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2万円超のアフタヌーンティーが無断キャンセル&音信不通の悲劇! 他とは違うある事情とは?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

シルバーウィークの外出

2022年も残り3ヶ月余りとなりました。現在はシルバーウィークの真っ只中であり、カレンダー通りであれば9月17日から19日、23日から25日が休み。20日から22日に有給休暇を取得すれば、17日から25日の9日間が休みとなり、大型連休になります。

旅行に行く人もいれば、帰省する人もいるでしょう。まだ遠くに足を運ぶのは気が引けるという人であれば、身近なところで楽しみを探すかもしれません。以前から行きたかったレストランや気になっていたカフェに訪れたりすることも多いかと思います。

そんな時に、ある記事が気になりました。

予約制5500円アフタヌーンティーが「2組同時無断キャンセル」 パティシエ落胆「せめて連絡して」/J-CASTニュース

それは、以前から何度も取り上げている、ノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)に関する事案です。

事案の経緯

大阪府の梅田に店を構える、あるフルーツパーラー・ベーカリーでは、予約制アフタヌーンティーを行っており、非常に人気となっています。シェフパティシエが、ほぼ完成した4人分のアフタヌーンティーセットの写真と共に、2組が同時にドタキャンしたというコメントをTwitterに投稿。1人あたりの金額は5,500円(税・サ込)なので、全部で22,000円となります。ツイートを見た人からは、「ひどい」「許されない」というように、大きな反響があったということです。

シェフパティシエはJ-CASTニュースの取材に対して、次のように述べています。「2組はそれぞれ1か月ほど前に予約しており、前日に予約確認のメールを送っても反応がなく、連絡がつかない」「当日キャンセルは全額請求すると周知しているが、事前決済に対応しておらず、クレジットカード登録も行っていなかった」「会社の都合で今後も事前決済のシステムを導入できない」ということです。

ツイートにはドタキャンと記載されていましたが、予約した人はキャンセルの連絡をしていません。したがって、これはノーショーであり、より悪質です。

改めて今回の件を考えていきましょう。

ノーショーやドタキャンがいけない理由

前提として、ノーショーやドタキャンはなぜいけないのでしょうか。

ノーショー=No Showは予約したのに連絡せずに訪れないこと、ドタキャンは直前になってキャンセルすることです。席のみの予約ではなく、コースや料理と共に予約しているのであれば、飲食店は事前に料理を準備しています。したがって、ノーショーやドタキャンが起きると、準備したものが提供できなくなり、損害を被ってしまいます。もちろん食品ロスも生じてしまうことでしょう。

他の客に提供すればよいのではないかという指摘もあります。ドタキャンであれば、運よく直前に予約が入ったり、ウォークインの客が訪れたりすることもあるでしょう。しかし、同じものをオーダーしなければ、やはり用意したものが無駄となります。ノーショーの場合には客が遅刻する可能性も考慮して、15分から30分は様子をみるので、ドタキャンよりもずっと売上機会を逸する確率が高いです。したがって、どんなに最低でも一報を入れ、ノーショーではなくドタキャンにしなければなりません。

もしも他の客が訪れてリカバリーできたとしても、それはあくまでも、非常に運がよかっただけです。幸運に恵まれていただけの事象を、美談にしてさっぱり浄化したり、これでよかったと看過したりすることは、根本的な解決になっていません。

他の利用者にも迷惑

ノーショーやドタキャンは、飲食店だけではなく、他の利用者にも迷惑をかけています。なぜならば、本来であれば、予約できたはずの人が予約できなくなっているからです。

ノーショーやドタキャンが度々起きると、飲食店はノーショーやドタキャンの損失分を見越して、より高い価格に設定せざるを得ません。そうなれば困るのは、他ならぬ利用者です。つまり、ノーショーやドタキャンを行う人がいるために、他の人が損害の補填分を支払うことになります。

飲食店にとっても利用者にとっても、ノーショーやドタキャンによって嬉しいことなど何一つありません。

アフタヌーンティーの什器

ここからは、アフタヌーンティーならではの他とは違う事情を説明しましょう。

アフタヌーンティーでは、2段や3段のアフタヌーンティースタンドが提供されることが一般的。モダンなスタイルではアフタヌーンティースタンドが用いられないこともありますが、アフタヌーンティーに特化したような特別な什器で提供されることがほとんどです。場合によっては、アフタヌーンティースタンドだけではなく、お茶を飲むためのカップやソーサーも通常とは違うテーブルウェアを使用していることがあります。

そのため、什器がある数だけしか予約を受け付けられません。少なからぬ店では、数セットから10セットくらいしか用意できず、1日数組から10組(1組2人)までしか予約がとれなかったりします。よく数カ月先までアフタヌーンティーの予約が一杯になるのは、そもそも大量の席を用意できないからです。

限られた予約の中でのノーショーやドタキャンなので、より大きな損害となることは明白。数少ない席を、本当に行きたい人が予約できないのも非常に残念です。

アフタヌーンティーのアイテム

アフタヌーンティーで提供されるセイボリーやスイーツは、アフタヌーンティー用につくられていることが少なくありません。物販やアラカルトで提供されているものと同じようなものがあったとしても、アフタヌーンティー用に小さくつくられていることでしょう。したがって、アフタヌーンティーでの食品ロスを他の商品でカバーすることが難しいです。

