「加熱式タバコ」って、紙巻きタバコに比べてどれくらい「害」がないの? 内科医に聴く「本当」のところ
加熱式タバコの喫煙者が、特に若い年齢層で増えているようだ。「加熱式タバコには害がない」などという間違った知識で吸い始める人も少なくない。タバコ問題に長く取り組んできた内科医に、加熱式タバコの害の本当のところを聴いた。
有害性が低いのは本当か
喫煙率は下がってきたが、ここ数年は下げ止まっている。特に女性の喫煙率は大きく下がっていない。その理由には、ひどいニコチン依存症にかかっている喫煙者がなかなかタバコをやめられないこと、そして特に若い世代を中心にして加熱式タバコの喫煙者が増えていることなどがある。
加熱式タバコについては、タバコ会社のイメージ広告などで「従来の紙巻きタバコより有害性が90%低い」などという文言を耳にし、タバコをやめられないなら加熱式タバコに切り換えればいいと考え、タバコをやめる代わりに加熱式タバコを吸い続けるケースがある。
では、加熱式タバコは本当に害が少ないのだろうか。吸っても大丈夫なのだろうか。この疑問について、長くタバコ問題に取り組んでいる内科医の加藤一晴氏に話をうかがった。
──加熱式タバコというのはどういう仕組みになっているのでしょうか。
加藤「加熱式タバコは、紙巻きタバコのようにタバコ葉に直接、火をつけるのではなく、タバコ葉に熱を加えてニコチンなどを発生させる喫煙具のことです。煙はほとんど出ませんが、タバコ葉に含ませたグリセリン類によって蒸気を発生させます。喫煙者はそれを吸っているわけです」
──加熱式タバコの有害成分が、紙巻きタバコより90%も低いというのは本当ですか。
加藤「確かに加熱式タバコの有害成分は少なくなっているようです。例えば、モノを燃やす際に発生するタールの量が9割以上減少し、人体への悪影響が紙巻きタバコよりも減るとタバコ会社は言っています。ただ、加熱式タバコは発売され始めてから10年も経っていないので、長期間の健康への悪影響はまだあまりわかっていません」
──では、加熱式タバコで有害成分が減っているのは本当なのですね。
加藤「いえ、加熱式タバコのパッケージをよく読むと『加熱式タバコの煙(蒸気)は、発がん性物質や依存性のあるニコチンが含まれるなど、あなたの健康への悪影響が否定できません』とか『加熱式タバコの煙(蒸気)は、周りの人への健康への悪影響が否定できません。健康増進法で禁じられている場所では喫煙できません』などと書かれています」
加熱式タバコに含まれる有害物質とは
──健康へ悪影響をおよぼす有害物質は、加熱式タバコにも含まれているというわけですか。
加藤「そうです。喫煙者がタバコ製品から吸い込む煙を主流煙、吐き出す煙を呼出煙といいます。これまでの研究から、加熱式タバコの主流煙には、依存性物質であるニコチン、毒劇物であるアクロレイン、発がん性物質のホルムアルデヒド、放射性物質で内部被ばくの危険性があるポロニウムなどが含まれ、これらは従来の紙巻きタバコとほぼ同じ量です。また、強い毒性を持つアセナフテンの量は加熱式タバコで紙巻きタバコの3倍との報告もあります」
──受動喫煙の害にもなる呼出煙は、加熱式タバコではどうなのでしょうか。
加藤「加熱式タバコの呼出煙に含まれる有害物質は、ニコチン、ニッケルやクロムなどの重金属、大気汚染でも問題になるPM2.5、発がん性物質であるアセトアルデヒド、ホルムアルデヒドなどがあることがわかっています。これらの有害物質は、紙巻きタバコの喫煙者の呼出煙ほどではありませんが、いずれも大気汚染の規制基準を大きく上回っています。これらの情報をタバコ会社は出していませんし、成分表も加熱式タバコのパッケージには表示されていないんです」
──実際に加熱式タバコによる受動喫煙の健康被害はあるのですか。
加藤「加熱式タバコの煙や喫煙者の呼出煙を嗅いだことのある人ならわかると思いますが、焼き芋を焼いたような焦げたような臭いがします。タバコ葉を加熱して焦がしているためです。私を含め、これを嫌な臭いと感じる人も多いと思いますが、臭いがあるなら有害成分も含まれていると考えるのが自然でしょう。加熱式タバコによる受動喫煙の健康被害として、これまでの研究から、喘息のような症状、めまい、倦怠感、喉の痛み、頭痛などをうったえる人がいることがわかっています」
