日本近海の海水温上昇が豪雨の一因になっている
九州や四国には発達した雨雲がかかり、高知県では1時間に95ミリ(レーダーによる解析雨量)の猛烈な雨が降っている所もあります。明日(7月1日)にかけて西日本~東日本で大雨に厳重な警戒が必要です。
今年の梅雨は波状的に豪雨がやってきています。昔の呼び方でいうと、いわゆる降るときにはどっと降る「陽性型」の梅雨と言えるでしょう。
先日は、長崎県佐世保市で72時間雨量が観測史上1位の445ミリを記録、また五島列島では50年に一度の大雨となるなど、九州の各地で記録的な豪雨に見舞われました。明日(7月1日)にかけて、再び西日本で大雨になる恐れがあり、さらに東日本も風雨が強まる見込みです。
明日にかけての大雨
今回の大雨も梅雨前線によるものですが、もう一つの特徴は豪雨と同時に発生する「湿舌」が現れていることです。
湿舌とは「高度3キロメートル付近に形成される湿った領域」のことで、「舌」のような形をしていることから元大阪気象台長・大谷東平氏が名付けた言葉です。この高度3キロよりさらに地面に近い所に湿った空気が流れ込むと、より豪雨が発生しやすくなります。そのため、昔から湿舌は集中豪雨の発生しやすい場所を判断する目安とされています。
そして今回、この湿舌内に入っている九州から四国、紀伊半島には、発達した積乱雲がライン上に並ぶ「線状降水帯」も発生しています。さらに、明日(7月1日)にかけて大雨の範囲は東海から関東地方へと移り、総雨量は場所によって500ミリを超える恐れもあります。気象庁からも大雨情報が発表されています。
今年の梅雨は降水量が多い
梅雨入り後の雨量をみると、宮崎県えびので、すでに1300ミリを超えるなど、東日本、西日本を中心に各地で平年の1.5~2倍の大雨となっています。
この大雨の原因のひとつと考えられるのが、海水温です。
海水温と大雨
ここ半月の東シナ海北部の海水温をみると、平年より2℃ほど高くなっています。
一般的に気温が1℃上がるごとに水蒸気量が7%程度増加すると言われていますが、海水温の上昇につれて大気中の水蒸気量がどの程度増えるのかは正確にはわかっていません。
しかしながら、気象研究所・藤部文昭氏の研究結果によると、過去35年(1979年~2013年)の海水温と1時間降水量の最大値の変動から、海水温1℃当たり、1時間降水量の年最大値は7%~19%増加していたとの報告や、東シナ海の海水温上昇にともなって九州での集中豪雨が増加する可能性があるとの研究報告(2014年東京大学・長崎大学・防災科学技術研究所・海洋研究開発機構 研究グループ発表)もあり、海水温の上昇が大雨をもたらす可能性は否定できません。
冬の海水温の高さが大雨に
ここで、日本近海の過去100年の海面水温の上昇率をみてみます。
2019年までの100年にわたる海面水温の上昇率は+1.14℃/100年、世界全体の海面水温上昇率(+0.55℃/100年)よりも大きくなっています。なかでも、東シナ海から日本海にかけての上昇率が顕著です。さらに季節別の上昇率をみてみると、夏に比べ秋から春、特に冬の値が突出しており、この100年で2℃前後も高くなっていることがわかります。
つまり冬の海水温が上昇し、下がりきらないまま夏を迎えることで、海水温のベースが上がり、より大雨のリスクが高まっていると言えるでしょう。
温暖化というと夏の高温を考えがちですが、実は冬の気温や海水温の高さが、大雨と連動していると考えられるわけです。
また、海水温の変化は気温と比べて目立ちにくいのですが、いったん上昇するとなかなか下がらないのが特徴です。ということはこの先も当面、日本近海の海水温は高い状態が続き、いつもの年よりも大雨リスクが高いと思われます。
付け加えると、気象庁の長期予報で今年の梅雨は全国的に雨量が多いとの予想も、日本近海の海水温が高いことがひとつの根拠となっています。
参考資料
気象庁 海面水温の長期変化傾向
温暖化に伴い強雨は増えるのか? -アメダス観測が示す気温と強雨の関係(気象研究所・藤部文昭氏)
東シナ海の水温上昇が梅雨期に九州で起こる集中豪雨の発生に影響 ― 2012 年「九州北部豪雨」の事例と今後の水温上昇に伴う将来の見通し ―
(東京大学先端科学技術研究センター・中村尚教授、長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科の万田敦昌准教授ら)