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トランプは自滅寸前!早くも終わった米大統領選挙

山田順作家、ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■セントルイスでしくじったら終わり

トランプはやはりトランプだった。ほかの何者でもない。1回目のテレビ討論会を終えて、そう確信した。テレビ討論会は、まだあと2回ある。しかし、挽回は不可能だろう。トランプはトランプ以外を演じられないからだ。

2回目のテレビ討論会は、今週の日曜日、10月9日に行われる。場所は、ミズーリ州セントルイスのワシントン大学。中部のトップクラスの大学で、トランプの“知性”が試される。

今回は1対1の対決以外に、参加した市民からの質問を直接受ける対話方式も取り入れられるという。また、ソーシャルメディアからの質問も受け付け、それに対して2人が回答するとも言われている。

となると、ここでしくじったら、もうトランプは完全に終わるだろう。

■討論になっていなかったテレビ討論会

じつは今回の大統領選では、私はトランプを心情的に応援してきた。彼が大統領になったら面白い、アメリカは劇的に変わるかもしれないと、怖いもの見たさでずっと注目してきた。だから、暴言を吐くたびに人気を得て、共和党の指名を獲得したときには「ひょっとしたら」と思うようになった。

しかし、第1回のテレビ討論を見た後は完全に気持ちがなえてしまった。人の話を聞かず、同じことばかり言っているトランプは、まったく魅力がなかった。

だいたい、討論会になっていなかった。トランプはほとんどの質問に直接答えなかった。連邦税を公表しないことを指摘されると、ヒラリーが公務で使った私用メールをすべて公表したら「私も公表する」と、問題をすり替えてしまった。その後、「NYタイムズ」紙に「18年間税逃れ」を暴露されたのだから、こんな答え方をするべきではなかった。

■ただの「エンタメおやじ」なのか?

要するに、トランプが誠実でない面ばかりが目についた。 

トランプは、ヒラリーが話しているときに、何度もチャチャを入れた。相手が話しているのだから、黙って聞いていればいいのに、なんか言いたくてたまらないらしい。

その態度は落ち着きがなく、余裕がなかった。これでは、大統領にふさわしいとは誰も思わないだろう。司会者の「NBC」のレスター・ホルトもあきれて、「質問に答えていないので再度聞きますが----」なんて言い出す始末だ。

さらに、政策的なことはこれまでと代わり映えなかった。これまで言ってきたことを繰り返すだけだった。NAFTAもTPPも反対の「保護主義オヤジ」丸出しで、相変わらず、日本、サウジなどの同盟国は、オレたちが守ってやっているのに「払うべき対価を払っていない」と言う始末だ。

ミスユニバースのマリシア・マチャドを「ミス子豚」呼ばわりしたのも、情けなかった。しかも、根拠もないのにセックスビデオに出演していると午前3時にツイッターするにいたっては、あきれるしかない。テレビ討論会後に、そんなことを言っている場合か。

大統領選は終盤に入った。いくらなんでも政治・経済の話を真面目にやれ!と言いたくなった。

結局、トランプはただの「エンタメおやじ」でしかないのか?

■支持者は残念な「落ちこぼれ」ばかり

ヒラリーは、9月9日にNYで開かれた集会で、「トランプ氏の支持者の半数は「嘆かわしい人」(deplorables)」と発言し、さらにこう言った。「人種差別主義者(racist)、性差別主義者(sexist)、同性愛嫌悪者(homophobic)、外国人嫌悪者(xenophobic)、イスラム嫌悪者などが挙げられる。残念ながらそのような人々は存在する。彼はこうした層の支持を集めている」

この発言は、当然だが大きな物議をかもした。そのため、ヒラリーは「私は発言したことを後悔している」と言わざるをえなくなった。

しかし、トランプ支持者に「嘆かわしい人」が多いのは事実だ。「deplorables」は、「嘆かわしい人」と訳すより、「ろくでなし」「おちこぼれ」「足りない人間」と言ったほうがピンと来る。

トランプ支持者は、新聞などほとんどを読まないプアホワイト層、新移民の貧困層が中心だ。

■世論調査の不可思議とトランプ叩き

第1回のテレビ討論会直後、「CNN」が発表した世論調査の結果は、ヒラリー優位が62%、トランプ優位が27%だった。当然の結果と思ったが、トランプ優位が3割近くあったのには驚いた。しかも、その後の「TIME」「CBS New York」「FOX」「FORTUNE」などの調査では、トランプが優勢と出たので本当に驚いた。

トランプ支持者は、テレビを見ていないのか? あるいは、単にスイッチを入れているだけなのか?

