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楽天はポイントを配りすぎていた? SPU見直しで業績に変化

山口健太ITジャーナリスト
決算説明会に登壇した三木谷社長(楽天グループの説明会動画より、筆者作成)

楽天市場で人気のポイントプログラム「SPU」は、昨年12月にモバイル利用者を重視する方向に改定したことで賛否両論を巻き起こしました。

このSPU改定は楽天の業績にどのような影響を与えたのか、2024年1-3月期の決算説明会で語られた内容を分析します。

「利益貢献ユーザー」へのポイント付与が増加

昨年12月のSPU改定では、複数のサービスでポイント還元額の上限が引き下げられる一方、楽天モバイルの利用者はポイント倍率が上がり、ポイントを獲得しやすくなりました。

この影響として、高額の買い物で大量のポイントを獲得することはできなくなる一方、8割以上の人が獲得できるポイントが増えるなど、広く薄く還元するものになると予想されていました。

その結果、楽天グループの2024年1-3月期の業績では、国内EC売上高の伸び率が2%増にとどまり、国内EC流通総額は4.7%減と、昨年同期比で減少する結果になりました。

国内EC流通総額は前年同期比でマイナスに(楽天グループ提供資料より、筆者作成)
国内EC流通総額は前年同期比でマイナスに(楽天グループ提供資料より、筆者作成)

具体的な要因として、SPUや「5と0のつく日」の特典改定に加え、楽天トラベルに追い風となった「全国旅行支援」が終了したことを楽天側は挙げています。

一方、SPU改定にはポジティブな影響もあったようです。決算説明会の中で、三木谷社長は「利益貢献ユーザーへのポイント付与割合が増えている」と強調しました。

利益貢献ユーザーへのポイント付与割合が増加したという(楽天グループ提供資料より)
利益貢献ユーザーへのポイント付与割合が増加したという(楽天グループ提供資料より)

利益貢献ユーザーの定義は、「楽天グループの主要24サービスにおいて各月の実績で、売上総利益 - 変動費 > 0 のユーザー」と示されています。

これが意味するところを楽天側に聞いてみたところ、これがマイナスになる場合というのは、売上から原価を引いた「売上総利益」を上回る量のポイントを付与している状態とのことでした。

楽天市場におけるポイントは2種類あり、通常のポイントは出店店舗が負担しています。しかしSPUのポイントについては、楽天の各事業やグループ会社が負担する仕組みとなっています。

これを踏まえてグラフを見てみると、SPU改定前の2023年11月は、利益貢献ユーザーへの付与割合が約72%となっていました。つまり残りの約28%のポイントは、利益貢献しないユーザーに付与されていたことになります。

これに対して、SPUが改定された2023年12月以降は、利益貢献ユーザーへの付与割合が90%前後に高まっています。ポイント付与を考慮しても、楽天が利益をしっかり確保できる状態になったといえそうです。

また、楽天市場への客足が減ったということもなさそうです。ユニーク訪問者数は12月以降も伸び続けているとのことから、より多くの顧客を呼び込むことに成功していることが分かります。

ユニーク訪問者数は増加しているという(楽天グループ提供資料より)
ユニーク訪問者数は増加しているという(楽天グループ提供資料より)

ポイ活の盛り上がりを背景に、ポイントプログラムが「攻略」され、一部の人が大量のポイントを獲得することに各社は警戒を強めているようです。ただ、対策を加えると「改悪」と批判され、イメージダウンにつながることがあります。

新しいSPUの仕組みが正しく機能しているかどうかを確認するには、引き続き数字を注視していく必要がありそうです。楽天は2024年の売上について、前年比で厳しい見通しを示しています。

SPU改定前は、5万円のギフトカード購入で1万ポイントがもらえることもあった(楽天市場のWebサイトより、筆者作成)
SPU改定前は、5万円のギフトカード購入で1万ポイントがもらえることもあった(楽天市場のWebサイトより、筆者作成)

ポイントを効果的に付与する競争に

ポイント経済圏の比較では、還元率や還元上限の数字ばかりが注目されがちですが、事業者にとってはいかにして効果的にポイントを配るかの競争になっている印象です。

SPU改定の影響を受けた「楽天プレミアムカード」や「5と0のつく日」は、これまで楽天経済圏の成長を牽引してきた要素でもあることから、本当に変えてしまって大丈夫なのか筆者も半信半疑なところはありました。

一方で、楽天がこうした大胆な変更に踏み切れる背景として、データ分析によって自社の経済圏を十分に把握できているから、という見方もできそうです。

「改悪」として話題になることを恐れず、市場の変化にあわせてポイント制度を大胆に変えてくる強さは、ライバルにとってむしろプレッシャーになるかもしれません。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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