌ててしまい、ボールが手につかず自らのエラーで満塁とした。犠飛、重盗、2本のタイムリーヒットで初回に4点を失うと、続く二回にも足を絡められて2点を献上した。

 2回を6安打、1四球、6失点(自責3)で初黒星を喫し、ホロ苦どころか激苦デビューとなった。

 「緊張はしてなかったけど…」。

 試合後、さすがに顔色をなくした野村選手は言葉を絞り出した。「実力不足です。すべてが実力不足。人間性も含めてやり直します。監督にも1球1球考えろって言われました」と、いつもの陽気な姿はそこにはなかった。

初登板初先発の野村和輝
初登板初先発の野村和輝

■山内詩希選手と銭湯へ

 家に帰っても気持ちは晴れない。「何も考えられなくて…」と普段から一緒に食事に行くなど親しくしてもらっている山内詩希選手に「僕からお風呂屋さんに誘った」と連絡し、銭湯でさまざまな話をした。

 試合中も試合後も切り替えが下手な自身に対して、山内先輩は厳しくも優しい言葉をかけてくれた。

 「切り替えができないときは裏に行って顔を洗うのもいい。ピッチャーのおまえの持ち味は攻めていくこと。それが出せなかったのは実力不足やぞ」。

 さらに、見えているようで見えていない自身の姿についても憂慮して、「今年ドラフトにかかったときには、チームメイト全員に祝福してもらえる選手になってNPBに行ってほしい」とも言ってくれた。

 山内選手の言わんとしていることは、よく理解できている。常日頃、藤村捷人選手も苦言を呈してくれる。悔しさや不甲斐なさでリセットできないとき、「それを態度を出すな。周りにそれを見せたら、応援されない選手になっていくぞ」と。

 耳の痛いことを言ってくれる人はなかなかいない。先輩たちは本当に心から自分のことを思ってくれているのだ。それがわかるから、「いい先輩に囲まれている。自分にとっては何よりも財産だと思う」と、野村選手も素直に受け止めている。

周りを見る余裕がなかったか
周りを見る余裕がなかったか

 山内選手のおかげで、徐々に気持ちを整理することができた。

 「持ってる力を出しきれないっていうことが、独立でやっていて一番ダメなこと。出せないというのも自分の実力のうち。そういう部分も逃げずに、正面から全部受け入れよう。『初登板やからしゃあない』といろんな人に言っていただいたけど、それに甘えてはいけない。今がどん底で、これ以上の下はないし、これは必ず次につながる」。

 技術的な課題もたくさんある。「野手の練習が多いからっていうのは言い訳にならないし、クイックにしても間の取り方にしても、一つ一つ課題を潰していこう」と、決意を新たにした。

植幸輔捕手も懸命にリードしたが…
植幸輔捕手も懸命にリードしたが…

■後藤光尊監督の思いが沁みた

 さらに翌日、球場に行くと監督室に呼ばれた。後藤監督も気にかけてくれていて、懇々と話してくれた

 「『二刀流でやりたい』ってここに来て、昨日ああいう結果だったけど、だからピッチャーは無理、バッターでいくって逃げるのは違う。弱い部分を全部受け入れろ。俺も応援してるし、おまえには頑張ってほしい」。

 後藤監督の思いが心に沁みた。本当に嬉しかった。

 だから、完全に切り替えて試合に臨め、「それまでは打席で自分と戦っている部分もあって調子が悪かった。でも監督の話をすんなりと聞けて、打席で一喜一憂することなく試合中も切り替えることができた」と、“ホームラン”という結果も出すことができた。

 「自分にとって、今までで一番の試合かなと思う」。

 一段ステップアップできたことを実感している。

 藤村選手や山内選手からも「切り替え、すごいな」と言われた。「普段から見てくれてる人が言ってくれたんで、少しは成長できたのかな」と、ちょっぴり自信も持てた。

 そして悔しい初先発の経験も、「これから『あの試合があったから今がある』っていうくらいにしていきたい」と、プラス材料に変えていくことを誓っていた。

三塁ランナーコーチに立つ後藤光尊監督とのタッチは最高だった
三塁ランナーコーチに立つ後藤光尊監督とのタッチは最高だった

■ホームランは母の日のプレゼント

 初ホームランを打った5月8日は母の日だった。「やっぱり野球できているのも、お母さんが強い体に産んでくれたおかげなんで」と感謝している。

 「お姉ちゃんと一緒にネックレスを買って」プレゼントしたが、さらにホームランボールも「いつもお世話になってるんで、お母さんに渡そうかなと思って」と贈ることにした。

 「最高のプレゼントとは言わないですけど、多少なりは…って感じですね」。

 親元を離れて奮闘しているルーキーは、照れくさそうに笑った。

 前日の初登板を見るために大阪から駆けつけてくれた両親は、野村選手がさぞや落ち込んでいるだろうと非常に心配していたようだ。しかし次の日には初ホームランを打った。配信映像でそれを届け、安心させることができた。

 そんな親孝行な息子だが「いや、まだまだです。ただのクソガキなんで(笑)」と謙遜する。これからもっともっと喜ばせるつもりだ。

母の日には選手から女性来場者に、直筆メッセージ付きのカーネーションがプレゼントされた(撮影は筆者)
母の日には選手から女性来場者に、直筆メッセージ付きのカーネーションがプレゼントされた(撮影は筆者)

■横浜DeNAベイスターズ・ファームとの選抜試合

 今日5月11日から横浜DeNAベイスターズ・ファームとの2連戦が行われる。NOLは4球団からの選抜メンバーでチームを結成して臨む。野村選手も選ばれ参戦するが、スカウトも多く訪れるこの2試合でアピールすることは、ドラフトに向けて必須だ。

 幸いにも、直前の試合で手応えを掴むことができた。やはり“もっている”選手なのかもしれない。

 「どれだけ相手に向かっていけるかだと思う。気持ちで負けないように」。

 18歳の若武者は大舞台で、持てる力をすべて出しきる覚悟だ。

選抜試合でも打つ!!!
選抜試合でも打つ!!!

【野村和輝(のむらかずき)】

2003年6月7日生(18歳)

183cm・95kg/右・右

東大阪大柏原

大阪府大阪市/A型

最速148キロ

高校通算27本塁打

(写真提供:石川ミリオンスターズ)

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フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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