10月2日、「ABC」テレビは「ワシントン・ポスト」紙と共同で630人を対象に電話で行った世論調査の結果を発表した。これによると、ヒラリーが勝者と答えた人が53%だったのに対して、トランプが勝者と答えた人は18%で、ヒラリーの圧勝だった。ただ、調査対象が630人と少ないのでなんとも言いようがないが、トランプが大きく支持を失い始めたことは間違いないだろう。

しかも、ここにきて、トランプ叩きが激しくなった。先の「NYタイムズ」紙の税逃れ報道に続き、「ワシントン・ポスト」紙は、慈善団体「トランプ財団」が本拠を置くニューヨーク州から必要な認可を得ていなかったと報じた。また、人気DJのハワード・スターンは、トランプが2002年にラジオ番組に出演した際、イラク戦争に賛成と言い、いまの主張とは食い違うと証言した。

■共和党の支持が得られない「独立候補」

ところで、今回の大統領選挙は、いくらトランプが一般の支持率で健闘しようと、それだけでは選挙に勝てない事情がある。というのは、ヒラリーは民主党の候補だが、トランプは指名を得たものの共和党の候補とは言い難いからだ。つまり、よく言われる「2大政党の争い」にはなっていない。

いまだに、共和党の主流派はトランプを支持していない。予備選でライバルだったテッド・クルーズ上院議員は支持を表明したが、その理由は「ヒラリーが大統領に就任するのを見たくなければ」だった。ティーパーティの主要団体「ティーパーティー・パトリオッツ」も、相手がヒラリーである以上トランプを選ぶしかないと、渋々と支持を表明したにすぎない。

共和党と言えば、ティーパーティのバックにいるリバタリアン組織が重要となるが、パトロンとされる「コーク兄弟」の兄のチャールズ・コーク氏は「FORTUNE」誌のインタビューで、トランプとヒラリーのどちらに投票するかと聞かれて、「癌か心臓発作を選べと言われても無理」とコメントしている。

このように共和党の組織的な支持を得ていないトランプは、共和党候補というより“独立候補”と言ったほうがいい。つまり、今回の大統領選は、「民主党vs独立候補」の争いだ。共和党の全面支持がないため、トランプにはカネ(選挙資金)が集まらない。この点で、ヒラリーに圧倒的な差をつけられている。したがって、今後テレビCMを集中的に流せない。

■「支持率より不支持率で決まる」

トランプが自滅したからといって、ヒラリーでいいのか?という見方もある。

ヒラリーも「嘘つき」で「高慢」であるとして、結構、嫌われてきた。つまり、2人ともアメリカの良心的な中間層の人々からは敬遠されており、今回の大統領選挙は、どちらがどれだけ嫌われているかの争いで、「支持率より不支持率で決まる」などと言われてきた。

とくに、トランプの政策など、ほとんど実現するわけがないから、まともな中間層は聞き流してきた。

「中国からの輸入品に45%、メキシコからの輸入品に35%の関税をかける」「NAFTAをやめる」「WTOから脱退する」「法人税を15%にする」「イエレンをクビにして、新しいFRB議長を指名する」など、できるわけがない。

また、このような保護主義政策は、共和党の政策と正反対だから、共和党の主流派は毛嫌いしている。

■じつは大変なヒラリーの病気:脳がやられている!?

ただし、ヒラリーには健康問題がある。先日倒れそうになって車に運び込まれたときは、主治医は「pneumonia」(肺炎)と発表したが、本当かどうかは疑わしい。ヒラリーは、2012年に脳振盪を起こしている。だから、血栓による「脳の後遺症」、あるいは「パーキンソン病」「メニエール病」などではという臆測が飛びかっている。

とはいえ、彼女が本選前に倒れたとしても、民主党はヒラリーのランニングメイトのティム・ケーン上院議員を出せばいい。あるいは、バーニー・サンダース上院議員やジョー・バイデン副大統領も候補に選べる。リベラル派の重鎮で女性議員のエリザベス・ウォーレン氏という奥の手もあるので、トランプが勝つ見込みは薄い。

「NYタイムズ」紙をはじめ有力紙は「反トランプ」を呼びかけている。そこに、これまで1度も態度を示したことがない「USAトゥデイ」紙が加わり、「トランプに投票するな」と呼びかけたのだから、もう勝負はあったかもしれない。

■アメリカ大統領に求められるものは?

最後に、私たち日本人にとって、どんなアメリカ大統領が望ましいかということを書き留めておきたい。

アメリカは世界覇権国である。つまり、世界を繁栄させることもできるし、破滅させることもできる。そのため、責任を持ってルールをつくり、世界をリードしていける大統領が必要だ。

オバマ大統領のように「もはやアメリカは世界の警察官でない」などと平気で言える大統領が選出されると、日本は本当に困る。なぜなら、日本の安全保障はアメリカ次第だからだ。アメリカの「核の傘」があって、日本の平和と安全は保たれている。

とすれば、なにをやるかわからないトランプのような大統領でも困る。これまでのトランプを見ていると、「無知であることが素晴らしい」と思っているようなので、危なすぎる。トランプは陰謀論も信じている節があり、自分を“無知な大衆”と同じレベルにすることで、本当に無知になってしまったようだ。

■「核のボタン」をどちらに与えるべきか?

というわけで、世界の生死を握る「核のボタン」を、トランプかヒラリーのどちらに与えるべきか? という究極の選択になる。

この点では、オバマ大統領は自分のことを棚に上げて、「トランプ氏はふさわしくない」と言った。また、バイデン副大統領も「狂人トランプに核弾頭ミサイルの発射ボタンの暗号コードを教えたら、いったい世界はどうなるか?」と、猛反対した。

とはいえ、ではヒラリーでいいのか?

もちろん、トランプよりはましだろう。彼女のほうが、これまでアメリカが培ってきた価値観と、世界覇権国としての役割を理解している。したがって、国際関係のなかでのアメリカの役割は変化しないだろう。

ただし、彼女の持病がもし心臓としたら、いつ発作が起こるかわからない。発作によって核のボタンを押す。そんなことはありえないと思うが、それだけが、今回の大統領選の最後の懸念だ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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