──加熱式タバコは喫煙者や受動喫煙のほかにも危険性があるでしょうか。
加藤「加熱式タバコのタバコスティックは、紙巻きタバコよりも小さく細いので、小さいお子さんが誤飲する事故が増えています。最近の加熱式タバコのタバコスティックには、加熱効果を高めるための金属片が入っています。こうした金属片を誤飲すると、消化器官に重大な障害を引き起こす危険性があります。また、タバコの害について知識が少ない若い世代が加熱式タバコに気軽に手を出し、ニコチン依存症になってしまうという問題もあるでしょうね。ニコチン依存症は、国際疾病分類第10版(ICD-10)では、タバコ使用による精神および行動の障害、依存症候群とされ、何らかの治療介入が必要な病気なのです」
1/10の有害性の低減でもリスクが
──なぜ若い世代で加熱式タバコの喫煙者が増えているのでしょうか。
加藤「中高年の喫煙者は紙巻きタバコに慣れてしまっているので、加熱式タバコでは満足できず、なかなか切り換えられないということもありますが、若い世代はこうした電子式のガジェットが好きなのかもしれません。加熱式タバコのタバコスティックは、ほとんどが甘いフレーバーや清涼感のあるメントールで味付けされ、若い世代が吸い始めやすいということもあるでしょう。ただ、一度、ニコチン依存症になると、なかなかタバコをやめられず、長く苦しむことになります。友人などから勧められても、最初に吸わない、手を出さないということが大事だと思います」
──日本は加熱式タバコが世界で最初に発売された国ということですが、他国では加熱式タバコをどう扱っているのですか。
加藤「加熱式タバコを禁止している国も多くあります。例えば、台湾、シンガポール、タイなどです。加熱式タバコを国内へ持ち込むと、身柄を拘束されたり罰金刑に処せられるパラオやブラジルといった国もあります」
──ただ、有害性のある物質が、加熱式タバコで紙巻きタバコより少なくなっているのは事実なのですよね。
加藤「タバコ会社は、有害性のある物質が1/10になっていることで、健康への悪影響も1/10になっているような印象操作をしていますが、逆に言えばこれまで紙巻きタバコの90%の悪影響を明らかにしてこなかったということになります。つまり、紙巻きタバコの健康への悪影響は私たちが考えるよりもずっと大きく、もし仮にそれが1/10になったとしてもまだまだ健康リスクは驚くほど大きいということです」
──では、加熱式タバコで有害性のある物質が少なくなっていてもリスクはあるということですか。
加藤「例えば、紙巻きタバコが100階建てのビルの屋上から誤って転落することだとすれば、加熱式タバコはその1/10の10階建てのビルの屋上から落ちるのと同じです。紙巻きタバコがあるエリアに地雷が100個、埋められているとすれば、加熱式タバコはその1/10の10個の地雷が埋められていることになります。10階建てのビルの屋上から転落するとどうなるでしょう。たとえ10個とはいえ、地雷が埋まっている場所を歩けばどうなるでしょう。加熱式タバコというのはそういうタバコ製品です。最も安全なのは、地上にいることですし、地雷が全くない環境が、将来にわたって健康な人生を歩むということなのです」
──紙巻きタバコも加熱式タバコも、どちらもやめることが健康のためには最もいいということですね。
加藤「日本ではタバコによる健康被害で毎年13万人以上が死んでいます。1日では数百人が死んでいることになる。タバコ製品という発がん性物質を、コンビニエンスストアで堂々と売っているのは先進国では日本くらいです。このような環境で、特に若い人はニコチン依存症の怖さをよく知り、タバコ製品に手を出さないことが重要だと考えています。喫煙者は、いつかは禁煙したいと願っているがタバコをなかなかやめられず、苦しんでいる。いずれやめなければいけないなら、最初から始めるべきではありません。また、喫煙所は、タバコをやめたい喫煙者にとって悪魔の誘惑に等しい。タバコを吸える場所は、なるべく遠ざけ、なくすのがタバコ問題を解決する最善の方法です」
喫煙は20歳以上に認められているが、別にタバコを吸わなくても大人にはなれます、そう加藤氏はいう。自分の子どもが成人になってから喫煙者になることを願う親はいないし、自ら進んで依存症の道を歩く必要もない。自分の子どもに勧められないようなもの、それがタバコなのだ。