アイテムは焼菓子が多いというイメージがあるかもしれません。しかし、最近ではフレッシュなスイーツを提供することも多くなってきました。加えて、アフタヌーンティーの人気が高まり、競争が激しくなるにつれて、訪れる時間を逆算して、焼菓子をアラミニッツ(できたて)で提供することも一般的になっています。

アフタヌーンティーのプレゼンテーション

20年前くらいであれば、アフタヌーンティーといえば、淑女が楽しむ午後のひとときといった感じでした。しかし、グルメが発展してきた日本では、アフタヌーンティーは、ホテルのラウンジに加えて、街場のカフェやカジュアルなレストランでも行われており、20代から年配の女性にまで絶大な人気を誇ります。

そういった女性たちに、アフタヌーンティースタンドが運ばれてきた瞬間から「わぁ」と驚いてもらいたいということで、プレゼンテーションにも力が入れられています。豊かな色彩や美しいフォルムなど、細部にまで凝ったこだわりの仕上げに感嘆させられることも少なくありません。

ここまで述べてきたアフタヌーンティーならではの状況も勘案すれば、件のシェフパティシエの著しい徒労感も理解できます。

事前確認を行う

ノーショーやドタキャンを少しでも回避するには、事前確認が非常に重要です。電話やメールで事前に確認をとっていれば、予約していたことを忘れていたり、日時を間違って覚えていたりした人に気付いてもらえます。事前確認の際にキャンセルポリシーやペナルティを伝えれば、ノーショーやドタキャンに対する抑止力もある程度は働くでしょう。

いくらでも予約が入る人気店であれば、空きがでればすぐに他の予約が入るので、事前に確認しておくべきです。大人数や高級価格の予約であったり、特別仕様の予約であったりする場合には、ノーショーやドタキャンの損害が大きくなるので、こちらも事前確認が必須。

今回の事案では、確認メールを送っているにもかかわらず、反応がなかったといいます。返信がなければ、キャンセル扱いするという飲食店はほとんどありません。しかし、ノーショーやドタキャンが多いようであれば、こういった対策も考えなければならないでしょう。

飲食店予約サービスを導入する

当日のキャンセルは、ペナルティとして全額を支払うというキャンセルポリシーを設けていたとしても、IT化=スマート化していなければ、実行力に乏しくなるのは明白。キャンセルポリシーもペナルティも、残念ながら絵に描いた餅になってしまいます。

飲食店予約サービスはサービスによりますが、初期費用や月額費用、さらには送客料がかかることも。もともと利益率が低い業種である飲食店は、コストが増えることに躊躇しがちです。

しかし、飲食店予約サービスに対応することによって、ノーショーやドタキャンを抑止できたり、予約を効率よく管理できたり、クレジットカード、電子マネーやQRコードなど、多くの決済手段に対応できたりします。インバウンドがだんだん復調してくることも見越せば、訪日外国人の予約をとるためにも飲食店予約サービスを導入した方がよいでしょう。

飲食業界はIT化が遅れている業種ですが、件のようなノーショーやドタキャンが現在も起きていることを鑑みれば、中長期的な視点をもって飲食店予約サービスに対応した方がよいと思います。

クレジットカードの情報

経営的にどうしても飲食店予約サービスを利用する余裕がないということもあります。その場合には最低でも、決済は現金だけではなく、クレジットカードにも対応しておきたいです。

ただ単に決済手段が増えるだけではなく、ノーショーやドタキャンにも対応できます。クレジットカードの情報を控えておけば、キャンセルポリシーに反することがあれば、端末で決済することも可能です。

予約時に名前と電話番号だけではなく、クレジットカード番号も控えられたら、ノーショーやドタキャンもしづらくなるでしょう。

ただ、クレジットカードの情報は重要な個人情報なので、飲食店が管理するにはリスクがあります。こういったことも考慮に入れると、やはり飲食店予約サービスの方が好ましいということになるでしょう。

国もノーショーやドタキャンを懸念

2018年11月1日に経済産業省から公式サイトで「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポートが発表!」というコンテンツが公開されました。

席予約の無断キャンセル(ノーショー)で5割のキャンセル料は高い? 官民一体の施策に対する5つの考察(東龍)/Yahoo!ニュース

飲食業界はノーショーやドタキャンによって年間最大2,000億円の損害を被っており、解決することによって飲食店と消費者双方の利益になると説明。

対策レポートに法的な強制力はないものの、飲食店がしっかりとキャンセルポリシーやペナルティを定めて、利用者に提示することが重要であると述べられています。

アフタヌーンティーでもノーショーやドタキャンはよくない

コロナ禍の中で、厳しい状況に置かれて倒産が相次いだ飲食店。ディナー営業やお酒が制限の対象となったので、テイクアウトに加えて、ランチやアフタヌーンティーに注力しなくてはなりませんでした。

アフタヌーンティーはコロナ禍でも安心して気軽に利用できますが、だからといって、気軽にノーショーやドタキャンをしてよいわけではありません。

これまではディナーにおけるノーショーやドタキャンがよく取り上げられていました。加えて、日中に行われるアフタヌーンティーでもノーショーやドタキャンがよくないことであると、改めて知っていただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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