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Suica首都圏エリアが長野駅まで拡大 エリア広大に、クラウド化でJR東日本は「野望」を果たせるか?

小林拓矢フリーライター
Suica首都圏エリアは長野駅にまで到達する(写真:イメージマート)

 先日、長野県でのSuicaエリアが拡大されることが発表された。2025年春以降に、篠ノ井線・信越本線の松本~長野間、大糸線の松本~穂高間の各駅でSuicaが使用できるようになる。

 新しく追加される23駅は、首都圏エリアの駅となる。

 長野駅にSuicaが導入されれば、JR東日本の全県庁所在地駅で交通系ICカードが使用できる。なお青森・盛岡・秋田エリアでは、ことし5月27日にSuicaが利用されるようになった。

 まず、長野エリアでのSuicaエリア拡大の意義とは何なのか?

JR東日本の野望「全駅でSuica」の実現に一歩近づく

 JR東日本は、長期的戦略として、全線全駅でSuicaが使えるようにするということを考えている。一枚のSuicaを利用者が持つことで、JR東日本が提供するさまざまなサービスを使用できるようにする、というのがJR東日本の方針だ。

 長野県では従来、新宿・甲府方面からSuicaエリアが広がってくるのにつれて諏訪・松本エリアでも使用できるようになった。それにより、乗車券はSuicaで、特急券のみ購入ということも可能になった。その上、特急券はチケットレスにも対応した。

 JR東日本では、首都圏でのSuicaの利用できるエリアを徐々に広げていった。常磐線の浪江駅、上越線の水上駅、房総半島の久留里線以外、伊東線の伊東から伊豆急行線と、松本以外にも広大な範囲で「首都圏エリア」が広まっていく。あわせて「東京近郊区間」も広がるのだろう。

 2025年春以降の、篠ノ井線・信越本線や大糸線でSuicaが利用できるようになるのも、その流れの一環である。「首都圏エリア」の駅として追加され、長野から松本経由で都心に行くようなケース(実際にはないと考えられる)でも、Suica一枚で全区間を通して乗れるのだ。

 現実にありうるケースとしては、篠ノ井線の利用者が長野駅経由で北陸新幹線に乗車し東京に向かう場合には、便利になる。

 首都圏エリアをさらに広げることで、JR東日本は「全駅でSuica」という長期戦略に一歩近づく。

 このところの青森・盛岡・秋田エリアでのSuica使用開始と合わせると、Suicaが地方にもどんどん広がっていくことになる。

 この長期戦略を実行するには、Suicaシステムの大きな変更が必要だった。

2025年からの長野県の新Suicaエリア(JR東日本プレスリリースより)
2025年からの長野県の新Suicaエリア(JR東日本プレスリリースより)

センターサーバー方式の導入がSuicaシステムを変える

 5月の青森・盛岡・秋田エリアでSuicaを導入する際には、「センターサーバー方式」を取り入れた。この方式を採用することで、従来は改札機内のコンピューターで計算していたものが、ネットワーク通信経由でセンターサーバーで処理できるようになった。

 青森・盛岡・秋田の北東北3エリアは45駅。このエリアのSuica使用可能駅はどんどん増えていくことだろう。JR東日本としては、Suicaエリアを広げるたびに改札機のコンピューターにあるプログラムを書き換えるというのは面倒なことである。

 この「センターサーバー方式」を、首都圏・仙台・新潟エリアでは2023年夏以降に順次導入する。新システムにより、Suicaエリアの統合が可能になり、やがてはJR東日本全駅でSuicaを利用できるようになる。

 長野駅までSuica首都圏エリアが拡大するころには、首都圏エリアでもSuicaは「センターサーバー方式」となっており、広大なエリアの複雑な運賃計算を通信回線経由で一気に処理することができるようになっている。

 もちろん、長野駅周辺だけの利用はあっという間に。長距離の普通列車利用も、それとはコンマ秒以下の処理速度の違いしかない程度で運賃を計算し、Suicaから引き落とすことができるようになる。コンピューターの性能の向上と、回線速度の向上が、こういったことを可能にしたのだ。

相互利用の交通系ICカードはどこまで広がるのか?

 JR東日本では、エリアの全県庁所在地で相互利用可能な交通系ICカードが利用できることになった。JR北海道・JR九州でも、全道府県庁所在地で交通系ICカードは利用可能だ。JR東海は、三重県の県庁所在地である津駅では交通系ICカードは利用できないものの、近鉄で利用できるようになっている。そんなJR東海も、TOICAを全駅で利用可能にすることを検討している。

 意外と広いエリアで交通系ICカードが利用できるのはJR西日本のICOCAだ。県庁所在地駅で利用できないのは、鳥取駅しかない。ただ、ICOCAの場合は長距離利用に制限がある。

 JR四国でもICOCAを導入しているが、高松駅周辺だけである。愛媛・高知・徳島では、まだ利用できない。導入コストなどが問題となるのだろう。なお、いよてつやとさでん交通には、独自のICカードシステムがある。

 今後、交通系ICカードは大きな、経営体力のある鉄道会社でエリアを広めていくものの、システムへの投資が課題となってくる。また、利用者の少ない路線では費用対効果が低いという状況は依然としてある。

 JR東日本では、利用者の多いエリアから徐々にSuicaエリアを広めていった。JR東日本が相互利用可能な交通系ICカードを広めていけたのも、企業に体力があるからだ。それでもなお、コスト削減という課題を解決することが、エリア拡大には必要だった。

 そういった課題を解決できるようになってはじめて、「野望」は達成できる。Suica首都圏エリアの長野駅方面への拡大は、技術革新あってのものだといえる。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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