見つけた! 潜水艦「アルバコア」米海軍が確認
第二次世界大戦中、北海道沖で触雷して沈没した米海軍の潜水艦「アルバコア(SS-218、Albacore、ビンナガマグロ)」が、米海軍によって確認された。旧日本海軍を題材にしたブラウザゲーム愛好者の間で周知のアルバコアの発見は、日本の研究者らによる調査探査によるものだった。
殊勲艦アルバコアとは
1942年2月に進水したガトー級潜水艦2番艦のアルバコアは、浮上時1525トン、潜水時2424トン、全長96.3mの潜水艦だ。最高航続距離は2万kmの長距離戦闘哨戒が可能で、旧日本海軍の軽巡「天龍」、巨大空母「大鳳」、駆逐艦「漣」や「大潮」などを沈めた殊勲艦だった。
旧日本海軍の記録によれば、1944年11月7日、北海道の渡島(おしま)半島沖で敷設されていた係留機雷に触れて沈没した艦艇があったという。哨戒中の大湊警備府の特設掃海艇が、浮上してきた重油や甲板のコルク材、食料品などの遺物を確認し、米海軍の潜水艦が沈没したと推定された。
アルバコアは1944年10月28日にミッドウェーで補給後、消息を絶ち、米海軍は1944年12月21日に同艦が沈没したとし、1945年3月30日に海軍船舶名簿から登録を抹消した。そして、沈没確認時に北海道の渡島半島沖を哨戒していた潜水艦はほかにいなかったため、米海軍は戦後、旧日本海軍の記録と照合し、係留機雷に触れて沈没した艦艇をアルバコアとした。
こうして戦時中に沈没した艦艇の識別探査や確認、戦没者の保護と沈没船の保全などが世界各地で進められている。
有名なのは、マイクロソフト社の共同創業者ポール・アレン氏の探索だろう。アレン氏は、グアム島からレイテ島へ向かう途中、旧日本海軍の潜水艦「伊58」に沈められた米海軍の重巡「インディアナポリス」、珊瑚海開戦でオーストラリア東岸沖に沈められた米空母「レキシントン」、フィリピンのシブヤン海で沈められた旧日本海軍の戦艦「武蔵」などを探索、発見している。
米海軍には歴史遺産司令部(Naval History and Heritage Command、NHHC)などがあり、これまで2019年に沖縄の久米島の南方でタンバー級潜水艦グレイバック(SS-208)を確認した。また、2021年3月には元米海軍将校の個人資金を得たプライベート調査チームが、ソロモン諸島の水深6456mでフレッチャー級駆逐艦ジョンストン(DD-557)などを確認している。
日本のプロジェクトチームが発見
今回の潜水艦アルバコアの発見は、東京大学生産技術研究所教授や同大海洋アライアンス機構長、九州工業大学の社会ロボット具現化センター長(特別教授)などを歴任した浦環(うら・たまき)氏らが主導するプロジェクトチームによるものだ。同氏らはこれまで遠隔操作型無人潜水機(Remotely Operated Vehicle、ROV)を使い、戦後、五島列島沖に沈められた旧日本海軍の「伊58」や「呂50」などの潜水艦群、若狭湾に沈められた潜水艦「呂500(U511)」などを探査、確認してきた。
同チームは、日本の国立公文書館アジア歴史資料センターのデータベースにより探査を開始し、すでに渡島半島沖、約7km、水深237mの海底に小型ROVで潜水艦アルバコアとおぼしき沈没船があることを確認していた。そして、さらに十分な映像やソナーデータを得るため、クラウドファンディングで資金を調達するなどし、スウェーデンのサーブ社製の中型ROVで再挑戦したという。
米海軍歴史遺産司令部の水中考古学部(Underwater Archaeology Branch、UAB)が、同チームが得ていた映像やデータを分析したところ、潜水艦アルバコアに特徴的な水上見張り用の波長9cm(S-band)のSJレーダーアンテナとマスト、甲板の上部に沿った通気口の列、艦橋の上端に沿って鋼板がないことなどから、同部はこの沈没船を潜水艦アルバコアと確認し、お墨付きを与えた。
これについて同司令部の長官は、沈没した地点と同艦の特定につながるデータを提供した浦氏らに感謝する声明を発表し、潜水艦アルバコアは戦争で犠牲になった兵士たちの休息の場であり墓標として尊重されるべき、と述べている。