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北海道の鉄道はどうなる? 道知事選に与党推す鈴木直道・前夕張市長当選で

小林拓矢フリーライター
はたして北海道の鉄道は、どこまで残るのか(ペイレスイメージズ/アフロ)

 きのうの北海道知事選では与党の推す鈴木直道氏が当選し、野党の推す石川知裕氏が落選した。今回の北海道知事選では、鈴木氏が公共交通の再編を公約に掲げ、石川氏が鉄路の存続を公約としていた。

 高橋はるみ北海道知事はJR北海道の路線網をどうするかに対して積極的な姿勢を示せず、後手の対応に回り、抜本的な対応策をとることができないまま道知事の座を去り、参院選の候補となることになった。

 どちらの候補が当選するにしても、JR北海道の路線網維持、北海道の公共交通をどうするかについては差し迫った課題であり、新しい知事はさっそく直面せざるをえない状況になっていた。

鈴木直道氏は北海道の鉄道をどうするのか

「あらゆるピンチをチャンスに!」と表紙に記された鈴木氏の公約集には、「人流・物流を支える交通の確保」として、次のように書かれている。

 本道の経済や地域生活を支える鉄道やバス、タクシーといった地域の公共交通については、道民の“足”をいかに守るかを第一に考え、利便性の向上や利用促進など地域交通の確保に向けた取り組みを進めます。特に、厳しい経営状況にあるJR北海道の路線見直し問題については、地域の実情や市町村の意見などを踏まえ、関係機関による検討・協議を早急に進めます。

出典:あらゆるピンチをチャンスに!

 つまり、路線の見直しと、公共交通全体のありかたも含めて、検討するという姿勢を示している。道民の「足」を確保することが第一であり、鉄道網の維持はその範囲内で検討するという姿勢を見せている。

 JR北海道を、鉄道をどうするのかではなく、交通網をどうするかであり、その場合には路線の廃止という可能性も積極的に取っていくという姿勢が読み取れる。

 JR北海道の危機という「ピンチ」を、北海道の交通ネットワーク充実という「チャンス」にする、という見方もできるのだ。

 また鈴木氏は、「高速交通ネットワークの整備促進」として、次のことも記している。

 地域間交流や物流の効率化、救急搬送時間の短縮、大規模災害時における代替性の確保など、本道の経済活動と道民の暮らしを支える高速交通ネットワークの整備促進を図ります。

出典:あらゆるピンチをチャンスに!

 現在北海道では、高規格道路の整備がさかんに行われており、しかも過疎地だと無料で走れるようになっている。その上、高速バスネットワークが充実するようになっており、すでに鉄道がなくなってしまったようなエリアからも、高速バスで札幌と直結するようになっている。

 鈴木氏は夕張市長として、「攻めの廃線」と銘打って、石勝線の新夕張~夕張間を廃止して、そのかわりにバス路線を充実させるということを政策として行った。その結果がこの春の同区間の廃線であった。多くの人から惜しまれながらの廃線であったものの、鉄路を維持するというのはJR北海道だけでは困難であり、地元の支援も必要とする。鉄道への支援を行うのなら、バスでやったほうが効率的だ、というのが鈴木氏の考え方である。

鈴木氏当選が示唆するJR北海道の未来

 JR北海道は、「持続可能な交通体系のあり方」というのを模索し、さまざまな施策を行っている。同社は「当社単独では維持することが困難な線区」を発表し、輸送人員の少ない路線などをリストアップしている。

 また、災害などで鉄道運行ができなくなった路線をどうするのかという議論も、必要である。

 鈴木氏の考え方に沿うと、かなりの廃線・バス転換はやむを得ないということになり、その代替として高規格道路の整備を行い、ローカル輸送はバスで、ということになる。

 JR北海道が発表した線区の中ではすでに札沼線の北海道医療大学~新十津川間は廃線が決まっている。また、災害からの復旧が課題となっている根室本線の東鹿越~新得間、日高本線の鵡川~様似間が廃止となることも想定できる。

 このあたりをどうまとめるのかは、鈴木氏の直面した課題であると言える。

 また輸送密度が200人未満と少ない留萌本線の深川~留萌間、被災線区とはかぶっているもののこちらも輸送密度が少ない根室本線の富良野~新得間は、厳しい決断が下されるだろう。とくに留萌本線は、沿線に高規格の道路「深川留萌自動車道」があり、そちらを都市部との直結に、路線バスを地域の交通にという考えとなってもおかしくはない。日高本線エリアも、高規格の道路「日高自動車道」の建設が進んでいる。

 菅義偉官房長官との関係が深いと言われる鈴木氏は、安倍政権へのパイプを生かして、これらの道路網の充実に力を入れるという判断をしてもおかしくはない。

 輸送密度2000人未満の路線も、抜本的な改革が迫られる。観光列車の運行など、魅力をつくりだしていかない限り、ただ残すだけという選択肢はなくなってしまう。このあたりの輸送密度では、国鉄末期ならば廃線にするという判断が下される。たとえば、宗谷本線の名寄以北、石北本線全線、釧網本線全線、根室本線の釧路以東など、すでにその条件に当てはまっている。

 ただし、JR北海道は「当社単独では維持することが困難な線区」の文書の中で維持する仕組みを検討するとしている。

 このあたりを廃止にすると、それぞれのエリアの中心となる都市を結ぶ路線が廃止になるだけでなく、根室本線の釧路以東のようにその先に北方領土問題を抱えているようなエリアでは、対ロシアの関係にも影響してくる。安倍政権は、自らはロシアのプーチン大統領と親しいという感じを演出しているが、このあたりの状況がロシアにも伝わっているのか、北方領土が返ってくる気配は見られない。その中で根室本線の釧路以東を廃止するということは、外交的な判断までも必要になってくる。

 鈴木直道氏の当選により、「JR北海道をどうするのか」の議論は先に進む。しかし、荒療治といっていい状況となるのは確かだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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