久保建英視点で見る敗因と対策。なぜ止められた?なぜ絶好機を演出した?(ローマ対ソシエダ分析)
久保の奮闘も及ばず。ヨーロッパリーグのローマ戦、ソシエダは2-0で敗れた。久保のパフォーマンスから敗因と攻略法を探った。
■ローマの厳重な「対久保シフト」
ローマのシステムは[3-4-2-1]で、[4-4-2]の右FWとして先発した久保には3人のマーカーが付いていた。左CBディエゴ・ジョレンテがメインで、サイドへ流れた時には左SBシャーラウィが、下がって来た時には左MFマティッチがそれぞれ担当。このマークが剥がれて久保がフリーになることはほとんどなかった。
モウリーニョ監督は久保が攻撃の中心であることを承知していのだろう。
マークに加えて、スペースを埋めるローマの守り方も久保を“窒息”させた。
守り方の基本は「ウェイティング」。ボールを持って上がって来る選手に対してはプレスに出ない。下がって待ってスペースを埋める。
よって、3バックの構造的な弱点である左右CBの横にスペースが空かない。久保が侵入する前にシャーラウィが下がって来てスペースを埋めているからだ。
また、中央ではこんなシーンがしばしばあった。
スビメンディがボールを持って上がる。左右にはイジャラメンディとメリーノがいる。彼ら3人の前にマティッチとクリスタンテの2ボランチと、下がって来てMF化したペジェグリーニが立ちはだかる。
彼ら3人の背後には久保、シルバ、セルロートがいて、スルーパスを待っている。
“さあ、パスを通してみろ”という状況である。
パスが引っ掛かれば“待ち”は終了、一斉に前に出てカウンターを仕掛ける。
パスが通っても、例えば久保がトラップしようとする瞬間にCBが足下に激しく行く。半身の久保のトラップがぶれてボールを奪われる。久保は何度も倒されたが、笛は吹かれない。コンタクトに寛容な「欧州の笛」だから。
つまり、マークが外れない、待ちの守備でサイドのスペースも消される、ライン間にスルーが入っても一転、激しいプレスでボールを奪われる。
この3つの「対久保シフト」によって、敵陣でボールを持ち前を向かせてもらえなかったわけだ。
■それでもなぜ、久保は絶好機を演出した?
そんな厳重な守備に苦しみつつも、久保は最大の決定機を演出した。
21分、右からドリブルで侵入した久保はそのままシュートを放った。残念ながらポストに嫌われたが。
なぜこの時に限って、久保はドリブル侵入できたのか?
味方がマーカーを引き付けたからだ。
上がって来たゴロサベルがシャーラウィを引き付け、彼のパスを受けたメリーノがディエゴ・ジョレンテを引き付けたことによって、久保のマーカーはペジェグリーニになった。
久保をフリーにせず、ペジェグリーニがここまで下がってマークをしている、というのはさすがのローマの守備なのだが、久保が一発のトラップで対角線上にボールを出したことでマークから抜け出せた。
さらに27分、久保のセンタリングを相手CBがクリアミスしあわやオウンゴールというシーンもあった。久保がセンタリングを通すことができた、唯一の場面だった。
ここでも味方のサポートが決定的な意味を持っていた。ゴロサベルが攻撃参加したことで久保との2対1になって、シャーラウィの久保へのマークが甘くなったのだ。
つまり、久保単独では突破は難しいが、味方とのコンビであればローマの守備網に穴を開けられる、ということだ。
■久保のプレーから見えたローマ攻略法
久保が作った絶好機から見えてきたローマ攻略法は、こうだ。
やはり3バックの弱点はサイドである。たとえ5バックでスペースを埋めてきたとしても。
カギになるのはSBとMFが久保をサポートすること。
久保とSBとMFで、相手のCBとSBとMFとの間に3対3を作る。そうすれば、ボールを持った久保が相手の誰かと1対1で向き合う。武器のドリブルを使える状況ができるわけだ。
そのためにすべきことは、相手の5バックを押し込むこと。押し込むために、ローマの守備の基本がウェイティングであることを利用する。
さっきの“さあ、パスを通してみろ”という状況を思い出してほしい。
そこで縦パスを無理に通そうとすれば相手の思うツボ。そうではなく、辛抱強くパスを左右に振る。そのキープの間に両SBも幅を取って上がって来る。
もちろん、左右に振るだけではローマの守備は崩れないので、前後へも揺さぶりをかける。
ライン間に入っている久保、シルバ、セルロートのうち誰かが裏抜けのそぶりを見せたり、誰かがポジションを下げてボールをもらいに来たりする。
いずれの動きにもローマは必ずついて来る。自陣深くで相手をフリーにはできないから。ついて来るからこそ、ギャップが生まれる可能性がある。
同時に、時々縦パスも入れる。
といっても味方に前を向かせるための縦パスではなく、背中を向けたまま安全にリターンできるクサビである。
要は、“裏へ抜けるぞ、縦へ通すぞ”という意思表示をしておく。
■左右前後に揺さぶり最後はサイドを突く
どんな守備でもラインが下がれば下がるほど、内に絞るものだ。
シュートが怖いから絞ってコースを消さざるを得ない。“裏へ抜けるぞ、縦へ通すぞ”という脅威にさらされ続けたら、なお更である。
そして、いかに5バックであってもグラウンドの横幅一杯(ソシエダのホーム、アノエタは70メートル)はカバーし切れない。よって、サイドを犠牲にして中央の最危険ゾーンをケアせざるを得ない。
つまり、相手の待ちの姿勢を利用して押し込んでSBも上がらせる、焦らず左右へボールを動かす、裏抜けと縦パスの脅威を見せておくことで、サイドにスペースが生まれる。そのサイドをSBとMFのサポートを受けた久保がドリブルで突く――。
要は、あのシュートをポストに当てたシーンをシナリオ化して再現を狙うわけだ。
2点リードされた来週16日の第2レグでは、両サイドでの突破を狙いたい。なので、久保ともう一人ドリブラーが要る。
候補者の一番手はブライス・メンデス。彼に右サイドの突破を任せ、久保は左に回る。[4-4-2]で、前線の顔ぶれは右FWセルロート、左FW久保、トップ下シルバ。ブライスは右MFに入る。
もう一段、攻撃的に行くならやはりドリブラーのチョーを加える。この場合は[4-3-3]に変えて、左FWチョー、CFセルロート、右FW久保という前線。中盤は右MFブライス、セントラルMFはスビメンディ、左MFはシルバとなる。MFが4人から3人に減るので守備が不安というなら、ブライスに代えてメリーノを入れる手もあるかもしれない。
いずれにせよ、捨て身で攻めるしか手は残っていない。