最新理論でも正体不明の巨大天体「SAURON」を新発見
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「電波を放つ新発見の巨大天体SAURON」というテーマで動画をお送りしていきます。
●新発見の巨大天体「SAURON」
「SAURON」は、地球から現在の距離で約70億光年も彼方の超遠方の宇宙で新たに発見され、2023年1月に報告されました。
強力な電波を放つ、直径120万光年にもなる巨大な天体です。
MeerKATと呼ばれる巨大電波望遠鏡群で得られた膨大な観測データから、機械学習を用いて特異な性質を持つ天体を人間の手作業では実現できないほど高精度で分析し抽出したところ、「SAURON」が発見されました。
SAURONは「a Steep And Uneven Ring Of Non-thermalradiation」という、この天体の特徴を表した英文の頭文字をいくつか取って作られた造語です。
僕はよく知りませんが、ロード・オブ・ザ・リングに登場する「サウロン」というキャラの名前と被せているらしいです。
「a Steep And Uneven Ring Of Non-thermalradiation」の直訳は「急峻ででこぼこした非熱的放射のリング」です。
「でこぼこした」はその見た目の形状の通りですが、以下で「急峻で」と「非熱的放射」という部分について説明します。
急峻というのは、SAURONからやってくる様々な波長の電波の強度の分布を、その波長ごとに表す「スペクトル」を分析したとき、電波の波長が短くなるにつれて急激にその強度が弱まる様子が表されています。
非熱的放射とは、物体の熱運動以外が原因で起こる放射です。
SAURONは強力な電波を放っていますが、それ以外の波長の電磁波は微弱です。
このような特徴から、例えば磁場の中で電子が方向転換することで電波を放射する「シンクロトロン放射」など、非常に強力な磁場の影響で発生した非熱的放射を観測できている可能性があると考えられています。
「SAURON」は、2019年に発見され、2022年まで完全に正体が不明だった奇妙な電波天体である「ORC」と多くの類似点を持つものの、異なる点もあります。
●「ORC」はどんな天体か?
SAURONの特徴を掴む上でORCは重要な概念なので、ORCにまつわる基本的な解説をしていきたいと思います。
なお、以前ORCを解説した動画では「オーアールシー」と読んでいましたが、正しい発音は「オーク」みたいです。
2019年、西シドニー大学の研究者は、宇宙を電波によって広範囲かつ深いところまで観測できるASKAP望遠鏡が撮影したデータを見ていたところ、既存のデータに合致しない奇妙な天体が浮かんでいることに気付きました。
その後残りのデータからも、同様の奇妙な電波源をいくつか発見することができたようです。
研究者たちはこの奇妙な天体を「Odd Radio Circle(ORC、奇妙な電波サークル)」と名付けました。
ORCは発見当初、観測データのエラーによって画像に含まれたノイズであると考えられていましたが、その後別の電波望遠鏡による観測で、実在する天体であることが確認されました。
ではその正体は何なのかというと、これまでは現代の理論をもってしても全く理解されていませんでした。
そもそもこの天体との距離が理解されていませんでした。
距離というパラメータは、天文学の分野で特に確定が難しいものの一つです。そのために、この天体の実際の大きさも全くわかっていませんでした。
太陽系と同様に天の川銀河内にある、直径数光年程度の大きさの天体であっても、遥か彼方の宇宙にある、直径数百万光年規模の超巨大天体であっても、地球から見た大きさは同じであるためです。
そんなORCですが、2022年3月、正体が判明したと発表があり、大きな話題を呼びました。
南アフリカにある「MeerKAT」と呼ばれる電波望遠鏡によって得られた観測データから様々な事実が解明されました。
結論から言うと、ORCの正体は中心に映る銀河が放出した、超巨大なガス雲である可能性が非常に高いということです。
画像に表示されているORCの場合、中心の銀河までの距離は約10億光年、ORCの直径は約100万光年とのことです。
ここまで巨大な構造にまで広がるには実に10億年もの年月が必要とのことで、その過程で周囲にある銀河すらもこの構造の内部に飲み込んでしまっていると考えられています。
ORCは中心の銀河を包み込む球状の構造です。端の方が強い電波を放っているように見えますが、これは奥行きを含めた場合、地球から見ると銀河があるORC中心部領域より、端の部分の方向の方が多くのガスが存在するためです。
このようにORCは地球からどれくらい遠くにあるのか、どれくらい巨大な構造なのかが判明したものの、その形成メカニズムなど、多くの点について様々な謎が残されています。
●「ORC」と「SAURON」
「ORC」と「SAURON」には、いくつかの共通点があります。
まず強力な電波を放っていること、そしてその中心に電波を放つ遠方の銀河がある点が挙げられます。
つまり天体の大きさや、全体として強力な磁場が存在する点などが、類似点として挙げられています。
ですがSAURONを単純にORCの一つであると分類できない、いくつかの相違点も判明しています。
まず形状が明確に異なります。ORCが比較的綺麗な球形であるのに対し、SAURONはかなりいびつな形です。
さらに中心部にある銀河が放つ電波の波長が、SAURONと他のORCとでは異なっているというのも不可解な点の一つです。
SAURONは、2つの超巨大ブラックホールの爆発的な合体の名残という可能性も指摘されているものの、その詳細な形成メカニズムについては不明です。
ORCもSAURONも、現時点ではわからないことだらけで、それ故にこれらの関係性についても不明な点が多いです。
今後これらの天体の詳細な観測が進めば、その正体や分類についても整理されていくことでしょう。